(53) 人が乗れる有人ドローン!開発のカギは次世代「リチウム”硫黄”電池」

    みかドン ミカどん

    全世界で人が乗れるドローンが開発されています。有人ドローンや空飛ぶクルマなどとも呼ばれているこの大型ドローンの開発と普及のカギを握るのが次世代電池「リチウム硫黄」電池です。

    空飛ぶクルマとして大型有人ドローンが注目されています

    全世界で人が乗れる大型ドローンが開発されています。垂直離着陸が可能で電動で動くこの乗り物は滑走路が不要で騒音も小さく、温暖化ガスを排出することもありません。

    その上、整備コストもヘリコプターより安いため、離島・山間部への物資輸送や災害時の救急搬送だけでなく、移動のための個人利用などにも活用が見込まれており「空飛ぶクルマ」として期待が寄せられています。

    この大型有人ドローンはまだ開発段階のため商用化はされていません。ですが開発を手掛けるベンチャー企業にはすでに全世界で13,000機の注文が寄せられており、大変注目度の高い乗り物であることがわかります。

    そしてこの大型有人ドローンの今後を左右するのが、次世代電池と言われるリチウム硫黄電池です。(リチウムイオン電池ではなくリチウム”硫黄”電池です)

    電動モーターで空を飛ぶ装置の課題は搭載する電池の重さですが、リチウム硫黄電池は軽量で高出力のためこの課題を解決する存在として、こちらも国内外で開発競争が繰り広げられています。

    カギを握るリチウム硫黄電池は軽量・高出力で低価格

    (画像:NHK「サイエンスZERO」より)

    リチウム硫黄電池は正極に硫黄、負極にリチウム金属を使った電池です。大型有人ドローンと同じくまだ実用化はされていませんが、二次電池に硫黄を使うメリットが近年着目され、実用化されればドローンなどの飛行時間を大幅に伸ばすといわれています。

    硫黄は従来のリチウムイオン電池に比べて理論上は10倍のエネルギーを出せる素材です。そのため正極に硫黄を使えば大量の電子をキャッチできます。また硫黄はコバルトなどより原子量が小さいため軽量です。

    写真は関西大学で開発されたリチウム硫黄電池ですが、クレジットカードと同程度の大きさと薄さでも力強くモーターを回すことができており、リチウム硫黄電池が軽量で高出力であることがわかります。

    (画像:NHK「サイエンスZERO」より)

    リチウム硫黄電池にはもうひとつ利点があります。それは硫黄の資源量が豊富で材料を安価に調達できることです。

    日本は火山国なので硫黄の調達が容易ですが、硫黄は原油の精製過程でも大量に排出されるため、リチウムイオン電池で使われるレアメタルよりも安定して材料が得られることがさらなる強みでもあります。

    関西大学とGSユアサが硫黄の課題を解決して実用化に向け共同開発

    (画像:NHK「サイエンスZERO]より)

    しかし、リチウム硫黄電池にはこれまで大きな課題がふたつありました。ひとつは硫黄がほとんど電気を通さない絶縁体であること。電気を通さない物質を極版に用いるためには相応に難易度の高い工夫が必要になります。

    そしてもうひとつの課題は硫黄が電解液に溶けやすく電池の寿命が短いことです。蓄電池の寿命は充放電が可能な回数(サイクル数)で表されますが、スマホやノートPCで1000回、EV用では3000回が要求されるリチウムイオン電池のサイクル数に比べ、それまでに実証されていたリチウム硫黄電池のサイクル数は500回でした。

    関西大学とGSユアサは共同開発でこの課題に取り組み、ひとつめの課題は多孔質炭素の開発でクリアしました。これは正極の主材料に炭素を使い微細な穴に硫黄を充てんする技術です。炭素に硫黄を収める穴のサイズはなんと2ナノメートル。1ミリの50万分の1です。

    (画像:NHK「サイエンスZERO」より)

    そして電池の寿命の課題に対してはカーボネート系溶媒をベースとした新しい電解液を考案しました。この電解液は、正極と電解液の界面に保護被膜を形成する役割を果たします。これによって従来のエーテル系電解液を用いたリチウム硫黄電池に比べ、硫黄の溶出問題を大幅に改善できる結果になりました。

    2021年、GSユアサは「400Wh/kg級リチウム硫黄電池の実証に成功」したことを発表しました。

    GSユアサと関西大学は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の、電動航空機の開発を目指したプロジェクトに参画し、現在も実用化に向けた歩みを進めていますが、リチウム硫黄電池に取り組んでいる企業は国内外に複数あり、これからますます開発競争が激化していくと思われます。


    参考/引用記事: NHK「サイエンスZERO 空の移動革命!“空飛ぶクルマ”開発最前線」 リチウム硫黄電池は大化けするか | 電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞) 有人ドローンとヘリコプターの違いとは?価格や免許についても解説 | ドローンスクールナビ プロジェクトストーリー 01|株式会社 GSユアサ Recruiting Site トピックス(GSユアサ)/PDF NEDO航空機用先進システム実用化プロジェクト(軽量蓄電池)の中間目標達成~400 Wh/kg級-リチウム硫黄電池の実証に成功~|GSユアサ  など

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