気象:空の現象録(9)冬の海に現れる「気嵐」の仕組み

    冷え込んだ朝、海や川の水面から白い霧が立ち上り、大きな湯船から湯気が上がっているように見えることがあります。「気嵐(けあらし)」と呼ばれるこの現象は、風に揺れながら流れていく幻想的な姿で知られています。

    海が沸いているはずはないのに、どうして湯気のようなものが見えるのでしょうか。手がかりは、水面と空気の温度差にあります。その仕組みをたどると、冬の風景と、私たちが毎日使う冷暖房の技術にも共通する性質が見えてきます。

    北海道豊頃町の大津海岸で見られた気嵐(2023年2月撮影)
    写真:MaedaAkihiko『Jewelry-Ice Kearashi.jpg』/Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0(改変なし)

    白い霧の正体は?

    気嵐は、暖かい水面の上に冷たい空気が流れ込むことでできる「蒸気霧」の一種です。

    水は沸騰していなくても表面から蒸発するため、冷たい海や川からも水蒸気が空気中へ移っていきます。洗濯物を干しておくと乾くのも、同じように水分が蒸発するからです。

    この水蒸気そのものは透明で目には見えず、気嵐として白く見えているのは、水蒸気からできた無数の小さな水滴です。お茶やお風呂から上がる白い湯気も、同じように細かな水滴の集まりです。

    では、水面から出た水蒸気は、どのように水滴へ変わるのでしょうか。水面のすぐ上にある空気は熱と水蒸気を受け取って暖かく湿り、周囲の冷たい空気と混ざると、水蒸気の一部が細かな水滴に変わります。

    気体の水蒸気として存在できる量には、温度に応じた上限があります。温度が下がるとその上限も小さくなるため、水面から水蒸気を受け取った空気が冷やされると、水滴ができやすくなるのです。

    このように、気嵐は水蒸気の供給と冷却が重なって生まれるため、気温だけでなく水温との関係が大切です。

    北海道釧路総合振興局は、地域で見られる気嵐について、海水温と外気温の差が12~15℃以上になると発生すると紹介しています。実際には湿度や風などにも左右されますが、冬の海が湯気を立てているように見える理由を想像しやすい数字です。

    こうした温度差を生む要因の一つが、天気予報でも耳にする「放射冷却」です。晴れて風の弱い夜は、地面が熱を放出してその近くの空気もよく冷えるため、それより暖かい水面に空気が流れ込むと、気嵐ができる条件が整います。

    熱の受け渡しでも起こる?

    気嵐が生まれる過程では、水の姿が変わるだけでなく、熱の受け渡しも起きています。

    水が液体から気体になるにはエネルギーが必要なため、水面から蒸発するときには周囲から熱を受け取ります。汗が蒸発すると肌が冷えるのも、この性質によるものです。

    反対に、水蒸気が冷やされて液体の水滴に戻るときには、熱を周囲へ放出します。こうした状態の変化に伴って出入りする熱を「潜熱」といいます。気嵐の中では、蒸発による熱の吸収と、水滴ができるときの熱の放出が起きているのです。

    つまり、白い霧を見ているときには、水蒸気が水滴に変わるのと同時に、その場所で熱が周囲へ放出されています。

    この「液体が蒸発すると熱を吸収し、気体が液体に戻ると熱を放出する」という性質は、エアコンでも利用されています。

    寒い朝はつい足早に通り過ぎたくなりますが、水辺では、その冷え込みがあるからこそ出会える景色もあります。しっかりと防寒をして、安全な場所から気嵐を眺める時間は、冬の朝ならではの楽しみになりそうです。

    参考:冬を告げる幻想的な景色「気嵐」を知っていますか?,冬を運ぶ風物詩「気嵐」|日本の絶景 JTB 感動の瞬間(とき),蒸気霧 – Wikipedia,気象庁「はれるんランド」放射冷却の説明,日本機械学会「機械工学事典:潜熱」