従来は捨てられていた廃棄物等を活かし、新たなエネルギー資源として活用している企業や自治体をご紹介しています!第2回は純米酒「東光」で知られ江戸時代には上杉家の御用酒蔵だった米沢の老舗酒造 小嶋総本店の取り組みです。
「東光」の小嶋総本店が再生可能エネルギーで日本酒製造
「東光」で有名な山形県米沢市の酒造会社 小嶋総本店 が今年(2023)の2月から、日本酒製造に使う電気のすべてを、自社の酒かすを活用した再生可能エネルギーに切り替えました。
日本酒造りは日本の伝統産業でもありますが、製造や貯蔵技術が進歩するとともに消費電力も増えているのが現状です。
小嶋総本店が年間に使用する電力と重油を計算したところ、約40名いる従業員ひとりあたりのCO2量は一般家庭の約12倍。そのため小嶋健市郎社長によれば「品質を維持しながらCO2排出量を抑えるにはどうすればいいかが大きな課題だった」そうです。
同社ではこれまでにも原料由来の廃棄物を出さない酒造りを行ってきましたが、今回の取り組みによって製造によるCO2排出量が約1/3に削減されるとのこと。
ですが、小嶋総本店の「東光」の酒かすは前回ご紹介した霧島酒造のように自社内の設備で処理されているわけではありません。
地域を循環するローカルなエネルギーサイクル
実は、小嶋総本店の「東光」の酒かすは、バイオガス発電に使われる前にもう一度再利用されています。同社では「東光」の酒かすを蒸留して焼酎をつくり、その焼酎で仕上げた梅酒を「東光吟醸梅酒」という商品名で市販しています。
(この梅酒は日本酒の香りがする独特な風味の甘口梅酒として人気があります。)
そして最後に残った焼酎かすが同じ置賜(おきたま)地域にある「ながめやまバイオガス発電所」(山形県飯豊町)に運ばれてバイオガス発電に使われているのです。
「ながめやまバイオガス発電所」は2020年、飯豊町の眺山(ながめやま)という場所に建設された地産地消型のバイオガス発電所です。
ここでの主原料は隣接する牛舎から出る肉牛の糞尿です。飯豊(いいで)町は米沢牛の4割を生産している畜産がさかんな地域のため、この発電所はそれを活用するために地域の畜産農家と連携して建設された施設ですが、副原料として地域の食物残渣も受け入れています。
小島総本店では1年ほど前から、この発電所に焼酎かすを受け入れてもらい、月2回ほどトラックで発電所に運ぶようになりました。
そして自分たちの焼酎かすが使われているこの発電所の電力を、この2月から日本酒製造のために購入することにしたのです。まさにエネルギーの循環ですね。
400年以上続く会社がこれからの100年のために
小島総本店は安土桃山時代(慶長2年・西暦1597年)に創業し、国内に現存する中で13番目に古い酒蔵です。400年もの長きにわたって酒をつくり続けてきた歴史が、天地の恵である米や水に感謝する精神を生み、契約農家と共に田んぼ作りから始まる酒造りを行ってきました。
そんな同社にとって近年の気候変動は新たな不安になってきました。台風や豪雨の規模が大きくなる中で、同社が位置する山形県置賜地方でも8月の豪雨で橋が崩れ在来線が運休するなど、その影響は身近なところで発生しています。
日本酒業界には100年単位で続いてきた老舗企業が数多くありますが、小島総本店では「次の100年も続いていくためには持続可能な酒造りに進化することが求められている」と考えて再生可能エネルギーの購入を開始しました。
前回ご紹介をした霧島酒造では社内にバイオガス発電プラントを建設して電力会社に売電を行うものでしたが、バイオガス発電プラントは発酵のためのメタン槽に高額な費用がかかるため、大企業でないとなかなか自前では設置できません。
ですが、置賜地方には2年前に稼働を開始した「ながめやまバイオガス発電所」という施設があったため、地域内の連携によってエネルギーの循環サイクルができあがりました。
こういった自然を大切に守り続ける風土や地域連携、そして新しい技術手法への積極的な取り組みが、小島総本店の長い歴史をこれからも支え続けていくのではないかと思います。
(ミカドONLINE編集部)