北海道の天塩郡豊富町に世界最大級の蓄電池システムが現在建設されています。これはGSユアサのリチウムイオン電池をつかった風力発電用の電力貯蔵施設です。最適地でありながら送電設備の不足でなかなか進まなかった道北への再生エネルギー導入が大きなプロジェクトの開始でいよいよ本格化してきました。
リチウムイオン畜電池を使用した世界最大級の電力貯蔵設備
北海道の天塩郡豊富町に世界最大級の蓄電池システムが建設されています。これは風力発電の導入拡大を目的に北海道北部風力送電(株)が進めている大きなプロジェクトの一環で、2022年度に稼働予定となっている同社の北豊富(きたとよとみ)変電所内につくられています。
風力発電は気象条件による変動が大きい発電方法です。風力発電のエネルギーは風速の3
そこで電力会社は、発電量が一定しない再生可能エネルギー(太陽光発電を含む)の出力変動に対して、運転の開始と停止が容易な火力発電や水力発電をこまめに運用させて、管轄する区域全体のバランスを取って来ました。
けれど北海道は元々エリア内の電力需要が少なく、発電所の数も規模もそれほど大きくありません。
もし今以上に再生エネルギーが増えた場合は、それらの出力変動に対応できるほどの発電ネットワークが道内にないばかりでなく、CO2などの温室効果ガスをゼロにしていくためにも、蓄電池設備の重要性が高まってきたのです。
現在建設中のこの設備は、GSユアサが開発したリチウムイオン電池を使い、出力24万キロワット(240MW)・容量72万キロワット時(720MWh)という世界最大規模の仕様を誇り、電気自動車に換算すると4.5万台分、標準的な4人家族であれば約5万5000世帯が1日に使える電気量※1に相当します。
北海道の電力システムは再生可能エネルギーによる発電量の増減に対応しにくいことから、レドックスフロー電池など大容量蓄電池の実証実験も行われていますが、GSユアサ社のニュースリリースによれば、今回のプロジェクトでは「(同社製リウムイオン電池の)これまで培ってきた信頼性の高い技術力および長期間のサポート力が評価され」たとのことです。
北海道の電力システムの脆弱性とは?
前述のように、北海道は都市部以外の人口が少なく電力会社の発送電システムもそれに見合った構成になっています。しかしこの運用が災いして、2018年の北海道胆振東部地震では北海道全域が大規模な停電(ブラックアウト)に陥ってしまいました。
地震発生時は道内需要310万kWの約半分を苫東厚真(とまとうあつま)火力発電所が賄っていたそうですが、その苫東発電所が地震で緊急停止してしまったため、道内の供給が一気に半分に落ち込み、異常信号が次々とほかの地域に伝搬して全域の電源が停止しました。
通常こういったときにほかの地域では、連携する他の発電所が出力を上げるなどして下落した発電量を元に戻しますが(東日本大震災で福島原発が停止したときでさえブラックアウトは発生していない)、人口の構成上一極集中的な発電だった北海道では他の発電所が束になっても苫東厚真の停止分を補填できませんでした。※2
北海道ではこれ以上風力発電を増やせない?
これを機に道内の電力システムの脆弱性が問題視されるようになりましたが、北海道の再生可能エネルギーの設置に関してもすでに同じ課題が表面化していました。
急激な発電量の変化に対して盤石でないうえに、風況が良く風力発電に大きなポテンシャルがある道北地域には容量の大きな基幹送電線が来ていません。つまり今のままでは送電線のスペック(運べる電気の上限)が低いためこの地域ではこれ以上の風力発電はつくれないのです。
そしてこれは風力発電全般の課題でもありました。風力発電所は人里離れた大規模な場所に集中してつくられるケースがほとんどですが、そもそも風が強い山の尾根や海岸線などの適地には風力発電の容量に耐えられる送電線などなく、そういった場合の再エネの導入はまずは高スペックの電線を引くところからのスタートになります。
そこで資源エネルギー庁では2013年度(平成25年度)から「風力発電のための送電網整備実証事業」を開始しました。
送電専業事業者が自前で北電までの道北送電網を新設
ところで皆さんは、電柱や送電線が誰の持ち物かご存じですか?「電力会社のものに決まっているでしょ?」と思った方は半分ハズレです。
昨年(2020年/令和2年)4月より法律が改正され、電力会社の発電部門と送配電部門は分離されました(沖縄以外の発電事業者の送配電を禁止)。つまり私たちの宮城県でいえば、毎日目にしている電線や電柱は、東北電力さんではなく東北電力ネットワークさんという別会社(東北電力のグループ会社)の所有なのです。
そして現在は送電だけを行う専業の事業者も存在します※3。そのうちのひとつが今回の蓄電池設備や道北の送電網を建設している北海道北部風力送電株式会社です。
北海道北部風力送電株式会社は「風力発電のための送電網整備実証事業」(資源エネルギー庁)に採択されました。そして国の補助を受けて2013年(平成25年)から各種の調査を続け、2018年より送電網整備の工事に着手しました。冒頭でご紹介した世界最大規模の電力貯蔵蓄電池システムもそれらの一部です。
これは広大で風が強く日本有数の最適地である道北地域にさらなる数の風力発電を導入するため、送電事業者が自前で送電網を新設するプロジェクトです。
同社の株主には、風力発電で日本で最大のシェアを持つユーラスエナジーホールディングスほか、コスモエコパワー、稚内信用金庫、北海道電力ネットワーク、北海道銀行などが名を連ねており※4、地元からも大いに期待が寄せられている※5ようです。
プロジェクトの具体的な計画としては稚内恵北開閉所、開源開閉所、北富豊変電所をつくってそれらを結ぶ約80kmの送電線を北海道電力の設備(中川町)接続し、その間に270基の鉄塔も建設します。
ボトルネックの解消で風力発電の増設も可能に
これによって道北地域の送電量は約300MWとなりますが、この地域にはその容量をはるかに上回る総容量約600MWの風力発電所が建設される予定です。その差分の300MWを蓄電池に吸収させるなどして平準化の実証を試みるのも目的のひとつです。ほかにも実証すべき項目がいくつかありますが、詳細に関してはこちらのPDFをご覧ください。
このプランでボトルネックが解消されれば、道北の風力発電所から大都市札幌へも余裕で送電できることになりますし、風力発電所の導入も拡大が可能になります。
北海道北部風力送電の伊藤健社長は「21年の春先には稚内市の港湾に風車がひしめき合うことになると思う」というコメント※6 を述べていますが、当初の計画では500億円だった事業費が近年の資料では1000億円に膨れ上がっているのが気になるところです。
風力発電は太陽光発電よりも技術が安定しており、発電効率も再生可能エネルギーの中では一番高い発電方法です(水力発電を除く)。初期費用は高くても長い見通しを持って取り組むことで成り立つ事業なのかもしれません。
(ミカドONLINE編集部)
出典:※1 一般家庭の一日の消費電力 ※2 北海道のブラックアウト、なぜ起きた? ※3 送配電事業者一覧(一般送配電事業者、送電事業者、特定送配電事業者) ※4 会社概要 | 北海道北部風力送電株式会社 ※5 北海道における送電事業への投資と SPC における課題について ※6 総工費1000億円、届けろ最北の風力エネ
参考記事:北海道豊富町に設置する世界最大規模の蓄電池設備を受注 ~風力発電の出力変動緩和に貢献~
など
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