産業用ロボットは様々な工場に導入されていますが、思った以上に機械化が進んでいないのが食品製造業です。中でもお惣菜の分野では、少量多品種の食材を見た目良くパック詰めしたり弁当容器に盛り付けたりする作業の難易度が高く、ほとんどが人手に頼っています。しかし現状は厳しい人手不足。ロボットはその解決策になるのでしょうか?
お惣菜盛付の機械化はとても難しい
TV番組で寿司ロボットやギョーザロボットを見たことがある方は、盛付ロボットのどこがそんなに難しいのだろう?と思われるかもしれません。ですが皆さんはポテトサラダを皿に盛り付けたことがありますか?
自分でつくったことがない方でも、ホテルのバイキング等でポテトサラダがビュッフェスプーンやディッシャーにくっ付いてしまい、何度か皿に強く殴打(?)しないと離れなかったご経験があるのではないかと思います。
実は粘着性の高いポテトサラダは、決められた量を正確に測ってきれいに盛るのがとても難しい食材なのです。
お惣菜として売られているポテトサラダは一見何の変哲もありません。しかしそう考えてみるとそれなりの人手と人の目を経ていることが想像できますし、それはポテトサラダに限った事ではないのかもしれません。
一番難易度が高いポテトサラダの盛付ロボットを4社が共同開発
今年(2022年)の3月、経済産業省と日本惣菜協会が共催で「“ロボットフレンドリー”な惣菜製造自動化」に関する記者発表会を開きました。今まで技術的に困難とされていた総菜盛付ロボットが完成し、実用化されたからです。
実証実験ではなく実際の製造現場で惣菜盛付ロボットが使われるのは、業界でこれが初めてです。記者発表では4社のベンダーが協働で開発した「ポテトサラダをパック容器に盛るロボット」や、㈱アールティ社が開発した「唐揚げなどをお弁当容器に盛り付けるロボット」が実演され、ロボットを導入した工場の盛付ラインの風景なども紹介されました。
この事業は人手不足が著しい惣菜産業に、中小企業でも導入できる安価で手軽なロボットの開発と普及を目指して経産省が公募した「令和3年度 革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」という名称の予算事業です。(事業費の約2/3を経産省が補助)
今回の記者発表は、そこで採択された日本惣菜協会が、会員企業の中から開発側6社と利用側9社を選定してプロジェクトチームをつくり、お互いが密接に連携しながら進めて来た成果でした。
業界の大きな課題の解決には横のつながりが重要
難易度が高いと知りながら、日本惣菜協会が敢えて「ポテトサラダ」に挑戦したのは生産量が最も多いからです。同協会で担当フェローを務める荻野武氏は「ここを乗り越えれば、横展開ができると信じて突き進みました」と語っています。
この事業は特定の会社が開発レースを繰り広げたものではなく、ベンチャー同士の協業(㈱FAプロダクツ、㈱オフィスエフエイ・コム、コネクテッドロボティクス㈱、日本サポートシステム㈱)によって生まれたものです。
担当の荻野氏は日本の家電が絶好調だった時代をよく知る日立製作所のご出身です。けれどその後日本は韓国や中国に追い抜かれ、荻野氏の工場も閉鎖に追い込まれました。そのときに学んだのは、どんな企業も変革できなければ潰れるということ、そして本当の敵は国内の同業他社ではなかったということです。
もしあのとき、日本の家電メーカーが一致団結していたら現状は違うものになっていたかもしれない。その思いが、現在の荻野氏の原点になっています。こちらのインタビュー記事で同氏は、渋沢栄一の合本の精神にも触れていますが、業界の大きな課題の解決には横のつながりが重要というお話も印象的でした。
中小の現場によく馴染み投資が2年で回収できるロボットを
上の写真は株式会社ヒライで実際に稼働し始めた盛付ロボットです。唐揚げやチクワを弁当の容器に配置しているこのロボットがヒト型なのは、人間と同じラインで協働作業することを前提につくられたからです。そのため、人と人の間に設置しても邪魔にならず、見た目も違和感がないこの形になりました。
このロボットを開発した㈱アールティの中川友紀子社長の話では「弁当の盛付は片方の手で他の食材を寄せたり抑えたりする」のでアームは2本あったほうが何かと都合がよく、そうやってどんどん人の動きに近づいていったようです。よく見ると半身なのは、どこにでも簡単に持ち運べるから。
このロボットは可動部がソフトな素材でできているので挟まれても痛くありません。そればかりでなく、万が一、隣の人の手がぶつかってロボットの作業が妨害されても、ロボットはそれを軽く受け流すだけで作業の手を休めません。障害物に当たると緊急停止する産業ロボットとは、そもそもの発想が異なるのです。
🌍 (参考)【食品マシン列伝】盛り付けはお任せ! “人型ロボット”開発秘話『ここまで進化!食品調理スーパーロボット』(日テレNEWS-YouTubeチャンネル)
今回のプロジェクトの目的は、中小企業でも導入ができるロボットの開発と普及です。そのためなるべくコストを抑え、投資が2年で回収できる価格を目指しています。
今回のロボットを導入した会社では、実際にラインの人員削減ができたそうですが、その一社であるマックスバリュ東海執行役員の遠藤真由美氏は「単純作業をロボット化することにより、女性を中心とした従業員にも判断業務や価値のある仕事をしてもらいたい。」と話しています。このロボット開発が色々な意味で中小の総菜産業の希望の光になってほしいものですね。
(ミカドONLINE編集部)
出典/参考記事:「盛り付けの革新」に挑む惣菜業界 | 一歩先への道しるべ ビズボヤージュ 盛り付けロボットが食品工場で活躍 マックスバリュ東海など | 日経クロステック(xTECH) 「ロボットフレンドリーな環境」の実現に向けて、惣菜工場での盛付ロボット等の実用化を開始しました (METI/経済産業省) 惣菜盛付ロボを実用化 作業者シフト、量子コンピューターで計算 – 食品新聞 WEB版(食品新聞社) など