前回はマイクロ風車をご紹介させていただきましたが、マイクロつながりで今回はマイクロ水力発電をご紹介します。国土が狭い日本では太陽光発電も適地がなくなり、風力発電は山の上や海岸線から洋上へと設置場所が変化しています。そんな中で小規模な再生可能エネルギーに注目が集まっています。
宮城県名取市の上水道設備でマイクロ水力発電所が稼働開始
2024年8月23日、宮城県名取市でマイクロ水力発電所が稼働を開始しました。
日水コン名取マイクロ水力発電所開所式が行われました(宮城県名取市公式HP)
マイクロ水力発電というのは、発電出力100kW以下の水力発電設備のことで、ダムを利用した大規模な水力発電と異なり、河川や用水路などの流水を利用する小規模な発電方式です。
高低差で流れる水があれば発電できるため、近年は上下水道設備や工業用水などと組み合わせて活用される事例が増えています。
8月に稼働した名取市の「日水コン名取マイクロ水力発電所」も、名取市内の愛島(めでしま)・名取が丘・館腰地区に水道水を供給している岩沢配水池の設備内に新設されたもので、水道事業のコンサルタントを行う東京の企業「日水コン」が名取市から施設の一部を借りて設置・運営するものです。
この配水池には七ヶ宿ダムの水が宮城県村田町の姥ヶ懐調整池を経由して流入しています。日水コン名取マイクロ水力発電所ではその流れの一部をバイパスさせて発電し、年間305MWhの発電量(一般家庭77世帯分)を見込んでいます。
東北電力への売電による収益予想は年間約1100万円とのことで、今後宮城県内三か所に同様の水力発電所が整備される予定だそうです。
マイクロ水力発電を水道設備に導入する自治体が増加中
小さな河川や用水路を活用した小水力発電は以前からありましたが、近年注目されているのが上下水道や工業用水などを利用したマイクロ水力発電です。
発電量は小さいものの大規模な土地や設備を必要とせず既存の設備内で利用できるため、自然環境への影響が少ない発電方式として採用する自治体が増えてきました。
発電装置も、大手のダイキンやNTN、リコーなどからベンチャーのクルット(ユームズ・フロンティア社)など、各社が数年前からマイクロ水力発電用の製品を開発して参入に乗り出しています。
写真の装置は群馬県藤岡市の水道施設に昨年6月に設置された「DK-Power(ダイキン工業の子会社)」製の発電機ですが、同社では水道施設を活用したマイクロ水力発電を全国55カ所で契約しており、藤岡市はその44例目とのこと。(名取市の装置もダイキン製)
マイクロ水力は初期費用が抑えられるうえ、売電収入で投資を回収しやすいため、財政が厳しい自治体にとって導入しやすい脱炭素施策といえますが、メーカーが水道設備の活用を進める背景には、裏事情もあります。
それは河川に水車を設置する場合、土砂や落ち葉などのゴミを取り除くメンテナンスが必要だったり、水利権に絡む法的な手続きが非常に煩雑で時間がかかり、最悪の場合は許可が下りないなどの課題があることです。
そのためメーカー各社は、河川ではなく水道局内や工場内の配水管など、水利権のしばりを受けないところから売り込みを続けているのが現状のようです。
急峻で国土が狭く水量が豊富な日本向き?
水力発電は水の位置エネルギーを利用して発電機を回すため、発電効率は約80%と高い水準にあります(太陽光発電は20%前後)。加えて、天候に左右されることは少なく、また設備の利用率も50~90%と高く、太陽光発電と比較して5~8倍の電力量を発電できます。
といっても、マイクロ水力発電と太陽光発電はそもそもの規模がまったく異なるので単純な比較はできません。しかし前述のような理由でメリットも多く、FIT(固定価格買取制度)の対象にもなっていることから、新たな再生可能エネルギーの手法として少しずつ広がっていくことが予想されます。
今後は、水道水設備だけでなく、高層ビル・学校・病院の排水設備や、洗面台・トイレの洗浄水など、より身近なところで導入されていくのかもしれません。
国土が狭く急峻で、高低差を利用した河川や各種用水の位置エネルギーを利用しやすい日本にとっては、大規模化していく設備よりも、こういったミニマムな再生可能エネルギーのほうが向いているようにも思われます。
最後にマイクロ水力発電のメリット・デメリットを新電力ネットのサイトから転載させていただきました。装置の価格が高いことも普及を阻む大きな要因のひとつですが、価格が下がって行けば新しい展開があるのかもしれませんね。
マイクロ水力発電のメリット
- 大規模な施設を必要とせず、省スペース・短時間でどこにでも設置可能
- 大規模水力発電所に比べ、生態系へ影響を与える可能性が少ない
- 太陽光発電や風力発電に比べ、天候の影響が少なく安定した電力を得られる
- CO2の排出量が少ない
マイクロ水力発電のデメリット
- 法的な手続きに手間がかかり複雑
- 土砂や落ち葉などのゴミを取り除くメンテナンスを要する
- 製造設置の費用がまだまだ高い
- まとまった発電量の確保が難しい
- 景観を損なう恐れがある
(ミカドONLINE 編集部)
参考/引用記事: 日水コン名取マイクロ水力発電所開所式が行われました – 名取市公式ホームページ(水道事業所) マイクロ水力発電所が名取市で稼働 年間発電量は一般家庭77世帯分 電気は東北電力に売却し年間1000万円程度の収益見込む 宮城 – YouTube 既存の水道施設を利用 マイクロ水力発電所開所式 一般家庭およそ77世帯分を発電 宮城・名取市 – YouTube マイクロ水力発電|用語集|新電力ネット 水道管と用水路が「発電所」に:日経ビジネス電子版 群馬県内初 上水道でマイクロ水力発電 藤岡市、官民連携で開始:東京新聞 TOKYO Web など
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