約20年前、イギリスに留学したある日本人が、ホームスティ先の家主に届いたクリスマスプレゼントにびっくり!それは日本製のホームベーカリーでした。日本で下火になった商品にヨーロッパで出会うとは思わなかったとのこと。
パン食文化の本場に根付いたホームベーカリーは、日本で考案された製品です。最初に開発したのはパナソニック。同社では1984年に炊飯器事業部と回転器事業部と電熱器事業部が統合して電化調理事業部が発足し、各部門の強みを集結させた商品を模索する過程で、自動製パン機のアイデアが浮上しました。「やってみたい」と手を上げたのは、大学で調理科学を専攻していた田中郁子さん。「家でつくるパンはイースト臭い」と消極的な上司に「それは練りが足りないだけ」と言明し、自宅で焼いたパンを会社で配って上司を説得したそうです。
開発チームが最初に着手したのは美味しいパンの定義。メンバーはモデルを探してとことん食べ歩き、ついに目標となるべき食パンに出会いました。それが大阪国際ホテルの食パンだったのです。奇しくも大阪国際ホテルの当時のシェフは田中さんの大学時代の師匠でした。田中さんは社内の極秘事項だったプロジェクトのことは一切伏せたまま、パン作りの技を機械化するためにシェフの元へ日参、その後も数々の苦労を経て1987年にようやく販売にこぎつけました。そして商品は発売と同時に大ヒット!この成功を受けて田中さん達は「海外デビュー」への挑戦を始めます。各国の伝統文化やこだわり箇所の違いに苦労しながら海外向けの商品を開発し、初めて海外販売したアメリカでは「有史以来の大発明!」と売れに売れたそうです。
一時の勢いはなくなったものの、粉を選べることが健康志向やアレルギー体質の方には朗報となり、ホームベーカリーは今も世界中で根強い人気を維持しています。
図版出典:パナソニック株式会社
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