SDGsの浸透で”持続可能”というキーワードが世の中に広まって来ました。最近は企業の経済活動においても「持続可能であるかどうか?」という新しい基準がプラスされ、財務指標以外の部分も評価の対象になってきました。投資の世界も例外ではなく、ESG投資という手法が欧州を中心に規模を拡大させています。
世界最大の機関投資家がESG投資を採用
突然ですがこの表をご覧ください。これはある日本の機関投資家(組織で投資する大口の社団や法人)が2016年の時点で保有している株式のうち上位10社のリストです。
その投資組織は2016年には内外の2037銘柄を保有し「世界最大の機関投資家」と言われています。
さてクイズです。トヨタを筆頭に著名な企業に巨額の投資を行い三大メガバンクでは筆頭株主になっているこの組織はいったいどこでしょうか?
答えはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)です。GPIFは諸外国の年金基金と同様に国民から預かったお金を投資で運用しており、規模が世界最大級に大きいことから「市場のクジラ」とも言われています。
そのGPIFが2015年に国連責任投資原則(PRI)に署名してESG投資の導入を内外に宣言したことには大きなインパクトがありました。
ESG投資とは財務諸表だけでなく環境(E)、社会(S)、コーポレート・ガバナンス(G)も視野に入れて投資を行っていく投資の手法です。具体的なことについては後述しますが、端的に言うなら「環境や社会に貢献しない会社(悪影響を及ぼしているなど)」「コーポレート・ガバナンス(企業統治)に問題のある会社」には投資しないということです。
企業経営においては株主の意向も少なからず反映されますが、多くの上場企業の実質的な株主であるGPIFがESG投資を導入した影響はとても大きく、それを機に国内にもESG投資の考え方が広まり、それまで消極的だった企業でも環境への配慮や社会へ貢献を行い、コーポレート・ガバナンスをしっかり整えて行かなければ、資金調達が困難になる可能性が出てきたのです。
環境に配慮し社会に貢献し健全な経営であることが条件
ESG投資は2006年に当時のアナン国連事務総長が“投資家の取るべき行動”と定義し、PRI(責任投資原則)を提唱したことが始まりですが、元々は米国のキリスト教教会が資金運用をする際に、宗教的教義に反する酒・タバコ・ギャンブルなどを投資対象から外したことに端を発しています。
現在、ESG投資の規模は世界で「3,400兆円」に達しており、ESG 投資の運用資産規模が最も大きいのは欧州です。最も多く用いられている手法は、やはり特定の産業や企業を投資対象から除外することです。
海外での除外対象は、武器やたばこ、ギャンブル関連などが一般的ですが、近年では気候変動への対応を考慮する投資家も増えてきました。最近よくニュースになる「化石燃料に関わる企業からの投資引き揚げ」などは、地球温暖化に悪影響を与える石油・石炭・ガスなどの化石燃料を供給または依存する企業に投資するのをやめて、持続可能な社会を目指す事業を行う会社に投資をするESG投資の一環です。
ESG投資により日本でも多くの企業が海外の年金基金から投資の撤退を受けています。これでは否が応でも地球環境やSDGs対してに本気にならざるを得ないというのが本音なのかもしれません。
それにしても以下の表を見ると、撤退の事実ももちろんですが、日本の電力会社の株をヨーロッパの年金基金が買っていたという事実にも少々驚きました。
一方、GPIFでは(正確にはGPIFが預託している投資信託機関では)国内の株式に対しては以下の項目をESG投資の課題として注目しているようです。パッシブとアクティブというのは運用スタイルの違いでここでは詳しく言及しませんが、パッシブは低利益で手堅く長期利益を目指し、アクティブはパッシブよりもハイリスクハイリターンの運用です。
新型コロナでESGも変化する?
さてここに来てESGの評価ポイントも変化を見せつつあります。ESGはSDGsと連動性があり、「地球にも人にも社会にも無理な負担を掛けない経営」が持続可能な企業をつくり、それによって投資家も持続可能な利益を得る、という発想が土台になっています。
ところが新型コロナウィルスの影響で、従業員との関係や危機管理なども重視されるようになってきたようです。
例えば、業績が悪化した企業が従業員を解雇したり、給与の減額に踏み切る事例で労使関係への関心が高まったり、職場における感染リスクの低減など従業員のサポート体制、リモートワークの導入といった職場環境の整備が注目され始めています。
製造業では部品調達が困難になり、生産調整せざるを得ない企業もあり、サプライチェーンマネジメントの重要性も改めて認識されています。
PRIは新型コロナウイルスの危機を踏まえ、2020 年3月に責任のある投資家の行動を提言し
ました。新型コロナウィルスの感染拡大は長期化しそうな気配も感じられますが、大和総研のレポートによると、これを機に投資家の評価軸も変わっていく可能性が大きいそうです。
今まではずっと、地球環境や社会貢献などが注目されてきましたが、今後は”持続可能な”企業に向けて、リスクマネジメントや職場環境の整備なども指標として取り上げられていくようにと感じました。ちなみに下図のエンゲージメントというのは投資家が投資先と対話をすることだそうです。
出典/参考記事:拡大するESG投資の評価項目 個人投資家は「ESG投資」の大波にどう対応すればよいのか? GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人) 筆頭株主にズラリ など