
サーバーを液体に沈める
PCを使用していると、内部のファンが音を立てて回ることがあります。これは、機器の中に空気を流し、熱くなった部品から熱を逃がすためです。
膨大なデータを使用するデータセンターでも基本的な考えは似ています。沢山のサーバーが並ぶ室内に冷たい空気を送り、熱くなった空気を回収して、高温になりすぎないようにしています。これが空冷です。しかし、空気だけでは効率よく冷やすことが難しい場面が出てきます。
そこで、熱を出しているサーバーそのものを、電気を通しにくい特殊な冷却液に浸してしまうのが液浸冷却です。
液体は、空気よりも多くの熱を受け取り、運ぶことができます。そのため、サーバーの部品から発生した熱を冷却液から直接受け取り、外へ運び出すことができます。
液浸冷却には、主に「単相式」と「二相式」という二つの方法があります。

単相式は、冷却液が液体の状態を保ったまま熱を運ぶ方法です。サーバーから熱を受け取って温かくなった液体を循環させ、別の場所で熱を逃がしてから、再びサーバーのもとへ戻します。
一方の二相式は、液体が気体に変わるときに熱を奪う性質を利用します。サーバーの熱で冷却液が沸騰して気体になり、その気体を冷やして再び液体へ戻します。
ただし、サーバーを液体の入った箱に沈めれば、それだけで完成するわけではありません。実際には、温まった冷却液を循環させる装置や、受け取った熱を外へ逃がす設備、温度を監視する仕組みなどを組み合わせ、一つの冷却システムとして運用します。
冷やすための電気を減らす
液浸冷却が注目される大きな理由の一つが、データセンターの「冷やすための電気を減らせる」可能性があることです。
データセンターでは、サーバーを動かすためだけに電気を使っているわけではありません。サーバーが熱くなりすぎないように、空調設備やファン、ポンプなどを動かすためにも電気が必要です。つまり、私たちがAIやクラウドサービスを使う裏側では、計算するための電気と同時に、そのコンピューターを冷やすための電気も使われています。
液浸冷却では、サーバーの熱を冷却液が直接受け取ります。そのため、部屋全体へ大量の冷たい空気を送り続ける方法と比べて、冷却に必要な電力を抑えられる可能性があります。
実際に国内でも、その効果を確かめる実証が行われています。
KDDI、三菱重工業、NECネッツエスアイがKDDI小山ネットワークセンターで行った実証では、100kVA相当のIT機器を用いた液浸冷却システムと、外気を利用する冷却設備を組み合わせました。その結果、従来型のデータセンターと比較して、サーバーを冷やすために使う電力を94%削減したと発表しています。
簡単ではない実装
ここまで便利ならばすべてのデータセンターを液浸冷却にすれば良いのでは?と思うかもしれません。しかし、そう簡単ではないのが現状です。
まず、現在使われている全てのサーバーが液体に沈めることを前提に作られているわけではありません。サーバーの中には、ケーブルや樹脂など、様々な材料が使われています。それが冷却液の中で長期間使われても問題ないか、部品や材料と冷却液との相性を確認する必要があります。
新しい技術を実際のデータセンターへ導入するには、液浸冷却装置だけでなく、建物や配管、電源設備、監視システム、保守の方法まで考えなければなりません。
NTTデータは2024年11月、千葉県野田市に、液体を使ったサーバー冷却技術を実際の設備で検証する「Data Center Trial Field」を開設しました。同社は、液体冷却技術を導入するうえで、メーカーごとに設備の仕様が異なることや、配管を施工する会社、装置メーカー、設計会社、データセンターを運用する事業者など、さまざまな関係者の連携が必要になることを課題として挙げています。
つまり、液浸冷却は「本当に冷えるのか」だけを確かめればよい技術ではありません。
安全に設置できるのか。長期間安定して使えるのか。故障したときに修理できるのか。冷却液をどう管理するのか。そして、導入にかかる費用に見合う効果が得られるのか。
実際に広く使っていくためには、こうした一つひとつの課題を解決していく必要があります。
JEITA(電子情報技術産業協会)が2023年に公表した調査でも、調査対象となった国内のデータセンターでは、水冷や液浸冷却の導入はまだ少ない状況が示されていました。一方、その後の2024年の調査では、ラック当たりの発熱量が20kW以上になると液冷方式が適しており、今後さらに発熱量が増えることから、液冷に対応したデータセンターの整備が進むとの見方が示されています。
ここで大切なのは、「空冷が古くなり、すべて液浸冷却に置き換わる」と考えないことです。
必要な冷却方法は、サーバーの性能や発熱量、建物の条件、導入コスト、運用方法によって異なります。従来の空冷が適している場所もあれば、CPUやGPUなど発熱の大きな部品に冷却液を届ける方式が適している場合もあります。そして、さらに高い冷却能力が必要な場面では、液浸冷却が選択肢になります。
私たちが何気なく使っているAIやクラウドサービス。その裏側では、サーバーを液体に沈めるという少し意外な方法まで使いながら、限られたエネルギーと空間をより効率よく使うための工夫が進んでいます。液浸冷却は、そんなデジタル社会の「見えない裏側」と、これからのエネルギーの使い方を考えるうえで、注目しておきたい技術の一つです。

「電子機器を液体に入れて大丈夫なのか」と驚きましたが、一見すると大胆に思える技術も、考え尽くした末にたどり着いた方法だと納得しました。
生成AIの広がりと共に、サーバーに求められる性能も、発生する熱への向き合い方も変わりつつあるのです。液浸冷却がこれからどのように活用されていくのか、引き続き注目です!
参考:経済産業省 METI Journal ONLINE「急増するデータセンターを超効率的に冷やす!『液浸冷却』の可能性」,KDDI「データセンター内のサーバーを液体冷却、冷却電力の94%減を達成」,富士通「サーバシステムのTCO削減を実現する『液浸冷却システム』を販売開始」,NTTデータ「データセンターにおける液体冷却技術の活用推進に向けて、『Data Center Trial Field』を開設」,ENEOS「液浸冷却とは|IXシリーズ」
























PCやスマートフォンを長く使っていると、本体が熱くなった経験はありませんか?これは、コンピューターの中で、半導体が計算を行うたびに熱が発生しているからです。
生成AIのように大量の計算を行うサービスが広がるなか、サーバーを効率よく冷やす方法がますます重要になってきています。そんな中で画期的なものが、「サーバーを液体に沈めて冷やす」という方法です。
電子機器を液体に入れて大丈夫なの?と思いますが、特殊な液体を使用することでかなっている方法なのです。今回は、サーバーを液体で冷やす液浸冷却についてご紹介します。