今回取り上げるのはこの季節にどこでも見かける「エノコログサ」です。名前としては「ねこじゃらし」のほうが有名かもしれませんね。実は最近、このエノコログサが研究に使われ始めています。それはなぜ?
エノコログサはいぬっころ草
エノコログサは一年草のイネ科エノコログサ属の植物です。ユーラシアからアメリカ大陸北部まで熱帯や温暖な地域の世界中に分布しており、秋の季語にもなっている身近な雑草です。
よい秋や 犬ころ草も ころころと
これは小林一茶の句ですが、これを読んでもわかる通り、エノコログサは穂の形状が犬のしっぽに似ているところから「犬こっろ草」が名前の由来だそうです。漢字は当て字で『狗尾草』と書き(狗はイヌ)、英語でもgreen foxtail(緑の狐の尾)やfoxtail grass(狐の尾の草)と呼ばれているので、動物の尾を連想するのは世界共通のようです。
エノコログサは雑穀のアワの原種にあたるため、粟の栽培地付近では粟とよく交雑して簡単に身を付けます。そのせいか、世界中で多くの変種があります。
アワの仲間なので、食べて食べられないことはなく、戦時中の食糧難のときは食用にしたこともあるようです。
こちらのブログによると、70年前に出版された陸軍獣医学校研究部の「食べられる野草」という本では、エノコログサは”実をとって、すり鉢で擦って、粥にしたり、粉として用いたりする”とのこと。現代でも「食べてみた」系のブログが多数ありますが、味に特徴はないけれど炒ると香ばしい香りがするそうです。
古代の中国では粉モノとして普通に食べられていた?
エノコログサはユーラシア大陸が原産です。日本へはアワの雑草としてアワと共に朝鮮から伝来したと考えられています。
ちなみに伝統的に小麦粉や、アワなどの粉から作った主食(めん、餅、パン、饅頭、すいとんなど)を食べる中国の華北地域では、遺跡から出土した約1万年前の脱穀用の石器から、エノコログサと思われるデンプン粒の付着が確認できたそうです。
1万年前と言えば旧石器時代から新石器時代に移行するあたり。中国の古代人は普通にエノコログサを食べていたのでしょうか?
専門家の分析によれば、エノコログサを米や豆のように煮炊きした形跡はないということなので、やはり粉から何かの形にして食べたのかもしれませんね。
🌍(参考)エノコログサとアワ – なぶんけんブログ
近年はエノコログサが研究対象に
エノコログサはイネ科の植物ですが、サトウキビやトウモロコシと同じキビ亜科という分類になります。そのため近年は研究の対象として急浮上してきました。
エノコログサをゲノム解析することで、同じグループに属するサトウキビやトウモロコシの品種改良のヒントが得られるからです。
サトウキビやトウモロコシといえば食糧ばかりでなくバイオエタノールの燃料としても利用可能ですが、比較的ライフサイクルが長く作物自体が大型であるため、実験には大変な労力と時間が必要でした。
ですが2020年に理化学研究所がエノコログサゲノムの高精度な解読を完了させたため、品種改良の基盤が整ってきました。このグループはイネやマメなどとは光合成の過程が異なるため、手ごろな大きさで非常に入手しやすいエノコログサのゲノム解析が待ち望まれていたのです。
エノコログサのゲノム解析でトウモロコシの品種改良ができるなんて、昔なら想像も尽きませんが、バイオテクノロジーや遺伝子工学というのはそういうものなんですね。
いつか訪れるという食糧危機や歯止めの聞かない地球温暖化にエノコログサの遺伝子が大いに貢献してくれそうです。
ということでタイトルの「〇〇〇」はゲノムが正解ですが、DNAでも遺伝子でも、もちろんOK!(微妙な違いは気にしない(笑))
(ミカドONLINE編集部)
出典/参考記事: アワ|雑穀・山菜・その他編|農作業便利帖|みんなの農業広場 70年前に出版された陸軍獣医学校研究部の本で雑草を食べる :: デイリーポータルZ エノコログサのゲノムを高精度解読 | 理化学研究所 など