生き物に学ぶ「省エネの達人」たち:ワタリドリはなぜV字に飛ぶ? 長旅を支える省エネの仕組み(6)

    ワタリドリがV字になって飛んでいるのを見たことはありますか?綺麗な隊列だと思う反面、なぜわざわざ斜めに並ぶのか疑問ですよね。
    実はあの隊列には、飛ぶ負担を減らす仕組みがあります。しかも、並ぶ位置さえ合っていればよいわけではなく意外と繊細なようです。

    何千キロにも及ぶ旅を支えるために、飛び続ける体力と、限られたエネルギーを使い切らないための工夫がありました。

    「斜め後ろ」を飛ぶ理由

    自転車のレースでは、前を走る選手の後ろについて空気抵抗を減らすことがあります。
    鳥のV字飛行も仲間の後ろを利用しますが、その仕組みには違いがあります。

    V字に並ぶワタリドリ(画像:photoAC)

    鳥が翼で体を支えると、翼の先から後方へ渦状の空気の流れが生まれます。鳥の真後ろには下向きの流れができる一方、翼の先より外側には上向きの流れができます。

    後ろの鳥にとって助けになるのは、この上向きの流れです。そこに自分の翼が入るよう、前の鳥から少し横にずれて飛ぶと、体を支える力の一部を補ってもらえます。こうした位置に鳥が続くことで、V字や斜め一列の隊列になるのです。

    つまり、前の鳥の陰に隠れるように飛ぶのではなく、翼の横に生まれる空気の流れを使っています。

    羽ばたくタイミングも調整している

    ただし、飛んでいる鳥の翼は、飛行機の翼のように同じ位置にとどまっていません。上下に羽ばたけば、その後ろにできる空気の流れも変化します。

    動き続ける気流を、後ろの鳥はうまく利用できるのでしょうか?

    2014年に発表されたホオアカトキの研究では、鳥に取り付けた記録装置で、飛ぶ位置と羽ばたきの動きを調べました。その結果、斜め後ろを飛ぶ鳥は、前の鳥が残した上向きの気流を利用できるよう、位置関係に応じて羽ばたきのタイミングを合わせていたことが分かりました。

    見た目にはゆったりと飛んでいても、ただ同じ方向へ進んでいるだけではありません。空気の流れが変わるなかで、仲間との間隔や翼を動かすタイミングが飛びやすさにつながっているようです。

    では、前に仲間がいない先頭の鳥はどうするのでしょう。

    2015年に発表された別のホオアカトキの研究では、2羽の間で前後を頻繁に入れ替え、相手の後ろを飛ぶ時間が互いに釣り合う傾向が見られました。先頭がずっと固定されていたわけではないのです。

    自分が前を飛ぶ時間もあれば、仲間の気流を利用する時間もあります。隊列をつくることに加え、前後を交代する動きも、長旅を支えていると考えられます。

    鳥によって変わる隊形

    すべてのワタリドリがV字で飛ぶかというとそうではありません。自ら翼を大きく広げ、上昇気流を利用する鳥もいます。

    タカの仲間のハチクマでは、上昇気流の中を旋回して高度を上げ、その後翼を広げて滑空する姿が見られます。上へ運んでもらった分を使って、今度は前へ進みます。羽ばたき続ける時間を減らし、自然のエネルギーを移動に生かす飛び方です。

    さらに、海を渡る場面では追い風も力になります。日本で繁殖するハチクマの多くは、秋に五島列島の福江島から東シナ海を横断します。長崎大学などの研究では、この移動を支えているのが、秋の東シナ海に吹く北東風であることが示されています。

    長い距離を飛ぶには、翼を動かす力だけでなく、風の利用の仕方も大切なのです。

    出発前の体の変化

    飛び方と同じくらい興味深いのが、旅に向けた体の変化です。

    長距離を渡る鳥にとって、体に蓄えた脂肪は飛行のための燃料になります。ただし、燃料を多く積めば、それだけ持ち上げる体も重くなります。鳥たちは燃料を蓄えることと、それを運ぶ負担の両方に向き合わなければなりません。

    オオソリハシシギを調べた研究では、中継地で栄養を蓄える間に、飛行に使う筋肉の組織量が増えていました。一方、腸などの消化に関わる組織は、栄養を蓄える初期に大きくなり、出発を控えた鳥では腸が小さくなる傾向が見られました。

    たくさん食べて栄養を蓄える時期と、長い距離を飛ぶ時期では、体に求められる働きが違います。必要な燃料をためるだけでなく、筋肉や内臓の大きさまで変わります。渡りの準備は体の内側でも進んでいるのです。

    鳥たちの長旅を知ると、省エネとは「使う量を減らす」だけではないことに気づきます。仲間がつくる気流を利用し、風に運んでもらい、旅に合わせて体を整えています。使えるエネルギーを移動に生かす工夫が、海や大陸を越える旅につながっています。

    次に空で鳥の群れを見かけたら、並び方だけでなく、翼の動きにも目を向けてみてください。短く羽ばたきを休める瞬間や、前後が入れ替わる様子に、長旅を続けるための仕組みが見えるかもしれません。

    参考:先頭は順番で交代、渡り鳥のV字飛行 国際研究,Cover Story:飛行計画:編隊飛行する鳥では、翼の羽ばたきの位相を正確に調節することが空気力学的利益を最大にする,
    渡り鳥の移動距離は体重と飛行様式で決まる〜渡り鳥196種のバイオロギングデータの比較で判明〜,