エネマネ最新事情(31) ~水素の価値が急浮上!世界が競い始めたのはただの水素ではなく「グリーン水素」~

    みかドン ミカどんまだまだ課題が大きいため水素で走る燃料電池車や「水素社会」の実現に国内では懐疑的な声もあります。しかし欧米や中国はこの2~3年で水素社会に本気で舵を切りました。ここにきて突然世界の競争が激化した背景にはグリーン水素の価値が急浮上していることが挙げられます。でもグリーン水素ってなに?

    再生可能エネルギーからつくられる水素がグリーン水素

    (画像:ENERGY GHANA

    グリーン水素とは二酸化炭素(CO2)を排出しない再生可能エネルギーの電力で水を電気分解して得られる水素のことです。水素は直接燃焼させても燃料電池として使用しても二酸化炭素を出さないので、それがもし太陽光や風力発電の電気で製造できるならまさに究極のクリーンエネルギーと言えます。

    これに対して二酸化炭素を大気に排出する従来方式の水素はグレー水素、従来通りの製法でも二酸化炭素を隔離・貯蔵して大気に排出しないものはブルー水素と呼ばれ、最近ではそれらが区別されるようになりました。

    水素は次世代エネルギーのゲームチェンジャーになると予測する海外の専門家もいますが、そのためにはただの水素ではなく、どうやってつくる水素か?ということが大変重要になってきたのです。

    しかし現在製造されている⽔素は、ほぼ全てが「グレー」⽔素です。それは現在製造されている水素のほとんどがアンモニアと肥料の製造や⽯油の精製が目的であり、天然ガスなどの化石燃料を改質して水素を取り出す方法が一番安価で歴史的にも安定しているからです。

    一方、グリーン水素の製造には多額のコストがかかります。水を電気分解する電解層の設備投資が大変高価なので、得られる水素も高額なものになり、現在グリーン水素はグレーおろかブルー水素に対しても競争力はまったくありません。

    それでもここ数年は各国がグリーン水素を重視する方針を打ち出し、巨額の投資マネーが動き始めています。それはなぜでしょうか?

    グリーン水素は電力の平準化に役立つ

    (画像:東芝の水素社会に向けた取組

    ゴールドマン・サックスによれば、グリーン水素は2050年までに世界のエネルギー需要の25%を供給し、2050年までに10兆米ドルの市場になると予測されています。

    水素社会の実現は、今まで日本だけが独自の単独路線で進めている印象がありましたが、グリーン水素の考え方が出始めてからは世界の認識が変わりました。

    それはグリーン水素が電力の平準化に役立つからです。

    再生可能エネルギーの余剰電力で水素をつくることにすれば、気象条件で大きく変化する発電量の増加を吸収できます。そしてこの仕組みの研究開発が進んでコストが下がりそれが世界に広がれば、出力制限など考えずにもっともっと再生可能エネルギーを増やしていけるかもしれません。

    世界では今、そういったグリーン水素の有効性に注目し始め、各国が国を挙げて新しい政策を打ち出しているのです。すでにEUではグリーン水素を普及させることを政策として掲げ、水素社会に向け89兆円という巨額投資をすでに決めています。また中国では4月29日に世界最大の太陽光発電水素プラントが稼働を開始しました。

    いまや日本だけではなく、オーストラリア、チリ、ドイツ、EU、ニュージーランド、ポルトガル、スペイン、韓国、米国等、多くの国が水素の国家戦略を発表しています。こうやって多くの国が政策に掲げ大量の資本が投下されれば、高価なグリーン水素の価格も段々下がりやがて少しずつ競争力を持ち始めると思われます。

    また民間企業にとっては様々な産業分野でEUなどが二酸化炭素抑制に関して重いペナルティを課している点も懸念材料です。排出量取引制度を導入している国では、CO2の排出コストが今後10年間で50%上昇することが予想されるため、安価なグレー水素もやがて価格が高騰する可能性が出てきました。

    そういった現状を背景に、今は価格的にグレー水素に太刀打ちできないグリーン水素も段階的にブルー水素に肩を並べ、やがてグレー水素に対して競争力を持ち始めると予想されています。そこでいっせいに(しかもできるだけ早く)世界が参入し始めたようです。

    日本でも研究開発が加速しています

    (画像:福島イノベーションコースト構想

    国内では今まで水素と言えば自動車だけが話題になってきましたが、どうやら世界はもっと大きなものを目指して動き始めたようです。

    日本でも今年(2021年)の3月7日、福島県浪江町で世界最大級のグリーン水素製造拠点「福島水素エネルギー研究フィールド」の開所式が安倍首相(当時)も出席して行われました。

    この施設は、ここで製造された水素がオリンピックの聖火や大会車両(燃料電池車)に使われるなど、日本が水素社会に向けて大きく踏み出したことを世界にアピールする役目もあるようです。

    ですが、NEDOを中心に東芝や東北電力、岩谷産業が参加するこの施設の真の意義は、再生可能エネルギーの電力調整に水素製造を組み合わせる技術の確立にあります。

    これは「スタートは早かったが今は取り残されている」という見方も出てきた水素、中でもグリーン水素の分野で、日本が劣後にならないための重要な意味を持つようです。

    (参考)水素を電力の調整力に 貯蔵で再エネ安定 福島・浪江で実証

    またENEOSと千代田化工建設は「グリーン水素」の製造プラントを共同開発する事業に乗り出しました。

    こちらは電気分解に関する独自技術を使って設備投資を抑え、水素価格を1キログラム当たり330円と、現在の3分の1程度にするのを目指すそうです。

    (参考)「グリーン水素」価格3分の1に ENEOSと千代田化工

    ここにきてにわかに活況を帯びてきたグリーン水素ですが、本格的に競争力を持ち始めるのは2050年以降と言われています。けれど勝算があると見込んだ時の世界の動きは非常に早いです。グリーン水素は今後のエネルギー転換に大きな意味を持つと感じました。

    (ミカドONLINE編集部)


    参考記事:NAMIBIA: LOOKING TO THE FUTURE WITH GREEN HYDROGEN グリーン水素・ブルー水素 水素エネルギーの成長軌道 – KPMGジャパン 「グリーン」水素を通じて次のゼロエミッション革命を創り出すには? 中国で大規模なグリーン水素製造が始まる China’s Baofeng Energy switches on hydrogen plant tied to 200-MW solar park

    など

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