これでなっとく!エネルギー(9)テスラってどんな会社?イーロン・マスクってどんな人?

    みかドン ミカどん

    テスラCEOのイーロン・マスク氏はテスラの創業者ではありません。イーロン・マスク氏はペイパルの創業者とも言われますが、実は本当の創業者ではありません。今回は多くの人が漠然と名前しか知らないテスラ社とイーロン・マスク氏について解説したいと思います。

    テスラはイーロン・マスクがつくった会社ではありません

    今年(2024)の3月始めに、米国でトヨタのハイブリッド車(HV)の販売台数がテスラの電気自動車(EV)を上回ったというニュースが流れました。時代の寵児と言われ世界の注目を浴びてきたテスラですが、EVの販売に陰りが見えてきた現状を受けてテスラ社も失速を強いられているようです。

    (参考)アメリカでEV販売失速、トヨタのHVがテスラのEVを逆転…値段手頃で燃費いいHVが見直される/読売新聞オンライン

    そもそもテスラとはどんな会社なのでしょうか?

    テスラは米国のテキサス州オースティンに本社を置く電気自動車(EV)の会社です。トヨタ・日産や世界の著名な自動車メーカーと大きく異なる点は、最初から電気自動車(EV)だけの製造を目的につくられたEV専業メーカーであることです。※現在は、プラグインハイブリッドカー(PHV)や太陽光パネルなどのエネルギー関連機器も製造しています。(以下、原則としてEV、HV等の略称使用。)

    EV=ガソリンを一切使わずバッテリーと電気モーターだけで動く電気自動車(ex.リーフ)
    HV=ガソリンエンジンと電気モーターを併用して動くハイブリッド車(ex.プリウス)充電不可
    PHV=プラグインハイブリッド車。HVに外から充電できる機能を付加した車(ex.プリウスPHV)

    テスラといえば破天荒な言動で知られるCEOのイーロン・マスク氏が車以上に有名ですが、テスラはイーロン・マスク氏がつくった会社ではありません。

    テスラは石油依存や地球温暖化を懸念したシリコンバレーの二人のエンジニアによって2003年に設立されました。そこに大金を出資したのがイーロン・マスク氏です。マスク氏はその後も次々と資金を投入して同社の株式上場を主導し、やがて2008年にCEOに就任、共同創業者の2名はその前年に追放されるような形で同社を退職しています。

    テスラのビジネスの特長は車を売った販売利益を原資とするのではなく、投資家から募ったお金で車を製造していることです。これは米国の企業によくある手法ですが、目前の売り上げにとらわれず一人勝ちするまで大量の資金を投入し続けて自社の強みと魅力を最大限に上げ、敵が誰もいなくなった状態で一気に莫大な利益を得るやり方です。

    テスラはその発想で従来のEVでは考えられない高性能を実現し、斬新なデザインや新機能も話題を呼びました。そして欧米各国が地球温暖化対策としてガソリン車からEV車への移行を政策決定する中で販売台数を伸ばし、2022年前後まではEV専業メーカーとしてまさに破竹の勢いでした。

    化石燃料を使わないので地球環境によく話題性も十分なテスラ車は、その値段の高さが逆に世界の富裕層のステータスになり、昨年末に中国BYD社のEVに追い抜かれるまでは、長くEVの販売台数が世界ナンバーワンの会社でした。日本でもロンドンブーツの田村淳さんなどがご自身のYouTubeチャンネルでテスラ車を披露していますよね。

    イーロン・マスクってどんな人?

    世界の自動車メーカーで最も長く在職しているCEOであり、長者番付世界一になったこともあるイーロン・マスク氏ですが、車やエネルギーに大きな関心のない方にとっては、Twitter(現エックス)の買収で名前を知ったというケースも多いかもしれません。

    イーロン・マスク氏(1971年生まれ)は南アフリカのプレトリア出身で、その後カナダに移住し米国の大学に入ります。エンジニアの父とモデルの母の間に生まれたマスク氏は裕福な家庭に育ち(両親は後に離婚)、10歳のときに父親にコンピューターを買ってもらいました。今のようなパソコンがまだなく、日本でもコンピューターが30万円以上する時代でした。

    そのコンピューターで独学でプログラミングを覚えたマスク氏はわずか12歳で対戦型のゲームソフトを開発し、それを売って500ドルを手にしたのが最初のビジネスです。ものづくりが好きで、ひとりでロケットを使った実験を繰り返すなど内向的な子供だったようですが、ITに関しては天才的な能力があったと思われます。

    やがてEV用のバッテリーをつくってみたいと思い始めたマスク氏は物理学を学ぶために、いくつかの大学を経て著名なスタンフォード大学の大学院に進学します。けれど、インターネット機能を初めて搭載したWindows95の登場を目にしてすぐに大学院をやめてしまいます。

