ミカドサイエンス&テクノロジー講座(6)カーボンオフセット。CO2ゼロが自力で無理ならお金で解決?

    みかドン ミカどん

    問題です。電気自動車専門メーカーのテスラ(米国)は自動車以外のあるものを売って巨額の利益を得ていますがそれは何でしょうか?世界的に電気自動車の売上はまだまだですが、それでもテスラの収益が拡大しているのはCO2排出権を売っているからです。今回はビジネスになりつつあるカーボンオフセットについて解説します。

    ライバル会社が続々とテスラに大金を払っている

    カーボンオフセット。温室効果ガスゼロが自力で無理ならお金で解決?_tesla

    上のグラフは電気自動車(EV)専門メーカーのテスラがCO2の排出権を売った収益の推移です。ここ数年は伸びが加速して今年(2020年)はすでに前年の2倍近い水準となり、12億ドル近い規模にまで達しています。

    背景には自動車業界における近年の厳しいCO2排出量規制があります。欧州における規制については先にこちらで解説しましたが、米国でもカリフォルニア州が販売台数の一定割合を電気自動車にするよう義務付けており、基準未達のメーカーは罰金を払うか、基準をクリアしているメーカーから余った排出枠を買うしかありません。

    (過去記事)エネマネ最新事情(24) ~ホンダがEV発売、F1撤退。何が何でもEVを作らなければならなかったCAFE規制ってなに?~

    テスラは電気自動車専門メーカーなので、同社が販売する車はCO2を一切排出しません。そのため余った排出枠をほかの自動車メーカーが大金を払って購入し、それを罰金対策にしています。それでも安上がりになるほど、罰金の額のほうがずっと大きいのです。

    2017にはトヨタ自動車がテスラから排出枠(クレジット)を大量に購入したことが明らかになりました。昨年はフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)がテスラに巨額のお金を支払って提携の契約を結びました。それによってFCAが販売する車は欧州地域でテスラの車とグループ化されることになり規制の影響がやわらぐ見込みになりました。

    強化される規制で一大ビジネスになりつつあるカーボンオフセット

    カナダに本社を置く配車アプリの「Facedrive」では、乗客がドライバーを呼ぶ際に、電気自動車、ハイブリッド車、ガソリン車のどれを利用するかを選択することができます。そして移動距離から算出されるCO2排出量が植林プロジェクトへの寄付金に変換されて利用料金に上乗せされます。

    そう聞くと個人的には、料金が高くなるサービスをいったい誰が利用するのか?という疑問も残りますが、ニーズがあってのことでしょうし、利用者の負担にならない料金設定がされているのかもしれません。何よりこの運営会社はそれによって営業によるCO2排出量を削減できるため企業の社会的責任を果たしていることを公言できます。

    植林プロジェクトに寄付することがなぜCO2削減になるかというと、樹木は二酸化炭素を吸収してくれるため、それを金銭的に支援することもまた地球温暖化防止に貢献するという考え方です。

    このようにCO2(などの温室効果ガス)を直接自分達で減らすことはできなくても、ほかの手段で地球全体の温室効果ガスを減らしてCO2の削減成果とする考え方をカーボンオフセットと言います。

    オフセットとは「相殺」「埋め合わせ」という意味があり、カーボンオフセットとは努力してもなお削減しきれないCO2について別の場所で削減・吸収に取り組んだり、それらの活動に投資して埋め合わせる代替措置です。

    カーボンオフセットは削減量がきちんと計算されていて公的に認められている内容であれば、「CO2を削減した」と正当に見なされるため、自力で目標達成が難しい事業者にとっては残された唯一の方法になることが多く、特に金銭的なカーボンオフセットは需要が増大しています。

    そのため自助努力ですでに削減量が目標を上回り余剰が出ている企業や森林組合など元々エコな業種にとっては、余った削減量を売って収益にする絶好の機会となっており、CO2削減の排出枠の売買は世界で大きなビジネスとなりつつあります。

    先月(10/26)菅首相が「2050年までに温室効果ガス実質ゼロ」を宣言したため、すでに取引が盛んな欧州や米国の後を追って日本でも今後取引量が大きく増えると思われます。

    日本の場合はJ-クレジット制度。気になるお値段は?

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    CO2削減のために売買される排出枠はクレジットと呼ばれています。自社のCO2削減量をカーボンオフセットで減らすためには公に認められているクレジットを購入する必要がありますが、日本国内での代表的なカーボンオフセット認証制度としてJ-クレジットがあります。

    これは温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証するもので、以前は別々に運用されていた経済産業省の国内クレジット制度と環境省のオフセット・クレジット(J-VER)制度が発展的に統合したものです。

    J-クレジットでは申請があったものを審査し、認証したクレジットをサイトに掲載しています。また売り出し中のクレジットも掲載してマッチングも支援しています。取引単位はt-CO2(二酸化炭素トン)で、これは異なる6種類の温室効果ガスをCO2基準で換算して重量で表したものです。

    (参照)売り出しクレジット一覧 | J-クレジット制度

    J-クレジット制度では掲載のみで仲介はしていないので、残念ながら価格等は事業者同士の話し合いとされていますが、2016年のこちらのコラム(PDF)では”CO2 1トンあたり 1,000 円程度の相場”と記載されています。

    カーボンオフセットは、前述のカナダの配車アプリのように効果の大きい手立てを持てない業種にとっては救いになる反面、実質的な削減になっていない点や、事業者が削減努力をサボるのではないか?という課題もあり論議が続いている考え方です。総体的には「何もしないよりずっといい」という発想になるのかもしれません。

    今回はサイエンスでもテクノロジーでもありませんが、記事作成の参照資料で最近とてもよく見かけるようになったカーボンオフセットを中心に書いてみました。

    (ミカドONLINE編集部)


    出典/参考記事:テスラの「排出権取引」って一体何なの? トヨタがテスラから規制対応で排出枠を爆買い 排出したCO2をカーボンオフセットできる配車アプリ「Facedrive」 カーボンオフセットとは・意味 t-CO2とは | 施工管理技士のお仕事で良く使う建設用語辞典 ちょっと気になるJ-クレジット制度の話題をコラムでお届け など