(71)低音,低振動,低臭、EV船は船員不足や働き方改革にも貢献!

    みかドン ミカどん

    船舶にも電動化の波が押し寄せています。船のEV化は脱炭素や騒音の軽減に加え、「人にやさしい」点も注目されています。実はEV船のデメリットが逆に働き方改革につながっているんです。

    ハイブリッドEVコンテナ船の実証事業開始

    (画像:Marindows

    2024年4月、“交換式コンテナ蓄電池”を用いてゼロエミッション航行が可能な内航コンテナ船※の建造が発表されました。

    これは井本商運(本社:神戸)とMarindows(マリンドウズ/本社:東京都)が共同で行う日本発の試みで、大容量蓄電池とディーゼル発電機を組み合わせたハイブリッド型のEVコンテナ船です。

    通常、ハイブリッド型のEV船はディーゼル発電機の電力で走行し、離着岸時などは船内のバッテリーから、停泊中は陸上から給電を受けることで動力を得ていますが、同船ではコンテナ蓄電池の交換という新しいスタイルでのエネルギー補給が目玉です。

    これによって充電のための待ち時間が大幅に軽減され、かつ、充電設備がない港にも気候できるなど、大きなメリットが期待されています。

    また運行システムをオール電化にすることで、内航船向け次世代コックピットシステムや離着桟支援システムの実装が可能となり、長い年月をかけて勘と経験を養わなくても操舵技術が身に付くことから、船員不足の解消にも役立つとされています。

    これについてMarindowsの末次CEOは「より少人数、省スキルで船を動かせるようにすることが狙い。5年ぐらいで船長にまでなれるようにしていきたい」とコメントされています。

    こうした点が評価され、EVコンテナ船のプロジェクトは、環境省の「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」に採択されました。実証期間は2024年4月から2027年3月までとなっています。

    ※内航コンテナ船…日本国内の港間を航海し、コンテナを輸送する船舶

    世界初のEVタンカーはすでに稼働中

    前段でご紹介した二社のうちMarindows(マリンドウズ)は海事産業のDXを推進するスタートアップ企業です。Marindowsの末次CEOは、世界初の完全電気推進タンカーのプロジェクトにも携わりました。

    動画の船は海運業を営む旭タンカー(本社:東京都)が発注し、香川県丸亀市の造船会社、興亜産業が建造した「あさひ」です。「あさひ」は全長62メートル500トンの電気タンカーで、東京湾内で外航船に燃料輸送・燃料補給を行うバンカリング船として2022年に竣工しました。

    モーターで動くため、騒音や振動が少なく油の臭いもしません。また重油を燃やして走る従来のタンカーは、熱気のこもったエンジンルームで汗だくになって作業しなければなりませんでしたが、電気タンカーではその必要がありません。

    「あさひ」の動力源は3480kwのリチウム電池に蓄えられた電力です。1回の充電で10~12時間運航できますが、長距離を航海する船ではないため、それで十分なのだそうです。そして25mプール二杯分の重油(約1000トン)を積んで東京湾内を行き来します。充電は川崎港で行い、東京電力から再生可能エネルギー由来の電力を購入しています。

    Marindowsの末次CEOはこの船のデジタル化と通信インフラの整備を担当し、EV船の運航効率や安全性の向上に貢献したそうです。

    ハイテク、快適、そしてうれしい時短と日勤!

    完全電気推進タンカー「あさひ」は360度旋回可能なプロペラを装備したハイテク船です。そのため前にも後ろにも右にも左にも船の向きを変えずにそのまま移動できます。そして操縦は舵輪ではなく、なんとゲーム機のようなジョイスティック!これによって直感的に船を動かせるとのこと。

    また居室や食堂、キッチンは乗組員が快適に過ごせるように配慮され、各部屋には小さ
    な冷蔵庫もあるそうです。

    EV船ではスタッフの働き方にも大きな変化がありました。ボタン一つですぐに起動するため、ディーゼル船で始業前に行っていたエンジンの暖機運転が不要になり、出航の2時間前から乗船しなくてもよくなったのです。

    2023年、旭タンカーではにEVの2号船「あかり」も竣工させました。EV船は給油のために夜には必ず港に戻らなくてはいけないというデメリットがあります。ですがこれが逆に働き方改革につながり、今後は泊りのない日勤シフトも可能になるかもしれませんね。

    ちなみに車のEVは「Electric Vehicle」の略ですが、電気タンカーのEVは同じEVでも「Electric Vesse(l船)」の略とのこと。

    このサイトの過去記事で、かつて「船舶輸送は脱炭素が一番遅れているインフラ」と書いた記憶がありますが、船の世界でも着々と環境と人にやさしい仕組みの導入が進み始めているようです。

    (ミカドONLINE 編集部)


    参考/引用記事: 船も「スマホ化」? ついに建造「EVコンテナ船」海運を変えるか 電気も“貨物”!? 永遠に古びないかもしれないコンセプトとは | 乗りものニュース 世界初の「EVタンカー」がもたらした”海の働き方改革”とは? 3隻揃ったEV船が”いま”生まれた理由 – Yahoo!ニュース 世界初、EVタンカー「あさひ」に潜入取材!脱炭素化だけでない船のEV革命とは? – EV DAYS | 東京電力エナジーパートナー  など

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