前回は電力のP2P(ピア・ツー・ピア)取引について書きましたが、それを可能にする技術が仮想通貨でもつかわれているブロックチェーンのしくみです。でもいったいなぜ?どういうこと?今回は電力のP2Pにも応用され始めたブロックチェーンの基本について調べてみました(※このシリーズのすべての記事はこちらです)
ブロックチェーンは取引と記録を参加者全員で運用するしくみ
ブロックチェーンはよく分散型台帳と言われます。けれど「どこか」にデータベースがあるわけではありません。ブロックチェーンは、世界中のすべての取引記録を暗号化+リサイズした文字列に変換し、それを全員で共有し合うしくみです。データは参加者全員のPCやスマートフォンの中にあり、常に同期しています。それらが全体で自律的に自動運用されているのが特色です。
といっても、サービスの開始から今に至るまでの膨大な全取引記録をすべての人が持っているのではなく、一般ユーザーが保持している記録はその一部です。ですが、相応のスペックがあれば誰でも全記録を持つことができます(それを他のユーザーがネット経由で参照します)。
ブロックチェーンでは、新たな取引が各地で行われると、その記録をどこかの誰かがまとめて単位ごと(ブロック)に暗号化し、元データに繋げて追加します。そのためブロックチェーンと呼ばれます。
更新された元データはインターネットを通じて参加者全員にリアルタイムで配信され、参加者は常に同じ最新データの全部、あるいはその一部をPCやスマホに置いている状態ということになります。
ちなみにビットコインでは、ブロックチェーンを更新してくれる人に報酬を出して(ビットコインがもらえる)更新の権限争いをさせています。
ビットコインではある条件を満たした人(のPCアプリ)が勝者となってブロックチェーンを更新しますが、その条件というのがシステム的なくじ引きに近いものなので、報酬が欲しい更新希望者(のPCアプリ)は当たりくじが出るまでくじを引き続けるような作業を、当選者が決まるまで延々と自動で行うそうです。
当選率は10分程度で勝者が決まる難易度に調整されているようですが、偶発性があって、高速計算に耐えられるPCと専用アプリさえあれば一応誰でも挑戦できるので、多くの更新希望者が常に世界中で競争しており、その体制もまた「自立運用」に大きな効果を発揮しています。
ブロックチェーンは管理者不在の自立システム
ブロックチェーンの大きな特徴は特定の管理者がいないことです。銀行でも証券会社でも自社のデータは自社が厳重に管理し、それを顧客がネットワークを通じて利用します。同様に、Amazonでも楽天でもAppleミュージックでも、およそ金銭取引が絡むすべてのしくみは、それをつくって実際に運用している主体が必ずありますが、ブロックチェーンではそれがありません。
大規模な顧客情報の流出や機密情報の漏洩は今もよくニュースになりますが、ブロックチェーンは逆に、全データを世界中に同時配信して(ビットコインでは個人が特定されない形式)全員で監視するしくみです。
もちろん監視といっても人間が目で見て行うのではなく、それぞれのPCやスマホのアプリが持ち主の知らないところで勝手に監視(チェック)しているのですが、膨大な数の全ユーザーに配信されている統一データと矛盾する取引記録は受け付けないシステムになっているため、改ざんされにくい堅牢な技術と言えます。
ブロックチェーンは不特定多数のリアルな1対1商取引に向く
ブロックチェーンでは同じデータをユーザー同士が世界中で同期させているため、集中管理のための高価なサーバーが不要ですし、当然、サーバーダウン等によるシステムの停止もありません。誰かがデータを改ざんしても、他の人に配信済みのデータと整合性が取れなければ拒否されるので、安価に自律的な運営ができる安全なサービスとして、いま、急速に注目が集まっている技術です。
「改ざんできない」という特長がなぜこれほど強調されるかというと、ブロックチェーンをつかったしくみにはユーザー同士の利害が大きく絡むことが多いからです。
金銭取引や品物の売買などの利害関係はわかりやすいので誰でもイメージできますが、たとえば、生き馬の目を抜くように競合するライバル会社同士や、何らかの方法で巨額の利益をだまし取ろうとする悪意の第三者など、ブロックチェーンには一般社会と同じく、様々な目論見の人たちが参加してきます。
