(64)メガワットではなくネガワットとは?ひそかに変わりつつある電力供給のしくみ

    みかドン ミカどん

    電力供給の世界では、私たちの知らないところで年々制度が変化しています。電力会社の発電所や再生可能エネルギー以外にも電力を供給できるしくみがあるんです。今回は「ネガワットってなに?」と思った方に向けてシンプルな簡単解説をしてみました。

    電力の需給調整市場の開始

    2018年9月6日、北海道胆振東部を襲った震度 7 の地震による発電所の停止で、北海道では国内初のエリア全域におよぶ停電(ブラックアウト)が発生し、約295万戸が停電しました。

    全面復旧に丸2日を要し企業活動や国民生活に大きな影響を出したこの大停電は、道内の半分に至る電力需要を担当していた主力発電所が停止し、それと同等の機能をバックアップできるしくみが整っていなかったことが原因でした。

    電気は発電所の停止だけでなく、その時点で地域が使用している電力と同量(誤差僅少)の供給がされないと、需給バランスが崩れてすぐに停電してしまいます。

    少なくてもダメ、多くてもダメ、という微妙なバランスを、従来は電力会社が高度な技術で調整をしていましたが、北海道の大停電は需給バランスを担うリソースの多様化と分散の必要性を示唆するものでした。

    さらに現在では自然環境に出力が大きく左右される再生可能エネルギーの割合も増え、需給バランスの重要性がいっそう増してきました。

    そこで国がスタートさせたのが、2021年4月1日に開設された需給調整市場です。

    これは一般送配電事業者(国内に10社ある電力会社から分離された送配電専門の10社)に調整力を調達するための市場です。

    「調整力」と書くとわかりにくいのですが、簡単にいえば、一般送配電事業者が電力の不足分を市場(システム)で募集し、特定卸供給事業者として届け出をして市場に参入した会社がそれに入札して電力の売買を行うものです。これによって一般送配電事業者各社は電力の需給バランスに必要な電力を、柔軟かつ広域的に調達できるようになりました。

    ちなみに2024年10月17日の時点では特定卸供給事業者として以下の83社が登録されています。

    特定卸供給事業者一覧(経済産業省資源エネルギー庁)

    アグリゲーターってどんな事業者?

    (画像:資源エネルギー庁

    特定卸供給事業者は一般的にアグリゲーターと呼ばれています。

    アグリゲーターは、英語で「集約する」という意味を持つ「アグリゲート(aggregate)」を変化させた言葉ですが、その言葉通り、アグリゲーターは様々な方法で自社の設備や契約者から電力を集めて需給調整市場で取引をします。

    太陽光や風力発電など自前の設備を持っている場合もありますし、そういった複数の事業者を契約者の一群として束ねている場合もあります。

    それらの余剰電力を蓄電池に溜めておき、需給がひっ迫するニーズの高い時期に売れば高値での取引も可能になります。

    また、工場の蓄電池やご家庭の電気自動車など、さらに広範囲な契約者から得られる電力を統合させて管理し、まるで発電所を持っているかのような運営(仮想発電所:バーチャルパワープラント(VPP))を行うこともできます。

    残念ながら現在の需給調整市場はまだまだ火力や揚水等の電源が主力とのことですが、今後は少しずつ変化していくものと思われます。

    電力会社の発電所の電気であっても、太陽光や風力発電の電気であっても、そしてアグリゲーターが企業や一般家庭から回収した電気であっても、電力系統に流れてしまえば差がなく一様に需要家に供給されるのみですが、今日、コンセントに差し込んで得られる電気は電力会社以外の事業者から調達されたものかもしれません。

    電力供給のしくみも少しずつ変わりつつあるのです。

    ネガワットとは?ネガワット取引とは?

    (画像:Koto Online

    さてそういった中で、近年は「ネガワット」という言葉もしばしば耳にするようになりました。メガワット・・・ではなく「ネガワット」です。

    これは使うはずだった電気を使わなかったことで、電力の需給調整に貢献したとみなし、インセンティブを得る制度上の言葉です。そのマイナス分をネガワットと呼びます。

    ネガワット取引は、改正電気事業法(第3弾)により、平成29年4月から通常の発電した電力量と同等に、一般送配電事業者が需給バランス供給の対象と位置付けられました。

    これによって事前の契約に基づき、一般送配電事業者、小売電気事業者、アグリゲーター等が契約者に指令を出し、成果に応じて報酬を出すしくみが導入され始めました。

    調べてみたところ、法人向け電力販売サービス「TERASELでんき for Biz」を提供している伊藤忠エネクスでは、2023年夏に565社が参加し、92.7%となる524社が節約に成功したとのこと。

    同社では標準的な電気使用量を基準としたうえで、対象の時間帯に1kWh以上節電すると、10円/kWhを電気料金から割引くそうですが(~2024.9.30まで)節電できなかったことによるペナルティがないため、広く利用されているようです。

    ネガワット取引は多くの小売電気事業者が採用しており、私たちの地域では一番身近な東北電力でも、もちろん導入されています。

    私たちが子供のころ、「電気は電力会社の発電所で生まれて家庭に送られる」と教わりました。ですが今ではそれだけではない多様なインフラが年々整備されています。

    今の子供たちは電気についてどのように教わるのでしょうか?機会があれば小学生の教科書をのぞいてみたい気持ちになりました。

    (ミカドONLINE 編集部)


    参考/引用記事: 北海道胆振東部地震から5年…進むブラックアウト対策|記事一覧|企業・自治体向け防災情報メディア「防災ニッポン+」読売新聞 再エネの主力電源化がもたらす新しい社会とは~強靭で持続可能な分散型エネルギー社会の可能性を探る~(PDF) 需給調整市場とは? 電気の安定供給に欠かせない4つの調整力や取引の仕組みについて解説 | 【公式】サービスサイト | 伊藤忠エネクス株式会社 アグリゲーター(特定卸供給事業者)(Aggregator)|用語集|新電力ネット 電力の需給バランスを調整する司令塔「アグリゲーター」とは?|エネこれ|資源エネルギー庁  再エネ大量導入時代のあるべき価格シグナルマイナス価格は許容されるべきか?(PDF)  など

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