(58)大型蓄電池設備で収益を!〜 活性化してきた「蓄電所ビジネス」とは?〜

    みかドン ミカどん

    今回は近年活況を呈している蓄電所ビジネスについてのご紹介です。以前も記事にしたテーマですが、当時は情報が少なく、具体像がなかなかイメージできませんでした。今回はすでに稼働している事例もあるので、以前よりはわかりやすいかも?

    蓄電所ビジネスとは?

    2023年12月に稼働を開始したミツウロコグリーンエネルギーの仙台蓄電所:宮城野区(画像:PRTIMES

    2024年6月13日、日本ガイシとリコー、大和エナジー・インフラの3社が協同で蓄電所ビジネスに参入することを発表しました。

    日本ガイシやリコーが2026年に蓄電所ビジネス、NASとLIBを使い分け | 日経クロステック

    蓄電所ビジネス(または蓄電ビジネス)とは、蓄電所と呼ばれる大容量の蓄電池設備に電気を貯めて、電力価格の高い時間帯に電気を販売する電力系統用蓄電池の事業モデルです。

    そのための電気を価格が安い夜間に購入して蓄電したり、太陽光発電などの再生可能エネルギーから余剰電力を貯めて、売買の利ざやで収益を得ます。

    ほかにも電力不足のときに需給バランスを調整するための放電(販売)や4年後の供給を約束する入札制度で容量確保契約金を狙うなど、利益が得られる機会が複数あり、建設の技術、資金調達のノウハウ以外に、それらを臨機応変に組み合わせて最適な価格とタイミングで運用する能力も必要です。

    そこで従来の電気事業者だけでなく、再エネ事業者や蓄電池メーカー、投資会社、コンサル会社、電気の売買や需給管理を高度に運用できるIoTに強い会社などが協業し合い、次々とこのビジネスへの参入を表明しています。

    日本ガイシはNAS電池のメーカーですが、昨年、デジタル技術を保有するリコーと共に「NR-Power Lab」という新しい合弁会社をつくりました。そこに資金調達をサポートする投資会社の大和エナジー・インフラが加わり、このたびの参入表明となったようです。

    NR-Power Labは岩手銀行と岩銀グループ会社の協力を得て、岩手県内に建設予定の太陽光発電に実証設備を設置し、来月から実証を開始したのちに、2025年1月からの運用を目指しています。

    ※電力系統・・・元々は発電した電気を需要家に供給するために電力会社が設置した「送電網・配電網」のこと。現在は電力会社から分社化した一般送配電事業者がシステムを運営し、ここに売電を目的とする再エネ事業者等が設備を接続させています。
    ※NAS電池・・・負極にナトリウムを、正極に硫黄をつかった電力貯蔵用の大型大容量蓄電池。東京電力と共同研究を進めてきた日本ガイシが開発し、NASは同社の登録商標です。

    2022年の法改正を機に続々と参入

    (画像:テレ東Biz

    電力系統(以下、系統)用の蓄電所はすでに稼働している施設がいくつかあります。

    そのうち仙台市宮城野区にあるミツウロコグリーンエネルギーの蓄電所(冒頭写真)は、再生可能エネルギーを手掛ける同社と、エネルギー開発やインフラコンサルを行う日本工営エナジーソリューションズが電力制御システムを共同開発し、システムの市場応札機能を用いて2024 年3月から電力需給調整市場での応札を開始しました。

    ネットニュースや各社のプレスリリースを見ると、現在は実に多くの企業が蓄電所ビジネスへの参入を公表しています。

    軽く検索しただけでも以下の企業が蓄電所を建設中(または計画中)の模様です。けれどこれはほんの一部かもしれません。

    ・NTT+東電+トヨタ
    ・千代田化工+ユーラス+北電
    ・関電+オリックス
    ・大阪ガス+伊藤忠+東京センチュリー
    ・東京ガス+ニジオ(東京ガス子会社)
    ・伊藤忠+豪州Akaysha Energy Pty
    ・伊藤忠+東急不動産グループ
    ・サーラコーポレーション
    ・エネオスホールディングス
    (順不同)

    蓄電所ビジネスが活性化した一番の大きな理由は2022年の電気事業法の改正です。

    それまでも大規模な蓄電所は存在していましたが、それらは発電所や変電所に併設される付属施設としての扱いでした。

    また、蓄電池は充電も放電も可能なので、蓄電池をそれだけの単独で電力系統に接続した場合には、電力を供給する側なのかされる側なのか線引きもあいまいでした。

    それが法律の改正によって「発電事業者」として位置づけられ、蓄電所が系統に接続する権利も認められました。

    もちろんそれによって厳しくなった要件はあるのですが、法律が整備されたことで企業がビジネスとして蓄電所を設置するハードルが大きく下がり、現在では異業種からの参入も活気を呈しています。

    いまさらですが、卸電力取引市場とは?

    日産リーフの使用済みEVバッテリーも活用する住友商事「千歳第一蓄電所」(画像:テレ東Biz

    電気を買う、電気を売るなどの言葉でここまで解説をしてきましたが、モノと違って形がないので、なかなかつかみにくい気がします。

    私たち消費者は「どこどこ会社の電気が安い」「〇〇サービスと組み合わせるとお得」などの情報で電力会社を切り替えればそれで済む話ですが、では、自社の発電設備を持っていない会社は誰がどうやってつくった電気を消費者に供給しているのでしょうか。

    それを可能にしているのが卸電力取引市場(以下、JEPX)の存在です。ここでは「卸電力市場(通常の売買)」「容量市場(4年後の供給力を売買)」「需給調整市場(電力不足時の供給力を売買」の3つの市場があり、それぞれの市場で会員となっている発電事業者と電力小売事業者が定められたルールと区分で電気を取引きしています。

    (参考)JEPX取引会員一覧

    といっても電気に目印が付いているわけではなく、たぶんネットで行う株取引のように、単に専用の画面で数字が行きかうだけのように思われますが(推測)、これによって発電所を持っていない事業者でも小売電力事業への参加が可能になりました。

    さらには大金を投資して回収の見込みが不透明な発電所を建設しなくても、蓄電池設備があれば売買の価格差を利用して儲けることもできるようになりました。

    それもこれも、すべては2016年にスタートした電力の自由化に端を発しています。電力の価格競争と柔軟な制度による安定供給を目指して始まった電力の自由化ですが、電力を取り巻くビジネスは日に日に様変わりしており、蓄電所ビジネスもまさにそのひとつといえそうです。

    (ミカドONLINE 編集部)


    参考/引用記事: テラスエナジー、九州に2カ所の蓄電所、自社で運用 – 特集 – メガソーラービジネス|日経BP 日本ガイシやリコーが2026年に蓄電所ビジネス、NASとLIBを使い分け | 日経クロステック(xTECH) ミツウロコグリーンエネルギーと共同開発の電力制御統合セントラル需給調整市場応札機能の開発完了(PDF) 蓄電所ビジネス新時代 企業が続々参入…どうやって利益を上げるのか 投資のチャンスはどこにある?【経済記者インサイト】(2023年9月29日) – YouTube 系統用蓄電池事業のビジネスモデルとは?|しろくま電力

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