驚異のエネマネ新技術(12) ~野焼きが規制されているもみ殻でガス発電~

    野外のゴミ焼却は原則として禁止されています

    2014年のライブドアニュースによると、今の学校から消えかかっていることに驚いたもののランキングは1位=アルコールランプ、2位=チョーク、3位=消石灰、4位=焼却炉、5位=チャイムだそうです。

    このうち4位の焼却炉はもう今の学校にはありません。プラスチックを燃やした時などに出るダイオキシンが問題となり、文科省が平成9年(1997年)に全国の学校に焼却炉の廃止を通達したからです。

    読者の皆さんの中には、教室のくずかごからゴミを集めて校内の焼却炉に捨てに行くのが日直や掃除当番の役目だったと記憶している方も多いのではないかと思いますが、現在、学校のゴミは専門の事業者に処理が委託されています。

    ダイオキシンは800℃以上(850℃以上の維持が望ましい。)の高温で2秒以上焼却すればほとんど発生しないと言われており、現在では大小を問わずその機能や構造等が基準を満たしていない焼却炉では、原則としてゴミの焼却処分が禁止されています。

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    同様の理由で、現在は焼却設備を用いずに産業廃棄物を屋外焼却するゴミの野焼きも禁止されています。厳しい罰則が設けられた平成13年(2001年)の廃棄物処理法の改正では、稲わらやもみ殻などの野焼きに関しては、”やむを得ない場合”に限り「一部の例外」としてグレーゾーンの扱いにはなっていますが、近年では、新興の住宅地と農地が隣接する区域を中心に、煙や臭いへの苦情やトラブルが多発しています。

    そのため通報があった場合は、市町村が住環境に支障を及ぼす迷惑行為として即座に停止を求めるケースが多く、地域によっては巡回パトロールを強化して焼却現場に行政指導したり(新潟県)、視界不良による交通障害防止のために条例で禁止するなど(秋田県)、事実上、大きく規制されています。

    また、”やむを得ない”とされる具体例を以下のように明記している自治体もあるため、大規模な農家が産業廃棄物として大量に出る稲わらやもみ殻などを、処分のためだけに焼却するのは完全にアウトと言えるでしょう。

    やむを得ない場合の例:
    *病害虫防除のための焼却
    *土壌改良のためのくん炭づくり、草木灰づくり
    *焼き畑農業

    ヤンマーエネルギーシステムが国内初小型ガス化発電システム

    ヤンマー「もみ殻ガス化発電システム」

    そういった現状を背景に、ヤンマーエネルギーシステムが2019年11月、稲作農業で発生するもみ殻を活用し、熱と電気を供給する「もみ殻ガス化発電システム」の実証を開始しました。

    これは今まで多くが廃棄処分されていたもみ殻を有効活用して電力と熱を供給することができるシステムで、もみ殻に特化した小型ガス化発電システムは国内初ということです。

    この発電システムでは、まずもみ殻を燃焼してガス化し、このガスで発電します。農林系のバイオマス発電には、燃料を直接燃やして蒸気をつくる方式と、高温蒸し焼きにした燃料から生成する可燃性ガスでエンジンを回す方式がありますが、ヤンマーのシステムは小規模発電に向く後者です。

    もみ殻は風で吹き飛ぶ軽さなので遠くに運ぶよりもすぐにその場で処理するほうが望ましく、そのため小規模分散型発電としての活用が念頭に置かれています。

    もみ殻ガス化発電システムの利用イメージ

    もみ殻ガス化発電システムの利用イメージ(画像:ヤンマー)

     

    このシステムではもみ殻の燃焼後に「くん炭」も得られます。「くん炭」はもみ殻を炭化したもので、多孔性で通気性がよく土壌改良材として用いられます。

    野焼きでつくる「くん炭」は低温でいぶす蒸し焼きなので大きな心配はありませんが、稲のもみ殻には約20%のケイ酸が含まれているため、適切な処理を行わずに高温で燃焼すると、結晶質シリカ(ケイ酸)という有害物質が発生します。

    ケイ酸はもみ殻を強固にしているガラス質の物質で、稲は土中からケイ酸を吸い上げ、もみ殻を鎧のように硬くしてお米を大切に守っているわけです。しかしケイ酸は高温で結晶化するため、もみ殻をつかったガス発電では燃焼時の抑制が課題でもありました。

    けれど、ヤンマーエネルギーシステムが開発した今回の発電システムでは、特許技術により有害物質を発生させずに処理できるため、くん炭を農地に還元することが可能になりました。

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    ソリューションイメージ(画像:ヤンマー)

    設備は毎年約200トンのもみ殻を処理している滋賀県彦根市のフクハラファームに導入され、出力15kW(キロワット)、年間7万5000kWh(キロワット時)の発電量を見込んでいます。

    実はヤンマーエネルギーシステムは2017年に同様のプラントをミャンマーに設置して実証実験を行い、ガス化発電事業への参入を模索していましたが、事業環境の変化から現地での投資回収を断念しました。ですので、今回の実証はそのリベンジと言えるのかもしれませんね。

    このシステムでは、もみ殻の処理費用を削減し、発電した電力自家消費し、さらにくん炭を農地に還元できるため、三拍子そろったトリジェネレーションシステムとして資源循環型農業にも貢献できると同社では考えています。

    稲わらやもみ殻などの農業残渣は処理方法や処理費用の問題が浮き彫りになってきていますが、農家の皆さんにとって朗報のシステムになればいいですね。

    今回はあっと驚くユニークな技術ではありませんが、ハンドルを握りながら目にする刈り取り後の田んぼを思い出しつつ、季節の話題として新しい”もみ殻処理”についてお伝えいたしました。

    (ミカドONLINE編集部)


    出典:
    イネの「もみ殻」で発電、ヤンマーが国内初の発電システムの実証を開始(スマートジャパン)
    5.もみ殻の野焼きについて(新潟市)
    STOP!稲わら焼き ~稲わらやもみ殻は焼かずに有効活用を~(秋田県)
    コントロール熱処理が実現する自然循環型農業(北陸テクノ)
    バイオマス活用推進専門会議 発表資料「籾殻ガス化発電技術」(ヤンマー)PDF
    バイオマスもみ殻研究会
    バイオマス発電の方式による違い(新宮エネルギー)
    バランスシート(ヤンマー)
    など。