驚異のエネマネ新技術(18) ~羽根のない風力発電は風で揺らして電気を起こす~

    みかドン ミカどん世界と日本の新しい技術をご紹介するコーナーです。さて風力発電と聞けば、たいていの人が海岸沿いの山の上に立っている巨大な風車を思い浮かべるのではないでしょうか?ところがいま、スペインのスタートアップ企業が、羽根のまったくない、まるで電柱のような風力発電機を開発中です。

    これが風力発電?電柱のような物体が風に揺れている

    上の動画はスペインのスタートアップ企業Vortex Bladeless(ボルテックス ブラデレス/以
    下、Vortex社)が開発したまったく新しい風力発電装置です。現在はまだ開発段階ですが、順調にいけば今年中に販売が開始される予定です。

    この装置は風力発電機ですが、棒状の外観が電柱にそっくりで羽根がありません。
    動画を再生するとすぐにわかりますが、これは支柱本体が風に揺れることで発電を行う振動発電機なのです。しかもとってもコンパクト。モデルは以下の3種類があり用途や設置場所に応じて使い分けが可能です。

    • ボルテックスナノ :高さ1m、出力3W。 主に低消費電力システム用。小型ながらソーラーパネルと連携させて、効率よく電力を生み出します。
    • ボルテックスタコマ :高さ2.75メートル、出力100W。 主に小規模な住宅や農地での風力発電用に設計され、ソーラーパネルとの連携を想定しています。
    • ボルテックスアトランティス/グランド:高さ9〜13メートル、出力1kW前後。住宅・農村の自家発電および工場への設置を想定したモデルです。

    このうち、実用化を目指しているのはボルテックスタコマで、軽さや設置のしやすさから、自宅の屋根や庭などへの導入を念頭に置いています。
    販売価格は1基あたり200ユーロ前後(日本円で約2万4000円前後)になる予定とのことです。随分お手頃な価格なんですね。

    橋げた崩落事故の映像にヒントを得た共振のしくみ

    Electromagnetic induction中学生や高校生のときに習ったように、電流は磁界の変化で発生します(電磁誘導)。そのため磁石が動けば、何らかの形で電気を起こすことは可能であり、車の振動を利用した発電は日本でも実用化されています。
    けれどプロペラを使わずに風の運動エネルギーを取り出すのは非常に難しくそこにVortex社ならではの工夫があります。

    開発者のデビッド・ヤニェス氏は1940年にアメリカで起こった吊り橋崩落事故の古い映像を見て“渦励振(うずれいしん)”と呼ばれる共振作用に着目しました。渦励振とは、各物体が持つ固有振動数と、風が円柱などに当たって発生する空気の渦の周波数が一致したときに、共振が起こって振幅が増大する現象です。
    1940年のタコマナローズ橋の事故では、橋がねじれるように大きくうねり、最終的に渦励振の力で橋げたが落下したとされています(現在は否定する意見もあります)。

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    David Yáñez氏(画像:Vortex Bladeless Ltd.)

    渦励振は建築物にとって悩ましい課題となる厄介者ですが、デビッド氏はその映像を見て“橋を壊すほどのエネルギーがあるならば、コントロールして発電につなげられるのではないか”という逆転の発想に至りました。

    とは言え、渦励振はまさに「風まかせ」の現象なので、簡単に引き起こせるわけではありません。空気の周波数は常に変化しているため、それに追随するように常に発電機の周波数を合わせないと”共振”は発生しないのです。
    そこでVortex社は、自動的に発電機側の振動数を調整する独自のチューニングシステムを開発して、風速3mからでも共振を引き起こし、円柱を大きく揺らして発電を開始・維持できる仕組みを作り上げました。

    従来の風力発電の課題を解決する様々な特長

    ボルテックスタコマは軽さと強度を保つために炭素繊維とガラス強化繊維(FRP)素材を使い、振動する上部と地面に固定される下部に分かれています。
    同社のFAQに「カーボンファイバーのマストは丈夫ですが、空洞で軽いので、強くぶつけられると壊れる可能性があります。注意が必要な場合は、素手で振動運動を止めることができます(自動翻訳)」と書いてあるのが少々笑えますが、ハイテクな割には筐体がシンプルなので、大掛かりな従来型の風力発電システムにはない長所も多くあるようです。

    (出典:Vortex FAQs – Bladeless Wind Turbin

    Vortex社ではボルテックス風力発電機の特長を以下のように掲げて、従来型と対比させており、騒音や振動を理由に風力発電の設置に反対している地域の住民からも注目されています。

    • 効率的なクリーンパワー(風のエネルギーの渦励振を利用)
    • 低コスト(ギアやベアリングがなくオイルも不要、製造・運用・保守のコストが安い)
    • 環境にやさしい(給油不要、従来の風力よりCO2排出量が少ない。騒音の低減、鳥がぶつからない)
    • エネルギーシステムの統合(設置も撤去も簡単。単独でも他の電力と組みあわせても)
    • どんな目的にも合う(大型から小型まで用途に合わせたラインアップ)

    ※どの発電方法においても、原料の採掘や発電所の建設などでCOが排出されます。

    8a02c1d67f8a1fa42029b1cecaa678e2-768x457同社ではさらに大きな1MWクラスの風力発電機開発を計画しており、その場合でも従来の風力発電機に比べて製造コストは50%以上、メンテナンス費用は80%以上もカットできるそうです。個人的にはこれが町中や農村部でたくさん揺れていたら、とても奇妙な光景のような気もしますが、値段が安く大規模な工事が不要なので、もしかしたら普及していくのかもしれません。
    時節柄、新型コロナウィルスの影響が気になるところです。Vortex社ではSNSや動画等でも情報を発信をしているので、頃合いを見てTwitterやFacebookをまたのぞいてみたいと思います。

    (ミカドONLINE編集部)


    出典/参考記事: Vortex Bladeless Turbine – Reinventing wind energy! 風車のない風力発電を実現する「ボルテックス・ブレードレス」 | Webマガジン「AXIS」 常識を疑え! スペイン生まれの羽根のない風力発電機が2020年に販売スタート | EMIRA プロペラなし! 振動で発電するスティック型風力発電機「Vortex Bladeless」 | 2019 Bridgestone World Solar Challenge など