電気自動車の充電は今後「非接触型」に
電気自動車(EV)にワイヤレス給電を行う研究が進んでいます。ガソリンスタンドの給油形態をそのまま電気に置き換えたような従来のケーブル式充電では、増え続ける電池容量と充電効率の高出力化に対応できず、やがてEV普及のボトルネックになるそうです。
充電システムは高出力なものほど高コストで簡単に数を増やせないため、高性能のEVが普及すればするほど従来型のシステムでは充電に時間がかかり過ぎ、充電のための大渋滞を引き起こす可能性があります。
また、高出力に伴うケーブルの発熱問題などハード面を保護する技術の課題、そして2025年が目標とされているレベル4の完全自動運転の実現にも大きな障害となります。(レベル4=高度運転自動化=一定の路線や自動車専用道路、空港の敷地内など、限定された領域においてドライバーを必要としない自動運転)
ワイヤレス給電はWPT(Wireless Power Transfer)と略され、今後は工場やオフィス、一般家庭にも導入されていくと予想されている技術です。現在、EV用として一部が実用化されているものは、路面に埋め込んだ送電コイルから停車中の車両に給電するもので、車両の底に設置した受電コイルに電磁誘導の応用技術で電力を供給します。
しかし、これだけではEVの根本的な問題が解消されません。EVの根本的な問題、それは電池の問題です。
今年(2019年)の1月に発売された日産「新型リーフe+(イープラス)」には62kWhの電池が搭載されましたが、従来型の40kWhと比較すると、重量は310kgから440kgになり、充電時間は40分から60分に増えました。(バッテリー温度が約25℃、バッテリー残量警告灯が点灯した時点から、充電量80%まで)つまり大容量電池を使用する現行のEVは航続距離を延ばせば延ばすほど、車の性能や利便性が悪化するという矛盾を抱えているのです。
EVに大容量電池が必要なくなる?
そこで推進されているのが、一般道路の要所や高速道路にWPTの送電システムを埋設し、走りながら必要な電力を得られる「走行中給電(ダイナミックWPT)」です。
これが実現すれば、長距離走行用に大きくて重い大容量電池を搭載する必要がなくなり、ストレスなく気軽に無制限の長距離走行が可能になります。まさにEVエネルギーの供給イメージを根底から覆す夢のような技術ですね。
そのため、この2年間で国内外の研究機関や自動車関連メーカーなどが続々と開発に乗り出し始めました。中でも東洋電機製造と日本精工と東京大学大学院新領域創成科学研究科のグループが2016年に発表したダイナミックWPTは走行中給電の実地検証に成功し、翌2017年にIEEE Power Electronics Societyにおいて最優秀論文賞を受賞しました。(論文名:Development of Wireless In-Wheel Motor Using Magnetic Resonance Coupling)
このダイナミックWPTの特長は、受電装置をタイヤに取り付けたインホールモーター式の電気自動車を使うことです。インホイールモーターとは車輪と一体化した駆動モーターのことですが、従来型の走行中給電(ダイナミックWPT)が上のイラストのように車の底に取り付けた受電装置を使うのに対して、合同研究グループの技術は走行中のEVの駆動用モーターに直接供給する方式です。
これまでの走行中給電では、走行中に道路から非接触で供給される電力は、まずバッテリーに蓄えられ、このバッテリーの電力でモーターを駆動していました。ですが、この場合はバッテリーへの充電・バッテリーからの放電というそれぞれの段階で損失が発生します。これに対して、道路から供給された電力を直接インホイールモーターに送り込めれば、この損失がなくなり、効率が向上します。
また、通常の走行中給電では、車体の底面に取り付けたコイルで、道路から供給される電力を受けますが、道路にはかならず凹凸があるので、車体は上下し、これに伴って車体の底面と道路との距離も刻々と変化します。一方、合同研究グループのダイナミックWPTは、常に道路と接触している車輪に受電コイルを取り付けるので、道路側の送電コイルと、車輪側の受電コイルの距離は、一定に保たれます。
研究グループはインホールモーター式電気自動車の開発と、実際の走行中給電の実証実験に成功して一躍注目を浴びました。以下はそのときの動画ですが、思ったよりもゆっくりですね。でも実は、このスピードでかまわないのです。
敷設は信号機の手前30mの区間だけ
合同研究グループは神奈川県内の幹線道路214.9キロメートル(km)を実際にクルマで走行し、どのような場所にどれだけ滞在したかのデータを収集しました。それでわかったのが、信号機の停止線からの30メートル(m)区間に滞在した時間が全走行時間の約25%だったという事実です。
そして 214.9kmの道のりのうち、仮に信号機前30mの区間にだけWPTのシステムを敷設し、その上をEVが走った場合はどうなるのかシミュレーションしたところ、EVの電池はほとんど減らないことがわかりました。
また、信号間の距離が長かったり青信号が続いて止まらないなど、充電のタイミングを逸した場合や、逆に信号が多かったり渋滞等で充電率が上がった場合なども検証したところ、4kWhを超える程度の電池があれば増減を吸収できることがわかりました。つまり計算上は4kWh超の電池があれば事足りるわけで、これは新型日産リーフに搭載されている電池(62kWh)の15分の1以下ということになります。
日本経済新聞「EV走行中給電で長距離ドライブ 意外なほど低コスト」の試算によれば、日本の年間の新車約500万台がすべてケーブル充電式のEVになった場合の電池のコストは2兆5000億円/年ですが、信号機前WPTのシステムを全国のすべての交通信号機前に敷設した場合のコストは最大でも6240億円だそうです。
同サイトでは「社会に極めて大きなインパクトがある交通システムの大変革にしては、非常に低コスト」と述べられていますが、もしこれが本当に実現したら、EVもあり方も未来も大きく変わるに違いありません。車の値段も大幅に下がって普及に加速が付き、ガソリン車に乗っているのが恥ずかしい時代がやがて本当に訪れるのかもしれませんね。