【リチウムイオン電池講座】<斜め下から掘り下げる>⑨モバイルで普及したコバルト系リチウムイオン電池の熱暴走ってなに?

    みかドン ミカどん昨年年末まで連載していたリチウムイオン電池の簡単解説記事から、毎月特定の項目をピックアップし、リチウムイオン電池のさらなる雑学を斜め下から掘り下げる『リチウムの斜め下』シリーズです。(※このシリーズの全記事はこちら

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    今回のピックアップは熱暴走について

    以下は、当社会長の沢田が書いた『第4回 めんどくさいけど触れないわけにもいかない・・リチウムイオン電池のバリエーション』の一文です。

    1991年に世界で最初に商品化されたのもコバルト系でした。熱暴走の危険があることから自動車用には使用されず、スマホやパソコンなどモバイル機器を中心に使用されています。

    これまでの流れ

    リチウムイオン二次電池の足跡をたどると、理論が確立してからの開発は、ひたすらベストな正極材・負極材を求めてのたゆみない試行錯誤だったことがわかります。

    元素の中で一番イオン化しやすく金属の中で最も比重が軽いリチウムを電池につかうことは、理屈では可能でもその反応性の高さゆえに、安全性がボトルネックとなってなかなか実用化にはいたりませんでした。

    それに決着をつけたのが、正極材ではジョン・グッドイナフ博士と日本の水島公一博士のコバルト酸リチウム、負極材に炭素繊維を用い画期的な構造を考案して実用に先鞭をつけた旭化成の吉野彰博士。そして負極材に黒煙を使用して世界で初めて工業化(商品化)に成功したソニーの西美緒(よしお)博士です。

    ほかにも数多くの研究が集大成されて現在のようなリチウムイオン電池の産業化が形成され、、現在では正極にコバルト酸リチウム(LiCoO2)、負極に黒鉛(C)、電解質にはリチウム塩を用いたものが、モバイル機器などで一般的に広くつかわれています。

    コバルト系電池の熱暴走とは

    グッドイナフ博士と水島博士が正極材にコバルト系を選んだのは、エネルギー密度が高い素材だったからです。現在コバルト系リチウムイオン電池は最もバランスがよく安定した電池と言われています。

    けれど、エネルギー密度が高いということは、すなわち「反応しやすい」ことと同意です。リチウムイオン電池の負極材につかわれるコバルト酸リチウムは、結晶構造が崩れるときに酸素を放出するという特長があり、これが熱暴走にいたる要因となっています。

    「熱暴走」というのは、あることが引き金となって次々と連鎖的に発熱反応が起こっていくことで、高いエネルギーを持つ蓄電池ほど、これが起きやすいという二律背反の側面があります。

    リチウムイオン蓄電池の構造
    セパレータで絶縁された多重構造になっているリチウムイオン蓄電池の複雑な内部(日本電池工業会)

    具体的には、強い衝撃や圧迫、はさみなどの鋭利なものが刺さったりした場合などに電池構成部材のセパレータ(絶縁機能)が破れ、正極と負極が接触してしまう場合があります。

    電気回路で通常は離れていなくてはいけない2点間が接触してしまうことを短絡(ショート)と言いますが、電気抵抗がほとんどない状態で接触するため、この2点間には大きな電流が流れて発熱します。

    その加熱が負極と電解液を反応させ、電解液自体も分解させ、正極と電解液も反応させるばかりでなく、ショートした時の火花やコバルト結晶構造の崩壊による酸素の放出などで発火にいたることがあります。これが熱暴走です。

    また、物理的な刺激のみならず、過充電などでも同様の反応が起こります。

    現在は様々な安全策が取られています

    スマートフォン現在では充電時の電圧電力制御をマイクロコンピュータで簡単に行なえるようになったため、安全に使えるようになりました。携帯電話の場合は、端末内部にFET(Field Effect Transistor)を利用した過充電保護回路を組み込んでおり、ユーザーは特に意識することなく、充電して携帯電話を利用できるようになっています。

    ただし、海外製品などでは、安全策に疑問のある製品も出回っていますので、価格だけを重視せず、リチウムイオン蓄電池は身元のはっきりした正規メーカーの正規品を購入することがトラブル防止につながります。

    ですが、物理的な刺激に関してはユーザー側も配慮しなければいけません。モバイル機器の劇的な普及を可能にしたコバルト系リチウムイオン蓄電池ですが、安全につかって充実したモバイルライフを楽しみたいものですね。