(66)世界の自然エネルギー動向~電源構成で見る特徴的な各国の再エネ導入~

    みかドン ミカどん

    第7次エネルギー基本計画の策定に関して、様々な意見が報道され始めています。
    「エネルギー基本計画」は概ね3年ごとに改定される日本のエネルギー政策の指針で、今年(2024)がその改定の年に当たるため、現在、詳細な議論が進められています。(今期は年度末までに策定される見込)
    エネルギー基本計画の中で、メディアや事業者に特に注目されるのが電源構成の見通しですが、世界では現在どのようになっているのでしょうか?今回は各国の特徴ある再生可能エネルギー導入について見ていきたいと思います。

    世界で再生可能エネルギーが加速中

    (画像:AIによる作成)

    IAEのデータをもとにAIが作成した世界全体の電源構成のグラフです。「その他の再生可能エネルギー」にはバイオマス・地熱・海洋エネルギー(波力、潮力、温度差発電)などが含まれます。

    【世界全体の電源構成】
    ・石炭: 35%
    ・天然ガス: 23%
    ・水力: 16%
    ・原子力: 10%
    ・風力: 7%
    ・太陽光: 5%
    ・その他再生可能エネルギー: 3%
    ・石油: 1%

    気候変動対策(温室効果ガスの削減)や脱炭素化目標のため、石炭火力は削減傾向にあります。しかし、安価で供給も安定している点と各国のお国事情が関わり合い、世界全体という視点で見れば石炭火力発電は今も存在感のある重要なエネルギー源です。

    その一方で再生可能エネルギー(自然エネルギー)の導入も加速しており、水力発電も含めた割合ではすでに世界の3割に至っています。

    エネルギー先進国ドイツの電源構成

    (画像:AIによる作成)

    ドイツでは「エネルギーヴェンデ(エネルギー転換)」政策を掲げ、再エネの大規模導入が国を挙げて推進され、特に風力発電と太陽光発電の導入が進んでいます。

    広く平らな土地を持つドイツは再エネを大規模に導入しやすいという特徴があり、平地の多い国土は再エネ電力を都市部へ効率的に供給する送電網の拡充も容易にしています。

    【ドイツの電源構成】
    石炭: 28%
    天然ガス: 15%
    水力: 3%
    原子力: 12%
    風力: 23%
    太陽光: 10%
    バイオマス: 7%
    その他: 2%

    ドイツがエネルギーヴェンデ政策を行っている主な理由は、脱原子力気候変動対策のために、再生可能エネルギーを中心とした持続可能なエネルギー供給へ転換し、エネルギー安全保障温室効果ガスの削減を実現するためです。

    ドイツのエネルギーヴェンデの背景には1970年代のオイルショックや、1986年に地続きのロシア(現:ウクライナ)で起こったチェルノブイリ原発事故があります。

    そのたびに国内で反原子力運動が段階的に活発化し、やがて当時のメルケル政権が「2022年までの原発全廃」と「再生可能エネルギーの導入加速」を決定して本格的な国家政策になったのは、福島第一原発事故(2011年)がきっかけでした。そして現在はCO₂排出量削減のため、2038年までに石炭火力を全廃する計画が進行中です。

    ドイツでは地域主体で発電所を運営する事例が多く、市民や地域コミュニティが再生可能エネルギーの発電所を保有・運営するエネルギー協同組合が増えています。

    ドイツのエネルギーヴェンデは国民の意識と科学的提言が結びつき、市民参加や分散型エネルギーシステムが特徴のひとつであり、世界的にも先進的な取り組みとして評価されています。

    太陽光の割合が世界でナンバーワン!オランダの電源構成

    電源構成で太陽光発電の割合が世界で一番多いのはオランダです。

    【オランダの電源構成】
    石炭: 約13.9%
    天然ガス: 約39.6%
    水力: 約0.0%
    原子力: 約3.7%
    風力: 約17.9%
    太陽光: 約14.9%
    バイオマス・地熱・その他: 約7.2%
    石油: 約2.7%

    オランダの国土面積は日本の九州と同じで決して広い国とは言えません。そのため割合で見た場合には数値が上がりやすいとも言えますが、オランダの再エネ導入では住宅や商業施設が大きな役割を果たしています。

