【電気を送るしくみの今とこれから】10_デンキのお仕事Ⅲ ~エコな時代に求められる高性能のカーバッテリー(ミカド電機工業/前編)~

    特集記事「デンキのお仕事」です。暮らしの中で重要な部分を担当しながら、普段あまり表に出て来ない分野に焦点を当てて電気にまつわる最新事情をお伝えします。第3回目は、仙台市若林区にあるミカド電機工業株式会社を取材しました。ミカド電機工業は当社と創業者が同じ会社です(参考:ミカド電装ヒストリー)。今回はカーバッテリーや電装品を扱っている同社の澤田一幸社長にお話を伺いました。※文中の敬称は省略させていただきます。

     

     

    エコカーの普及で高性能のバッテリーが求められています

    編集部:最初に御社について教えてください。

    ミカド電機工業株式会社
    澤田一幸 社長

    澤田:ひとことでお伝えすると「車の電気屋さん」です。取り扱いは自動車のバッテリー、カーナビ、ETC車載器などの卸販売、あとはスターターとかオルタネータなどのいわゆる電装品、そしてタクシーの料金メーターの販売と保守も行っています。当社は元々、創業者の祖父が大正15年に始めた会社です。当時、国産の乗用車はまだなく、車はすべて輸入車の時代。その頃から車の電気に携わっているというのは、当時としては先進的な仕事だったのかもしれません。
    編集部:そうなんですか。長い歴史の中で、特に最近変化を感じるようなことはありますか?
    澤田:はい。実は車のバッテリーというのは、鉛と希硫酸で充放電するという部分では、すでに完成された製品なんです。ですが、近年のエコカーの普及で、より高品質のものが求められるようになってきているんです。
    編集部:エコカー(省燃費仕様車)とバッテリーにはどんな関係があるんですか?

    澤田:最近の車は燃費をよくするためにオルタネータ(発電機)を止めたり動かしたり、細かい調節をするんですね。従来の車の場合、エンジンと共にぐるぐる回って発電しているオルタネータがバッテリーを満充電してしまうと、それ以降の発電は余剰電力になって捨てられてしまい、無駄が出ます。また、常にエンジンと一緒に回転している状態も、当然、負荷になるんです。そこでオルタネータの動きを制御することにより燃費の改善を図っているのがエコカーで、そのシステムを採用している車を充電制御車と呼んでいます。
    編集部:充電制御車・・・初めて聞きました。
    澤田:バッテリーには充電受け入れ性能という指標があって、同じ時間で充電したときに、より高い充電ができるような性能を指すんですが、充電制御車の場合は、充電受け入れ性能が高いバッテリーじゃないと、充電がなかなかされないことがあるんです。
    編集部:確かに充放電の頻度も増えますから、高品質なバッテリーが必要になりますよね。

     

    低燃費を実現させるためには、車の特性に合わせた専用バッテリーが必要です

    澤田:最近では、オルタネータだけでなく、エンジンを止めアイドリングをしない車が増えています。
    編集部:アイドリングをしない?
    澤田:はい、アイドリングストップ車と呼ばれていますが、近年発売される車の大半がそのようになっています。これにも専用のバッテリーが必要です。アイドリングストップ車に従来のバッテリーを装着することは厳禁です。アイドリングストップをしなくなることもあります。
    編集部:そうなんですか!そういうことは、皆さん、ご存知なんですか?
    澤田:知らないお客様もいらっしゃると思います。充電制御車やアイドリングストップ車は、交換の段階で希に普通のバッテリーを付けてしまうこともあるんですよ。ですから注意が必要です。車のエンジンは、お客様の走り方にもよりますけど、止めたり掛けたりしても、せいぜい1日に10回ぐらいですよね。ところがアイドリングストップ車は信号待ちのたびに何十回、あるいは何百回と停止と始動を繰り返すので、バッテリーにかかる負荷がものすごく大きいんです。だから性能のいい電池が必要なんです。
    編集部:そうなんですか。私自身が中古車に乗っているせいでしょうか、バッテリー交換と言えば、量販店に行って価格的にお手頃なものを選ぶ感覚でしたが…
    澤田:最近の車は、昔よりもバッテリーの品質が問われるものが多いです。ハイブリッド車も同様で、ハイブリッドにはハイブリッド専用のバッテリーがあります。ハイブリッドは車の構造上、バッテリーがトランクや座席の下にあるものもあります。車の車室内部にあるということは、引火事故などの危険防止のために、バッテリーから発生するガスを最小限にとどめ、万が一過充電でガスが発生しても、車外に逃す専用の排気構造が必要になります。そのためVRLA(制御弁方式)と言う密閉型の専用バッテリーが用意されています。更には、自動車メーカーの設計思想から、欧州のEN規格バッテリーの採用も増え始めています。
    編集部:車の低燃費を実現させるためには、その分、高機能のバッテリーがー不可欠になってくるということなんですね。
    澤田:そうなんです。(つづく)

     

    (編集部)エコカーの実現には高性能のバッテリーが必要とわかり、まさに縁の下の力持ちであることを痛感した私です。ミカド電機の澤田社長からは、ほかにも興味深いお話をたくさん伺いました。次回は、今、需要が大きく伸びている車両管理システムについてもお伝えいたします。


    取材先:ミカド電機工業株式会社 お話:澤田一幸 代表取締役社長
    取材日:2017年3月24日 ミカドONLINE編集部