気象:空の現象録(8)竜巻が増えている?激しい渦を生む空の条件

    住宅の屋根が飛ばされ、車が横転する。竜巻の映像を見ると、自分の家や職場で起きたらと思わずにはいられません。ニュースやSNSで目にして、以前より竜巻が増えたように感じている人も多いのではないでしょうか。

    日本の一部では、強い竜巻が発生しやすい気象条件が増えているという研究結果が出ています。さらに、調査の充実やスマートフォンの普及によって、これまで見逃されていた竜巻も記録に残るようになりました。

    竜巻を生む空気の動きから、気候の変化、記録が増えた理由までをたどります。

    竜巻が生まれるメカニズム

    竜巻は、発達した積乱雲に伴って生じ、地面や水面にまで達する激しい空気の渦です。住宅の屋根を飛ばしたり、車を横転させたりする力は、どのように生まれるのでしょうか。

    竜巻は、積乱雲などに伴って発生し、地面や水面にまで達する激しい空気の渦です。雲の底から伸びる漏斗状の雲や、巻き上げられた土ぼこりによって、その姿が見えます。

    竜巻の発生に深く関わるのが、雲の中を吹き上がる上昇気流です。

    地表付近の暖かく湿った空気が持ち上げられると、上空で冷やされ、水蒸気が水滴に変わって雲ができます。このとき水蒸気が放出する熱は、上昇する空気を暖めます。周囲より暖かく軽い状態を保てれば、空気はさらに上昇し、雲が高く育ちます。

    上空に冷たい空気が入ると、この上昇が起こりやすくなります。天気予報でいう「大気の状態が不安定」とは、こうした空気の上下の動きが起こりやすい状態です。

    ここに、高さによる風の向きや速さの違いが加わります。地表付近と上空で風の吹き方が異なると、空気に回転が生まれます。その回転が上昇気流に取り込まれ、回転する上昇気流を持つ積乱雲が発達することがあります。こうした雲の代表が「スーパーセル」です。

    スーパーセルの中や周辺には、上昇する空気だけでなく、雨とともに下降する空気もあります。それらの流れが作用し、地表近くの渦が上昇気流で引き伸ばされると、回転が強まり、竜巻に発達することがあります。

    日本の一部で増えている強い竜巻を生む条件

    この仕組みから分かるのは、竜巻の発生には、雲を育てる力と回転を生む風の両方が関わっているということです。

    北海道大学と海洋研究開発機構の研究グループは、1979~2021年の気象データなどを分析しました。2023年に発表された結果では、大気の不安定さや風の状態を組み合わせた指標の一部で、関東、九州、琉球地方に、強い竜巻が発生しやすい環境の増加傾向が見られました。

    研究で捉えたのは、実際の竜巻の個数ではなく、発生を後押しする条件の増加です。その背景には、積乱雲の上昇気流を支えるエネルギーが大きくなっていることがあります。

    地表付近の暖かく湿った空気は、雲の発達を支えます。上昇した空気が周囲より暖かい状態を保ちやすいほど、上へ向かう力は強まります。そこに回転を生む風の条件が重なると、強い竜巻につながる雲が育ちやすくなります。

    同じ研究では、温暖化が進んだ将来についても調べられています。世界の平均気温が産業革命前より2℃高くなった気候を計算すると、日本海側や関東などで、強い竜巻が発生しやすい環境が増えると予測されました。

    主な要因は、地表付近の水蒸気の増加です。水蒸気は雨の材料になると同時に、水滴に変わる際に熱を放出し、上昇気流を支えます。温暖化は、積乱雲を育てるエネルギーにも関わっているのです。

    調査とSNSが見逃されていた竜巻を記録する

    竜巻を生む環境の変化とともに、記録の増加に関わっているのが、調査方法や情報収集の変化です。

    竜巻は局地的な現象です。人のいない場所や沖合で発生すれば、目撃されずに消えることもあります。建物などの被害がなく、写真や映像も残らなければ、発生を記録する手がかりがありません。

    気象庁は1991年と2007年に、竜巻などの突風を調べる体制を強化しました。特に2007年以降は、報道や目撃情報を積極的に集め、詳しい現地調査を行っています。被害の広がりや物が倒れた方向などを調べることで、突風の原因を竜巻と特定できる事例が増えました。

    スマートフォンやSNSの普及も、その調査を支えています。海上で発生し、上陸せずに消えた竜巻も、撮影された映像があれば発生を裏付ける資料になります。気象庁は、携帯端末やSNSの普及と情報収集の強化によって、こうした水上の竜巻の確認数が大きく増えたと説明しています。

    ニュースにもSNSでの投稿が使用されることが増えています

    記録の増加には、これまで捉えられなかった現象が捉えられるようになった分も含まれてる、ということです。

    竜巻が増えた」という印象をたどると、発生しやすい気象条件の変化と、見逃されていた竜巻を記録できるようになった変化が見えてきます。

    その中でも、日本の一部で強い竜巻を生む条件が増えているという研究結果は、これからの暮らしに影響する話です。温暖化によって雲が育つ環境が変われば、私たちが経験する激しい気象の現れ方にも関わってきます。

    竜巻の映像には、家や車を動かす風のすさまじさが映ります。その背後で何が起きているのか、気象データや現地調査を重ねることで分かってきました。どこで発生したのか、どんな雲が育っていたのか、風向きがどうであったか。一つひとつの記録が、次の竜巻を予測するための手がかりになります。

    参考:気象庁-竜巻などの激しい突風とは,福岡管区気象台-竜巻Q&A,気象庁-数値予報による大気状態の予測,北海道大学 気象学研究室-竜巻発生環境の将来変化(Kawazoe et al., 2023)