エネマネ最新事情(44) ~風力でも太陽光でもない。ノルウェーが世界のトップを走る大規模脱炭素ビジネスってなに?~

    みかドン ミカどん蓄電池は再エネ電力の安定化に不可欠なので、私たちの仕事は脱炭素に貢献しているというささやかな自負があります。一方、ノルウェーではそれどころではないスケールで大規模な脱炭素ビジネスが来年からスタートします。この分野では世界のトップを走るノルウェーが世界に先駆けて構築する脱炭素ビジネスとはなんでしょうか。

    脱炭素を背景にビジネスとして成立し始めたCCS

    液化CO2を陸揚げするためのホース(画像:UK Official – YouTube

    「技術はある。客もいる。後はビジネスとしてどう成立させるかだ」。

    ノルウェーの大手石油会社「エクイノール」のペル・サンドバーグ氏は、環境省が開催した2021年のシンポジウムでこう話したそうです。

    エクイノールはフランスや英国の石油会社と共に、2024年からCO2の回収・貯留ビジネスを開始する予定です。これは欧州各国の工場や発電所から排出されるCO2を国境を越えて回収し、ノルウェー国内地下の安定した地層に圧入して封じ込める大事業です。

    「Carbon dioxide Capture and Storage」を略してCCSと呼ばれるこの技術は日本ではまだ実証段階ですが、海外では操業中の商用CCSがすでに27か所あり、新しいビジネスになりつつあることがうかがえます。

    2015年のパリ協定以降、脱炭素の緊急度が増しており、各国は規制を強化し株主は会社に強い圧力をかけ始めました。またESG投資ファンドやグリーンボンドが増え、製鉄、肥料、セメント、輸送などCO2排出量が多い産業は資金調達の面からも、問題を先送りできなくなりました。

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    そういった理由から今ある設備に後付けしてCO2の削減ができるCCSへのニーズが年々高まっており、来年始まるエクイノール社の新規事業では60社が貯留を検討し、12社が契約書を基に検討中(2021年時点)です。同社の見込みでは潜在顧客は350社に上り、それらの総CO2排出量は3億トンにも及ぶそうです。

    早くからCCSに取り組み始め20年の歴史があるノルウェーですが、英仏の石油会社やノルウェー政府が巨額の投資をしているこの新しいプロジェクトが稼働すれば、これが世界初の本格的な商用CCSバリュー チェーンとなります。そのため動向が世界から注目されているのです。

    グリーンボンドとは・・・企業や地方自治体などが環境改善効果のあるプロジェクト(グリーンプロジェクト)に要する資金を調達するために発行する債券

    CO2をどうやって閉じ込めるの?そのあとはどうなるの?

    (画像:ビジネス+IT

    CCSの流れを表した概略が上の図です。

    CO2を回収するためには、まず排ガスからアミン水溶液と呼ばれるアルカリ性の薬剤を使ってCO2だけをを分離・回収します。アミン水溶液は温度によってCO2を吸収したり放出したりする特性があり、効率よくCO2を集めることができます。

    回収したCO2はパイプラインや船舶などによって地中まで輸送され、地下800メートルよりも深くにある「貯留層」とよばれる地層の中に圧入されます。

    土中にCO2を閉じ込めるには、岩石のすき間にCO2が入り込みやすい砂岩層が必要です。そして閉じ込めたCO2が逃げないようにフタの役目をする、泥岩などの地層が砂岩層の上にあることも大事な条件です。

    土に埋められたCO2はその後どうなるのでしょうか?

    IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の調査では、地層を適切に選定し、適正な管理をおこなうことで、貯めたCO2を1000年にわたって貯留層に閉じ込めることが可能であると、報告されています。

    そして長い年月を経過したCO2は、岩石の隙間で鉱物になるなど、安定的に貯留されるものと考えられているそうです。

    日本のCCSも事業化が目前です

    北海道・苫小牧市のCCS実証施設(画像:資源エネルギー庁

    2022年5月10日、石油大手のENEOSホールディングスと電力大手の電源開発株式会社(J-POWER)は、CCSの事業化に共同で取り組むことを発表しました。

    日本では北海道の苫小牧に実証施設が建設されて、すでに30万トンの累計圧入量を達成していますが、2030年までの事業化を目指す二社の計画では、両社の排出源が立地している西日本が候補地になるようです。

    ENEOSとJ-POWERは23年以降に設計に着手し、26年ごろまでに投資判断、最終的には他社が排出したCO2も引き受けることで、国内初の本格的なCCS事業を目指します。

    最大の課題はやはり分離・回収のコストです。ノルウェーの場合は貯留方式を大規模化することでスケールメリットが得られますが、日本の場合はそこまでの規模はありません。

    そのため経産省では技術の低コスト化に向けて、技術開発への支援を積極的に行うと同時に法整備や財政面での支援策も検討中とのこと。また候補地の選定に関しても経産省と環境省がタッグを組んで調査を支援しています。

    国内のCO2削減に関しては、同じ量のCO2を減らすなら再生可能エネルギーのほうがまだまだ安いのが現状です。ですが今後もし脱炭素の取り組みが進んでいけば、どうしてもクリーンエネルギーに置き換えることのできない分野が目立ち始めてくると思われます。

    それらを取りこぼさずにカーボンニュートラルを実現するためは、CCSの確立が必要です。ノルウェーなどのCCS先進国に比べ、事業環境の整備が遅れている日本ですが、昨年はようやく第一歩を踏み出すことができた記念すべき年だったのかもしれません。

    (ミカドONLINE編集部)

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    参考/引用記事:CO2を地下に閉じ込める「CCS」、世界で70億tの削減担う:日経ビジネス電子版 世界のCCSの動向2020年版/グローバルCCSインスティテュート(PDF) CO2を回収して埋める「CCS」、実証試験を経て、いよいよ実現も間近に(前編)|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁 日本国内で大規模な計画が進行。注目の「CCS」「CCUS」とは? | 世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン | IDEAS FOR GOOD 国内初CO2貯留、ENEOSとJパワー計画 政府は支援検討:日本経済新聞 など

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