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今回は「これからのエネルギーシステム」と題し、電力の未来についてまとめてみました。(表伸也)
4つの可能性でとらえる電力の未来
電力は既に不可欠でどこにでもあるものになっています。今後の電力システムは再生可能で多様、分散化して回復力の大きい、顧客志向のものに変わらなければなりません。
次に来る電力システムを次の4つのケースで考えてみます。
①現状維持
②移行
③再生
④転換
①現状維持
これまでのものを、そのまま大きくしようとするケースです。しかし、未来は過去と同じではなく、「これまで通りやる」ことでは対応できません。現在ある電力インフラは老朽化し時代遅れとなっています。また、インフラ自体もすでに規模の経済(スケールメリット)が発揮できない大きさにまでになっています。つまり、設備を増やしても電力価格は下がらなくなったのです。
環境に与える影響も大きいです。石炭火力による二酸化炭素などの温室効果ガスの排出も増加します。老朽化したこうした設備を同種のものに更新しようとしても、昨今のESG投資の観点から銀行の融資は得られないため、使い続けることになります。
再生可能エネルギー等に関する技術の進歩は、次々とイノベーションを起こしていくでしょう。したがって、この「現状維持」のケースが成立することは考えにくいです。行動しないことにもリスクはあります。
②移行
このケースが想定するのは、これまでの化石燃料を使った発電から、原子力発電及びCCS装置を備えた石炭火力発電に移行するものです。
しかし、原子力発電は発電時にCO2を排出しない画期的な発電システムではありますが、東日本大震災時の福島第一原発事故等での影響により、融資の獲得や世間の理解を得ることが難しく、新たな建設はできない状況でしょう。
CCSは、火力発電の排ガス中の二酸化炭素を回収し、地中深くに隔離貯蔵するシステムです。したがって、実証には多額の資金が必要な大規模プロジェクトとなり、また貯蔵の失敗による大量の二酸化炭素の大気中への放出リスクもあり、なかなか進みません。
したがって、このケースは従来の電力システムをそのままに炭素排出対策をおこなえる意味ではメリットがりますが、投資対象として魅力がなく(投資側のベネフィットが小さい)、なかなか普及しないのではないかと思われます。
③再生
このケースは、太陽・風力・地熱・バイオマス・小水力などの再生可能エネルギーによる発電などにより、2050年で温室効果ガス排出量の80%削減を実現するものです(第5次エネルギー基本計画)。
再生可能エネルギーは化石燃料と違い無料であり、その量も豊富です。以前は化石燃料を使う発電設備にくらべ資本コストが高かったですが、技術の進歩により現在ではかなり下がりつつあります。ただし、再生可能エネルギーによる発電は不安定であり、この変動と需要の変動両方に対応する系統運用オペレーションが必要であります。系統の安定運用には、蓄電システムが有効的です。
このケースにより、これまでの電力システムにあった伝統的な統括原価主義を基礎とする規制と、自然独占のビジネスモデルは根底から大きく揺さぶられ転換点を迎えると思われます。
④転換
このケースは、これまでの大規模集中型発電から、小規模分散型発電へ転換するものです。電力系統の制御は、これまでのトップダウン方式から、スマートグリッドと高度化した制御システムへ移行するでしょう。また、これまでの安定した高品質の集中型電力系統と、地域の小規模・低価格の分散型電源(マイクログリッド)が系統連系することで、自然災害等における停電の発生リスクを大きく低減することができます。
まだ様々な課題はあるが、このケースは前述の3ケースの本質的リスクを低減できる可能性があります。また、顧客ニーズの変化に迅速に、かつ、機敏に対応できます。
これら4ケースをモデル化しましたが、実際には無限の選択肢があります。その選択肢を選択する基準としては、コストの値ごろ感、技術的な実現可能性、安全性、信頼性、環境への責任と公衆の健康維持、一般社会の受容性、の6つです。
将来に向けて問題の解決策を見つけて増幅し、お互いに調和する様に持っていくことが、我々のやるべきことであります。
(次回につづく)
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表伸也(おもて しんや)
ミカド電装商事(株)取締役環境・エネルギー本部長 上席エネルギーコンサルタント
大手通信会社のエネルギー管理士として、大規模データセンター等のエネルギー管理業務に長年携わり、数多くの電力設備・空調設備等の省エネ実績を持つ。近年では、太陽光発電設備の設計・施工等創エネに関する実績も豊富な、エネルギーマネジメントのエキスパートである。2018年より環境省環境カウンセラー。
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