    オランダは国土が狭く平地が多いため、大規模な地上設置には限界がある一方、住宅や商業施設の屋根を利用した太陽光パネルの設置が進みました。さらに、政府の支援策や市民の積極的な参加が後押ししました。これにより、新たな土地を必要とせず、既存の建物を最大限活用して効率的に太陽光発電を導入できたのです。

    またオランダは伝統的に風車が有名ですが、これも国の施策ではなく、自然を生かした動力源として農家単位で広まっていたものなので、風力発電の普及もその延長上にあります。

    オランダの再エネ導入は市民が主導権を持って普及の中心を担っている点が特徴といえるかもしれません。

    風力発電の割合が世界でナンバーワン!デンマークの電源構成

    (画像:AIによる作成)

    電源構成で風力発電の割合が世界で一番多いのはデンマークです。

    【デンマークの電源構成】
    石炭: 13%
    天然ガス: 6%
    水力: 0%
    原子力: 0%
    風力: 48%
    太陽光: 3%
    バイオマス・地熱・その他: 30%
    石油: 0%

    デンマークは北海とバルト海に面しており、強く安定した風が年間を通して吹くため、風力発電に非常に適しています。特に、北西部の平坦な地形や沿岸地域は風が強く、風力タービンの効率的な運転が可能です。また北海沿岸も風速が高く安定しており、風力発電の稼働率が高くなるため、洋上風力発電が積極的に導入されています。

    デンマークは風力発電技術の開発で世界をリードしており、風が強い地理的条件を最大限に活かすため、洋上・陸上の風力発電所の建設を進めてきましたが、それに政府の支援策やインフラ整備が追い風となって風力発電の導入が加速しました。

    デンマークは技術革新は政府の支援で、風の強さを最大限に活用する再生可能エネルギー大国としての地位を築いています。

    ちなみにデンマークは寒冷地のため地域暖房システムが広く普及しています。デンマークの再生可能エネルギーではバイオマス・地熱の割合も高いのですが、そちらは電力してではなく主に地域暖房として利用されているそうです。

    日本の国土を生かした再エネ導入とは?

    日本の2021年の電源構成は以下の通りです。

    【日本の電源構成】
    石炭: 31%
    天然ガス: 34%
    水力: 8%
    原子力: 7%
    風力: 1%
    太陽光: 9%
    バイオマス・地熱・その他: 6%
    石油: 4%

    再エネの導入率はエネルギー先進国と言われるヨーロッパ諸国よりもぐっと低く、途上国も含めた世界全体の割合よりもさらに低いこことに気づかされますが、これには狭くて平野が少なく急峻な国土という特徴だけでなく、世界の危機感が国内に伝わってこないことや、正当な手法で科学的に算出されたデータを信じず、それらのすべてに懐疑的な見方をする国民性なども反映しているようです。

    先に「2050年再エネ9割の未来 脱炭素達成のシナリオと科学的根拠」という書籍を上梓した工学博士の安田陽氏は「再エネ9割」は科学的に可能であるとして、日本は地域ごとにその特性を生かした再エネを導入して、技術力でそれらを相互に連携させていくのがベストではないか?と述べています。

    それぞれの国内事情は以下の通りです。

    太陽光発電
    ・住宅や工場の屋根などを利用した分散型太陽光発電
    ・農地との併用(ソーラーシェアリング)も効果的
    風力発電
    ・日本海側や北海道、東北地方など風況が良好な地域での陸上風力発電が有望
    ・洋上風力発電も期待できる
    地熱発電
    ・日本は世界第3位の地熱資源量を持つとされており、東北地方や九州地方を中心に地熱発電のポテンシャルが高い。
    ・ベースロード電源として、昼夜を問わず安定した発電が可能。
    水力発電(特に小水力発電)
    ・日本には多くの河川があるため小規模な水力発電(小水力発電)が地方自治体や農村地域に適している。
    バイオマス発電
    林業が盛んな地域では、間伐材や林業廃材を利用したバイオマス発電が有効。
    食品廃棄物や下水汚泥などを活用するバイオガス発電も選択肢

    ここでは割愛しますが、もちろんそれぞれに課題はあります。また再エネ導入に関して日本ではヨーロッパのような市民運動が起こりにくいかもしれません。

    ですが、アイスランドのように国内エネルギーの100%を再生可能エネルギーで補っている国もあることを知ると、少し意識が変わる気がします。

    来年3月末までには発表される日本の「エネルギー基本計画」に関心が高まってきました。

    (ミカドONLINE 編集部)


    参考/引用記事:   など

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