CO2を出さない脱炭素燃料として水素・アンモニアがセットでよく話題に出るようになりました。ですがアンモニアに注力しているのは世界で日本だけなんです。今回はそんな燃料アンモニアについての記事です。
日本だけが注力するアンモニア燃料発電
燃やしてもCO2を出さないアンモニアが水素と共に「脱炭素燃料の切り札」として紹介されている報道をよく見かけるようになりました。政府のエネルギー基本計画でも2021年に初めてアンモニアが登場し、このサイトでも過去に記事で取り上げています。
(過去記事)石炭がアンモニアに置き換わる?突然、急浮上したアンモニア発電と日本の商機
ですがどうやらアンモニア発電に注力しているのは世界で日本だけのようです(現時点)。一番の理由は経済性です。アンモニアを脱炭素燃料として活用した場合、再生可能エネルギーよりもずっとコストが高くなってしまうのです。
そのため国土の平野部が広く、太陽光発電などの再生可能エネルギーを今後も増やしていける欧米各国では、実はあまり注目されていません。
それどころか、日本のアンモニア政策に対しては批判的な考えがあるのも事実です。なぜなら日本のアンモニア燃料の当面の用途は、石炭火力発電の石炭に混ぜて(混焼)CO2を減らすことだからです。それが「(本来は早々に廃止すべき)石炭火力発電を延命している」というのが海外の論調です。
しかし欧米諸国に比べ電源構成における石炭火力発電の割合が高い日本の場合は、石炭火力発電の大胆で急激な廃止は難しいのが現実です。
また太陽光発電も現在は適地がほとんどなくなってきていることから、石炭火力発電に関しては廃止以外のCO2削減策を模索しなくてはならないという現状があります。
ちなみにヨーロッパではドイツも石炭火力発電の割合が高い国ですが、ドイツは再生可能エネルギーが普及している(日本の2倍)だけでなく、自然由来のエネルギーが万が一不安定になっても、送電網が国際連系線で周辺国と繋がっているなど、狭い島国の日本と単純に比較することはできないようです。
上の図を見ると中国の石炭火力の高さも気になりますが、中国は自国の安全保障のためにエネルギー自給率を上げる政策を取っており、世界に逆行する形で石炭火力の割合をむしろ増やしているという独自路線のようです。
グリーンアンモニアとブルーアンモニアでCO2削減が可能
アンモニアを脱炭素燃料としてつかっていくためにはコスト以外にも大きな課題があります。それはアンモニアが製造段階で大量のCO2を排出することです。
現在ほとんどのアンモニアが天然ガスなどの化石燃料から作られていますが、アンモニアの製造には大量のエネルギーが必要(高温高圧)なうえに、原料の化石燃料からも大量のCO2が発生するのでは、いくら燃焼時にCO2を出さないといってもまさに本末転倒です。
そこで考えられているのが「グリーンアンモニア」「ブルーアンモニア」と呼ばれる以下の2つの方法です。
グリーンアンモニア・・・アンモニアを化石燃料の改質ではなく水の電気分解で製造します。(正確にはアンモニアの材料となる水素を電気分解で生成)このときに使用する電力を再生可能エネルギーで賄えばゼロエミッション燃料(CO2排出ゼロの燃料)となり、完全にクリーンなエネルギーなので「グリーンアンモニア」と呼ばれます。
ブルーアンモニア・・・従来通りの方法で製造し、製造過程で発生するCO2を回収して再利用したり長期間地中に埋めたり(CCS)する。完全にクリーンとは言えないが、グリーンアンモニアに準ずる方式として「ブルーアンモニア」と呼ばれる。
※ちなみに従来の製法でつくられたアンモニアは「グレーアンモニア」と呼ばれます。
アンモニア燃料発電は世界でまだ実用化されていませんが、技術で先行している日本では、2021年からJERAとIHIが愛知県の碧南火力発電所で実証実験を開始し、今年度中(2023)に燃料アンモニアの大規模混焼(熱量比20%)に取り組む予定です。
アンモニアは燃やすと有害な窒素酸化物(NOx)を出すという欠点を持ちますが、安全に燃やせるアンモニア専焼バーナーは三菱重工が開発中。また2026年には川崎重工も沖縄県の具志川火力発電所で混焼によるアンモニア発電の実証事件を開始します。
しかし大規模な再エネ施設を必要とするグリーンアンモニアや、地震大国でCO2の地中の埋め込みには不安が残るブルーアンモニアは共に国内での製造が難しく、脱炭素のためにアンモニア燃料発電(混焼含む)を実現するには、クリーンなアンモニアをいかに海外から安定的に調達するか?という課題も残ります。
批判の先鋒が和らいだ今こそチャンス?
報道されるイメージとは異なり、実用化に至るまでには難問が山積みのアンモニア発電ですが、ここに来てアンモニア発電に対する世界の見方が少し変わってきました。
きっかけはロシアのウクライナ侵攻です。それによって石炭火力に厳しい目を向けてきた欧州などでエネルギー危機が深刻化して来ています。
エネルギー危機が世界に広がったのは、ロシアが石油・天然ガス・石炭の主要な輸出国の一つだったからです。
そのため欧州各国ではロシア製の天然ガスに頼れなくなり、石炭火力再活用の動きが広がっているそうです。その流れの中で「石炭火力発電の延命措置」と批判された日本のアンモニア燃料発電への取り組みも、以前よりは一定の理解が得られているようです。
もし今後、アンモニア燃料発電が実用化されたらその技術は、日本と同じように石炭火力への依存度が高いアジア諸国のCO2削減に貢献していけるかもしれません。アンモニア燃料発電の開発にはそういった海外展開も念頭にあるのは事実です。
そのためにも欧米の批判が和らいだ今こそが、アンモニア燃料発電を一気に推進する絶好の好機ととらえる見方もあります。
50年前、石油採掘現場で発生する不要なガスに日本などがいちはやく目を付けたことで、やがてLNGは世界に欠かせない燃料となりました。
アンモニア燃料発電には、官民挙げて第二のLNGを狙うチャレンジャーたちの熱い思いが込められているのかもしれません。
(ミカドONLINE編集部)
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参考/引用記事:日本企業が「執着」するブルー水素・アンモニア技術は、「座礁資産化リスクが高い」。豪環境NGOがレポートで、三菱商事、JERA等5社の取り組みを分析して投資家に警告(RIEF) | 一般社団法人環境金融研究機構 日本のアンモニア・石炭混焼による脱炭素化戦略のコストは高く、再生可能エネルギーの方が経済性に優れる|ブルームバーグ エル・ピーのプレスリリース アンモニア発電は脱炭素社会の新潮流となるのか(三菱信託銀行調査月報PDF) アンモニア発電のガラパゴス化に警鐘 | 電気新聞ウェブサイト 日本が先行しているアンモニア発電は脱炭素の切り札となるか | EnergyShift 碧南火力発電所のアンモニア混焼実証事業における大規模混焼開始時期の前倒しについて 企業リリース | 日刊工業新聞 電子版 川崎重工、沖縄でアンモニア発電の実証実験へ:日本経済新聞 など
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