    詳しい経緯はわかりませんが「これから未来に貢献する技術はインターネットと宇宙とクリーンエネルギーだ」と確信していたマスク氏は方針転換をして、インターネットで起業することにしたのです。

    そしてネット上でシティガイドのようなサイトを製作・運営する会社を弟と設立し、その会社を1999年にコンパック社が買収したため、マスク氏には2,200万ドル(当時の日本円で約26億円)が支払われました。

    イーロン・マスク氏はその資金を元手に今度はインターネット銀行をつくります。けれどネット決済でライバルのペイパル社との競争に決着が付かず、結果的に同社と合併後にCEOに就任するもクーデターに合い解任。しかしその後ペイパルがeBayに買収されたため、筆頭株主だったマスク氏はここでも1億7580万ドル (約200億円)を受け取ります。(マスク氏はこの件でもペイパルの創業者ではないことがわかります。)

    こうやって資金を増やしていったマスク氏は、新たにつくったロケット製造企業「スペースX」の失敗続きでピンチに陥ったり、テスラでも倒産寸前に追い込まれるなど数々の窮地を乗り切ってようやく今に至りました。

    そのテスラの先行きが再び不透明になってきています。それはEVの売れ行きがここに来て鈍化していること。そして世界がHV(ハイブリッドカー。プリウスなどのエンジン・モーター併用車)を再評価し始めたことが原因のようです。

    欧米でEV販売に陰りが見えてきています

    このサイトでも過去に書きましたが、一時はEUがHVをエコカーと認めず「2035年にHV販売禁止」方針を打ち出すなど、HVに強みを持つ日本車の苦戦をお伝えしました。たとえ一滴でも化石燃料であるガソリンを使う可能性がある「エンジンを持つ車」はすべてNGという考え方です。

    しかしEUは2023年に規制を緩和し条件付きで認める方針転換を行いました。条件というのは「二酸化炭素(CO2)と水素を合成して作る液体燃料「e-fuel」(イーフューエル)のみを使用する車両の販売は認める」というものです。

    この背景には自動車を基幹産業とするドイツの反発などもあったようですが、条件緩和と言えども指定の合成燃料はガソリンの2~5倍と高額なため、現状では未来は大きく変わらないと言えそうです。

    ですが世界のマーケットではEVよりもHVを評価する傾向が高まっており、安くて燃費がよくトラブルも少ないHVのほうがずっと安心できるというユーザーの本音が売れ行きに反映しているようです。

    そもそもEVはバッテリー自体が寒さに弱く低温になると機能が劣化します。また広大な面積の米国では人家の全くない厳寒の荒野のような地域を何時間も運転して移動することが多く、充電スポットがそこまで行き渡っていないことも利用者の不安につながっています。

    雪が多い日本でも冬場のEVのバッテリー切れや立ち往生を心配する声がありますが、EVを希望する富裕層や各国の政府系組織にはすでにEVが普及し終わったとみられる今、中間層の間では環境問題よりも現実を優先する傾向が世界中で顕著になってきているとのこと。

    市場の変化を受けて、米ゼネラル・モーターズはEVの生産目標を撤回し、今後はプラグインハイブリッド車(PHV)の生産に注力する方針です。独メルセデス・ベンツも、2030年までに販売する新車をすべてEVにする計画を撤回し、韓国現代もHVに力を入れ初めています。

    しかしテスラのライバルはHV車だけではありません。BYD以外にも中国資本のEV専業メーカーが次々と立ち上がり価格面で猛攻をかけ始めています。

    私のような一般市民は高みの見物が可能ですが、EVやHVやPHV(加えてFCV、水素自動車というのもありますね)いずれにしても、自動車産業の中核にいる方にとっては、なんとも先行きの見えない手探りの時代になってきているようです。トヨタが自動車産業からの脱却を目指しているのも納得がいく気がします。

    (ミカドONLINE編集部)


    引用・参考/テスラはなんの会社?何がすごいのかを分かりやすく解説! | 輸入車のカーナビ・地デジ取り付けはD.I.J埼玉・東京・群馬 アメリカでEV販売失速、トヨタのHVがテスラのEVを逆転…値段手頃で燃費いいHVが見直される : 読売新聞  テスラ強気派の迷い深まる、EV普及のバラ色シナリオに狂い – Bloomberg アメリカでEV販売が急失速、政府目標に暗雲「2022年はEVへ多大な希望。今や熱は冷めた」 | 特集 | 東洋経済オンライン テスラが創業20周年、“イーロン・マスク劇場”と歩んだ激動の歴史 | WIRED.jp テスラの歴史 | Strainer  EUがエンジン搭載車禁止を撤回、2035年以降も合成燃料の車両が可能に[新聞ウォッチ] | レスポンス(Response.jp) など