企業や業界団体の仕切りを超えて構成され、他の国のデータも閲覧できる大規模なデータベースがいま世界の産業界で次々と構築されています。その背景を具体的に探りながら、日本版のウラノス・エコシステムについても解説します。
EUのデータ連携システムの一例「Skywise」スカイワイズ
2023年4月、経済産業省は、企業や業界を横断してデータを連携・活用する取り組みを「ウラノス・エコシステム」と命名したことを発表しました。
ウラノス・エコシステムは「企業や業界、国境を跨ぐデータ連携基盤」と定義されています。ですがそういわれてもわかりにくいですよね。
イメージしやすい一例をあげると、たとえば航空産業では欧州を中心に2017年からSkywise(スカイワイズ)というデータ連携サービスが稼働しています。これは部品工場から航空機メーカー、航空会社や空港事業者など、飛行機に携わる多業種の会社が参入して、自社のデータを提供し共有し合うシステムです。
このシステムに参加すれば部品の生産状況から運航による消耗具合、メンテナンスの内容まで、どの分野に携わる人でも簡単に見ることができます。
ここには日々の天候や飛行機の運行状況(フライトレポート、運行中断履歴、など)も提供されているので、部品メーカーは納品した部品の(実験データではない)真のライフサイクルや故障の原因を知ることができます。また、航空会社は運航の無駄をなくしたりデータを基に事故防止のプランを練りメーカーに改善を要求することもできます。
このシステムは元々エアバス社(本社:フランス)が自社のサプライチェーン(1万5000社)の製造データや技術情報を一元管理して生産効率を高めるためにつくられたものです。それを航空産業の全分野に有料で開放したことで、システムの利用者はそれぞれの改善に役立つ貴重な外部の情報が簡単に取得できるようになりました。
ウラノス・エコシステムは日本版データ連携システム
いまEUではこういったデータ連携の動きが加速しています。全産業を一括対象にした自律分散型のGAIA-X(ガイア-エックス)というシステムも計画されていますし、自動車業界に的を絞ったCatena-X(カテナエックス)というシステムはすでに運用が始まっています。
業界挙げてのCO2削減やバリューチェーンにおける環境デューデリジェンスが叫ばれる現在、サプライヤーもメーカーもユーザーも、川上から川下まで見通せないと無駄を見つけて省いていくことができません。そしてEUにとってのデータ連携システムは産業構造をより強固にすることでGAFAを擁する米国に対抗したいという狙いもあります。
こういった動きを受けて日本でも産業版のデータ連携システムを構築しようという気運が生まれました。そこでこれから実現していくであろうその未知のシステム(およびプロジェクト)に名付けられたのがウラノス・エコシステムです。
しかし企業各社が自社のデータを連携システムに接続して情報を公開・共有していくためにはクリアすべき課題が山ほどあります。
ライバル会社同士がどこまでの内容をどういったフォーマットで共有データベースに提供するのか。自動化のためのアプリ、個人情報の保護、侵入を防ぐセキュリティ、そのための企業間調整や協議、法整備・・・・
それらのうち、現実的な業界ごとの運用やルールはシステムのユーザーである各分野の企業チームが担当し、国(経済産業省)は、民間ベースでは推進が難しい全体の設計やしくみ、ルール、フォーマット、法律の策定などを担っていくようです。
そしゆくゆくはEUのCatena-X(カテナエックス)などとも可能な範囲で相互接続し合い、製品の仕様や日本の製品(自動車関連)が欧州ルールに合致していることなどが、海の向こうからも簡単に確認できる環境の構築を目指しているようです。
ウラノス・エコシステムのきっかけはEUの蓄電池トレーサビリティ
2023年8月17日、EUで「欧州バッテリー規則(EU Batteries Regulation:Regulation(EU)」が発効されました。これはバッテリーの環境負荷を減らすため、調達から製造、利用、リサイクルまでバッテリーのライフサイクル全体を1つの法律で規定した初のEU法です。
対象はEU域内で販売されるすべての電池(一次、二次)とされており、バッテリーのライフサイクル全体におけるCO2排出量や資源リサイクル率を欧州委員会に開示することが求められています。
それを受けてEUではバッテリーパスポートという蓄電池の国際規格がつくられ「なにからつくられ」「どこで加工され」「どのように消費された」というサプライチェーンの全体像や、バッテリー寿命などのライフサイクルを記録することが順次義務化されます。
この目的は蓄電池による環境負荷を極限まで減らすことですが、これにはコバルト・ニッケル・リチウム・黒鉛など資源採掘現場における労働環境への人権的な対処も含まれるため、まさに調達から製造・消費・再利用・廃棄までが総合的に管理されることになります。
EUによるこれらの規制や義務化は2026年にEV用のバッテリーから開始され、その後モバイル用や産業用バッテリーなどにも対象が拡大されていく見込みです。
そこで日本では国内の関連事業者が直接EUに申請するのではなく、EUのバッテリーパスポートと互換性のあるデータ連携システムを国内につくり相互接続をすべきだという結論になりました。
この構想に、他で進められていたデータ連携の仕組みなどを組み合わせて生まれたのがウラノス・エコシステムです。
国内の蓄電池分野に関してはNTTデータとデンソーが業界を横断するシステムの構築に向けて2022年から活動を開始しており2023年中の商用化を目指しています。そして今後は日本車が普及しているアジア諸国にも利用を広げていきたいそうです。
これらの流れを見ているとプラットフォーム構築はビジネスとして確立されつつあると感じますが、これもまた地球環境の保護を背景にした新しい付加価値と言えるのかもしれません。
(ミカドONLINE 編集部)
参考/引用記事: 日本版データ共有圏「ウラノス・エコシステム」とは? 欧州データ包囲網への対抗軸:製造業×IoT キーマンインタビュー(2/4 ページ) – MONOist 国内の議論も進む企業間データ流通インフラの実現構想 ~ウラノス・エコシステムが目指す国内産業界のデータ連携基盤~ | DATA INSIGHT | NTTデータ – NTT DATA 【バッテリーパスポートとは?】ブロックチェーンとの関係性をわかりやすく解説 「GAIA-X(ガイア-エックス)とカテナ-Xの衝撃 データ連携による巨大なエコシステムの台頭」 |2022年 | 藤野直明の視点 | 野村総合研究所(NRI) エアバス社のDX – 航空機製造からデータプラットフォーマーへ- | One Capital, Inc EUのバッテリー規則施行、サプライチェーンの「見える化」が急務 | DTFA Institute | デロイト トーマツ グループ サーキュラー・エコノミーを実現するバッテリートレーサビリティプラットフォームを構築 | NTTデータグループ – NTT DATA GROUP 欧州バッテリー規制とは|目的や背景から日本への影響まで解説 | 株式会社ゼロック 電動車向けバッテリーの業界横断エコシステムの構築開始 | ニュースルーム | ニュース | DENSO – 株式会社デンソー / Crafting the Core など
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