
核融合発電の開発が進んでいます。「核」と聞くとなにやら怖くて危険な印象を持ちますが、核”分裂”を利用した原子力発電と、核”融合”を利用する核融合発電はまったく別物らしいのです。今回は核融合発電に焦点を当ててみました。

米国で世界初の商用核融合発電所の建設計画
昨年(2024)の12月17日、核融合ベンチャーの米コモンウェルス・フュージョン・システムズ(CFS)が「世界初」となる商用の核融合発電所を米バージニア州リッチモンド近郊に建設すると発表しました。
これは電力網で利用できる規模としては世界で最初の核融合発電所となる見込みで、2030年代初めまでの稼働を目指しており、運転開始後は400メガワットの出力で約15万世帯に電力を供給する予定だそうです。
核融合発電とは、原子核同士を融合させてエネルギーを生み出し、それを電力に変換する技術です。自然現象として太陽内部で起きている核融合反応を人工的に再現してエネルギーを取り出す手法のため、核”分裂”反応を利用する原子力発電よりも安全性や原料調達の面でメリットが大きく、世界中で開発が進んでいます。
日本にも茨城県那珂市にある那珂核融合研究所や、岐阜県土岐市にある核融合科学研究所などに核融合炉があり、そのうち茨城県那珂市の施設はトカマクという方式の核融合実験施設としては世界最大であるとして、2024年10月にギネスにも認定されました。
JT-60SAがギネス世界記録TM「最大のトカマク型装置」に認定~世界最大のトカマクとしてプラズマ体積160立方メートルを達成~
しかしこれらはあくまでも実験施設のため、実際に商用電力を供給する今回の米ベンチャーの計画は今後の成り行きが注目されているのです。
核融合発電は核同士が融合するときの膨大な熱を発電に使います

核融合発電は同位元素と呼ばれる水素の仲間を使った発電です。
通常の水素は原子核の中に陽子がひとつだけある物質ですが、地球上にはまれに(0.015%)陽子だけでなく中性子を持つ水素が存在します。これは重水素と命名されています。また、それ以上に著しく希少ではありますが、水素の中には中性子が二つある水素も存在します。それはトリチウムと言われます。

核融合発電はこの重水素とトリチウムを1億度以上の超高温で融合させて、ヘリウムという物質に変化したときに発生する膨大な熱をエネルギーとして利用する発電方式です。
なにやら難しそうですが、物質は化学的な変化で熱を出すことがあり、たとえば使い捨てカイロなどは鉄が空気に触れて酸化鉄に変わるときの熱を利用しています。乱暴なたとえですが、そういった自然現象を様々な技術で人工的に発生させるのが核融合発電と言えるのかもしれません。そのため連鎖的に核分裂を発生させてエネルギーを得る原子力発電とは根本の仕組みが異なります。
また、1グラムの水素からタンクローリー1台分(8トン)の石油燃焼と同じエネルギーが得られると言われている核融合発電は、ウラン燃料1グラムから石油1.8トン分と言われる原子力発電よりも重量に対するエネルギー効率が非常によいことから、今後の開発次第では、従来型の発電所の役割を担っていくのではないか?という見方もあります。

とはいえ、核融合で発生した大量の熱を何に使うか?といえば、結局のところ、お湯を沸かすことです。その蒸気で発電タービンを回すので、出口に変わりはありません。
要はそのためのエネルギー(熱)を化石燃料に頼らずにどうやって調達するのか?という論議の中で浮上してきた手法のひとつと言えるかもしれません。
日本はITER(イーター)計画に参加しています
核融合発電には以下のようなメリットがあるため、世界中で研究開発が行われています。
- 化石燃料を燃やさないため、二酸化炭素(CO2)の排出がない。
- 原子力発電と比較して安全性が高く、核反応の暴走が起こりにくい。
- 燃料の重水素は海水中に豊富に存在するため、低コストで莫大なエネルギーを得ることができる。
日本もEU、アメリカ、ロシア、中国、韓国、インドと共に、核融合発電の技術確立を目指すITER(イーター)という国際プロジェクトに参加しており、昨年の12月には世界中から名古屋に研究者が集まり勉強会が開催されました。
しかしその一方で以下のような課題も大きく、ITERが計画していたフランスの実験施設は、計画が9年延期され、稼働開始が2034年に修正されました。
- 核融合反応の制御が難しく、安定した発電が期待できるまでには至っていない。
- 核融合反応の安定には燃料を1億度の超高温に維持する必要があるため、装置が巨大で建設や運転にかかるコストが大きい。
ちなみに「融合」は英語でフュージョンというため、核融合発電は英語で「Nuclear fusion power plant」です。ドラゴンボールの「フュージョン」のように超パワーが生まれる日は来るのでしょうか?その意味でも、米CFS社の今後が気になるところです。
(ミカドONLINE 編集部)
参考/引用記事: 「世界初」の商用核融合発電所、建設地はバージニア州 米ベンチャー発表 – CNN.co.jp など
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