そういった混とんとしてある意味、魑魅魍魎な大規模グローバル集団のすべての取引をチェックし、正当かつ安全に安定運用するためには、基幹システムに左右される中央集権的なしくみよりもむしろ、全員が全員を監視しながら有事にも自律的に補完し合える分散型運用のほうが、しくみとして優れており、かつ、多大なリソースも巨額の資金も必要としない、というのがブロックチェーンの考え方です。
こう書くと、過去に世間を驚かせた仮想通貨不正流出事件に言及したい方もいらっしゃると思いますが、これらの事件の問題点は取引所の方のセキュリティの甘さであり、ブロックチェーンの評価を下げるものではないようです。
もはや仮想通貨だけではないブロックチェーン技術
NTTテクノクロスによると、ブロックチェーンの特徴は以下の5項目だそうです。
①トレーサービリティ
(追跡可能)
②全員で情報を共有
③無停止(ゼロダウンタイム)
④データの改ざんが困難
⑤低コスト
当初は仮想通貨 ビットコインの土台になっている技術として関心が高まったブロックチェーンですが、前述のように「不特定多数の多様で膨大な取引を、安全+安定+安価に自律運用できる」点が注目を浴び始め、ブロックチェーンは急速に、将来性が期待できる革新的な技術という位置付けに変化しています。
具体的には、貿易決済や証券・不動産の取引、食品や資産価値のある商品のトレーサビリティの確認、契約条件を細部まで事前設定しておけば、多様な契約と決済が当事者同士でリアルタイムに自動実行される各種のスマートコントラクトシステムなど、期待される用途は広がりつつあります。
実際に仮想通貨以外にも、ユーザーがコンテンツを購入した時点で、販売店やサービス管理者を介さずにクリエイターにお金が支払われる音楽配信サイトや、ダイヤモンドのトレーサビリティ確認のためにもブロックチェーンが使われている事例があります。
総務省がネット公開している「ブロックチェーンの将来性と応用分野」というPDFがシンプルでわかりやすいのでそちらも併せてご覧ください。
要は決して怪しいものではなく、政府も活用を検討している正統な技術ということです。
さて電力のP2P取引もそういった潮流を背景に、各社で実証実験が開始されました。
ブロックチェーンはあくまでも基礎技術であるため、サービスに応じて適宜カスタマイズされ、今後は様々な分野の根底を支えていくと思われます。
クラウドの出始めは、「クラウドとはなんぞや」と、多くのエンジニアが難しい理論や技術解説をしましたが、浸透した今となっては、なんてことはない、「自分のPCではないどっかのサーバーに自分のデータを置く」ただそれだけです^^
ブロックチェーンもやがてそうなっていくのではないでしょうか。TVのしくみなどわからなくても誰もがTVを楽しめるように、ブロックチェーンの技術など知らなくても、当たり前のように日常的に使われている、そんな日が来るのではないかと思います。
これがわかるとさらに理解度アップ?
「これがわかるとブロックチェーンの理解度がさらに高まるのでは?」と感じた項目を、個人の独断と偏見で以下にピックアップしました。
①ファイル共有システム
自分のPCの一部の領域を、セキュリティ上問題のない形でネット上に公開し、その領域にあるファイルは誰もが利用できるしくみです。中央サーバーを必要としないP2P通信の先駆け的存在で、Winnyをつかったことがある方なら、なんとなくイメージしやすいのではないでしょうか。ブロックチェーンにもP2P(ピアツーピア)技術が使われてます。
②ハッシュ関数
どんな形式のどんな大きなデータでも、そのデータを16進数で64文字の文字列に変換してしまう関数の技術です。ちなみにこの記事の一部(3073文字分)をハッシュ関数(MD5)で変換するとこうなります → 8BC1F2A6E6BFE9F163BE2A5898103251 。3073文字分の文章がこのたった16文字に変わっちゃうんです、びっくりですよね。でも、「鍵」があれば、これを元に戻すことができるんです。
実際にはこれを復号して元データに戻す「鍵」のしくみなどが関わってきますが、ハッシュ関数で暗号化するだけならネットにもツールがありますので、皆さんもこちらで一度、試してみてください。
ブロックチェーンデータの最小単位はこの16文字の文字列で、それが連鎖して「ブロック」を生成していくわけですが、実際にはたった16文字の最小単位といえども、膨大な取引の記録が納められているはずです。
③DNS
これこそまさに独断と偏見の極みかもしれませんが(笑)分散型データベースと言えば、名前解決に使われているDNS(ドメインネームシステム)でしょう。
詳しくは書きませんが、DNSがなんとなくわかる方は、ブロックチェーンも「なんとなくわかる」のでは?と思いました。