ミカドサイエンス&テクノロジー講座(2) コロナの解説でよく聞くRNAってなに?

    みかどん2新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、ニュースや特別番組でウィルスについての解説を耳にする機会が増えました。その中でいまひとつよくわからないのがRNAです。遺伝子情報ってなに?DNAとどこが違うの?ネットで検索すると説明の言葉が難しすぎてさらによくわからなくなります。そこで今回はRNAについての簡単解説です。

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    画像:宮崎県衛生環境研究所 を編集

    ウイルスは自分の設計書を殻で包んだだけの存在

    ウイルスは構造によっていくつかのタイプがありますが、新型コロナウィルスは「一本鎖(いっぽんさ)のRNAを持つウイルス」と分類されています。
    RNAというのはリボ核酸という化学物質の略称で、二重らせん構造のDNAを切り離して一本にしたような形をしています。

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    画像:Wikipedia

    RNAはウイルスにとってDNAとほぼ同じ役割があり、ここに4種類の化合物が様々な順番で配置されてそれがウイルスの遺伝情報となっています。

    RNAはウイルスだけに特有なものではなく、人を含めたすべての動物(鳥もヘビも)や、昆虫・植物に至るまで、細胞に核がある真核生物なら必ず持っている共通のしくみです。

    RNAが記録しているのは体をつくるための情報です。つまりRNAというのはたん白質を合成するための設計書になります。

    通常、生物はRNAに記録された情報を読み取って色々な種類のたん白質を体内で作ります。と
    ころがウイルスはRNAをただ持っているだけで、つくる機能が一切ありません。なんとウイルスというのは自らの設計書を殻で包んだだけの存在なのです。

    ウイルスは他力本願で増殖する

    分裂する機能がなくエサを食べてエネルギーにする機能もないウイルスは、自力で増えていくことができません。そこで体内でたん白質を作れるほかの生き物に取り付きます。

    そしてたん白質の製造工場である細胞の中に侵入して、ちゃっかり自分の設計書(RNA)を投下し、宿主に自分の複製をつくってもらうのです。

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    画像:日章アステック

    人や動物など生物の細胞の中には、RNAを受け取ると内容を読んでたん白質を自動的に合成するしくみがあり、それが自分のものでなくても忠実に再現してしまいます。
    ウイルスは元々、野生動物の体内に共生していたと言われていて、RNAしか持っていないくせに、生物のしくみをうまく活用できるノウハウだけはしっかりあるんです。
    ちなみにウイルスは遺伝子を持っていますが、自己増殖ができないので、生物ではありません。

    さてコロナウィルスに限らず、すべてのウイルスは自分の遺伝子情報だけを持って、身ひとつで世界をさまよっている存在ですが、ウイルスの中には二重らせん構造のDNAのほうを持っている種類もあります。

    DNAとRNAはどちらも遺伝情報の伝達を担うとても重要な物質ですが、どちらがどう違うのかわかりにくいですよね。

    実は”生物”にとってのRNAは、DNAの情報から様々な組織のたん白質を作り出す際の生成物で、DNAの一部をコピーして保存する記録メディアの役割があります。

    RNAはDNAの一部を転写してつくられるたん白質の設計図

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    画像:From DNA to protein – 3Dを編集

    RNAはウイルスに特有のものではなく、本来のRNAは人も含めたすべての生物が細胞の中に作り出しているDNAのコピーであることは先に述べました。

    DNAにはたん白質に関する情報だけでなくほかにも多くの情報が膨大に含まれています。
    RNAはその中からたん白質の製造レシピに当たる部分だけを、特定の酵素が読み取って転写複製したものです。

    以下にその手順を書き出します。

    ▼①ポリメラーゼという酵素(下図では紫色の物体。注→お化けではありません)がDNAの鎖からたん白質情報がコーディングされている部分を見つけ出し、そこにくっついて二重らせんを部分的にほどきます。そして配列のひとつひとつに、鎖がほどける前に結合していた物質を対応させていきます。(一種類だけ別な物質に置き換わりますが詳細は省きます)

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    画像:DNA transcription and translation [HD animation]を編集
    そうやってつくられたヒモがRNA(正確にはメッセンジャーRNA)です。原本のDNAはとても大切な最重要書類なので直接いじらずに必ずコピーして使うわけです。そのコピーがRNAというわけです。

    ▼②完成したRNAは核の外に放出されます。核の中は大事なDNAが格納されている神聖な?場所なので諸作業は核の外で行うのです。(といっても細胞の中です)

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    画像:DNA transcription and translation [HD animation]を編集
    ▼③RNAが核から出て細胞質にやってくると今度はリボソームという顆粒体(微粒子)がくっつきます。そして化合物の種類と配列の組み合わせを3個単位で読み取り、それに対応する材料(アミノ酸)を運び屋ごとセットして組み合わせて行きます。

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    画像:DNA transcription and translation [HD animation]を編集
    ▼④運び屋が運んできた”たん白質の材料(アミノ酸)”が連結されてどんどんたん白質がつくられていきます。

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    画像:DNA transcription and translation [HD animation]を編集
    ▼⑤材料を渡し終えて空になった運び屋はRNAから離れて再利用されます。化合物の配列に終わりを示す3桁の組合せが現れたらこのプロセスはそこで終了します。

    画像:DNA transcription and translation [HD animation]を編集
    これがRNA(DNAのコピー)からたん白質がつくられる一連の流れです。

    たん白質はアミノ酸の集合体ですが、多重的な立体構造をしており、たとえば髪の毛や爪を構成しているケラチンというたんぱく質は以下のような分子構造です。RNAはこれらの複雑で多様なたん白質を作り出す設計書として機能するわけです。

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    画像:shutterstock.com

    ※一連の流れを動画でご覧になりたい方はこちら(YouTube-英語版)へ。

    ウイルスは細胞を乗っ取りやがて出ていく・・・

    画像:大阪市東淀川区医師会

    ウイルスは自分では増殖できないので、動物の細胞に侵入して細胞の核の中に自分のRNAを送り込みます。すると宿主のたん白質合成システムが反応してウイルスの望み通りに新しいウイルスをつくってしまいます。そして完成すると細胞の外に出て次なる宿主を探します。まるでカッコウがほかの鳥の巣に卵を産み付けるように、ウイルスも動物の細胞のしくみを乗っ取り、動物に依存して生きているということになります。

    ウイルスは乗っ取った細胞に炎症を起こしたり細胞を死滅させたりしますが、宿主がいなければ増え続けることができません。国内では5月25日に緊急事態宣言が解除されましたが、ウイルスの勢いを止めて第二波を防ぐためには、ウイルスを増やさないこと、つまり「うつらない」「うつさない」ことが何よりも重要なのは、そういった理由からです。

    最後に生物のRNAについておススメのユニークな動画をひとつご紹介します。もしここまでの説明を読んでくださった方なら、とてもスムーズに楽しく理解できると思います。