(70)最新だけど原始的?「岩石蓄熱発電」はプリミティブでフィジカルな発電だった

    みかドン ミカどん

    昨年(2024年)の11月から新しい発電方法の実証実験が開始されました。その名は「岩石蓄熱発電」。今回は意外にアナログでローテクなこの技術をご紹介します。

    東芝が岩石蓄熱の実証施設を

    今月(2025年3月)、東芝と中部電力と愛知県岡崎市が岩石蓄熱技術を用いたエネルギープラントの導入について協定を結びました。

    これは環境省の令和6年度「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」に採択された事業で、協定を結んだのは東芝の子会社:東芝エネルギーシステムズ株式会社と二団体です。

    (参考)国内最大規模の熱容量となる岩石蓄熱エネルギーマネジメント設備の導入に向けた協定を締結 | ニュースリリース | 東芝エネルギーシステムズ

    岩石蓄熱は熱しやすく冷めにくい特徴を持つ岩石を「自然の蓄電池」として使う技術です。

    余剰になった再生可能エネルギーの電力などで岩石を加熱し、ここから放熱をして熱エネルギーとして利用します。また、電気として使う場合は、岩石が発する熱で水を温め、水蒸気を発生させて蒸気タービンと発電機を動かすしくみです。

    そのため東芝の実証施設は、加工プロセスに大量の蒸気を使う製紙会社(新東海製紙)の工場内につくられました。同社ではすでに蒸気システムが稼働しているためそれを活用できること。そして同工場ではバイオマスボイラーを導入していますが、その余剰電力を活かして実証ができることなどが背景にあるようです。

    石焼き芋や石焼ステーキ、そしてサウナなど、石の保温効果は生活の中で様々に活用されていますが、これを発電にもうまく活かすことができれば、高価なレアメタルを使った蓄電池が不要になる可能性も示唆されています。

    ほかにも、岩石なら寿命がある蓄電池と違ってほぼ永久に使える点や、材料調達の容易性、素材の安全性、レイアウトの自由度などが利点として挙げられています。(課題は後述)

    「自然のめぐみ」にエネルギーを蓄える

    (画像:東芝より)

    岩石蓄熱による発電は、熱して高温になった岩石が蓄電池のような役割を果たすため、「岩石蓄電池」発電、あるいは岩石発電などと呼ばれることもあります。

    ですが考え方はいたってシンプルで、お湯を沸かして蒸気タービンを回す従来のしくみと何ら変わりはありません。そのための熱源が加熱された岩石ということになります。

    東芝の実証施設では再生可能エネルギーの余剰電力で電気ヒーターを稼働させて岩石を高温(700℃以上)状態にしておき、必要に応じて熱交換器を介して蒸気を発生させてタービンを回します。

    使われている岩石の種類は現時点では公開されていません。報道によれば「火成岩や堆積岩などの中から、それぞれ1~2種類を選定する」とのことですが、同様の類似技術で実証実験を開始しているデンマークやドイツのプロジェクトでは玄武岩が使われているため、東芝の施設でも玄武岩などの火成岩を使用する可能性が高いと言われています。

    玄武岩は火山由来の岩石で石英をほとんど含まず、約1000℃近くの高温まで化学的に安定しているため(溶融開始温度はおよそ1200℃)蓄熱材に適した岩石の一つで、他の固体蓄熱材(砕石や耐火れんが、コンクリートなど)より高い蓄熱密度があるそうです。

    玄武岩などの火成岩が人工の素材よりも優れているのは、数万年から数1000千万年という長い年月をかけて作られているからですが、こんなところにも自然の恩恵が活かされているんですね。

    (余談ですが玄武岩はサウナストーンにもよく使われています)

    実現したら最もフィジカルでプリミティブでフェティッシュな発電?

    東芝社内の試験設備(画像:東芝より)

    岩石に蓄えられた熱を変換せずに、そのまま熱源として直接利用するのであればロスがほとんど出ないため、岩石蓄熱技術は暖房や給湯だけでなく、素材の加工に高温が必要な工場や温水プールなどにも向く有効な熱源獲得の手法といえます。

    しかし発電というアプローチでとらえた場合、変換効率の低さや即応性の悪さがリチウム電池に比較して大きく劣り、そこが商用化の大きなネックになっています。

    まずエネルギーの変換効率に関してですが、電気→熱→電気の変換効率が約40~50%と低く、数字の上ではリチウムイオン電池(80~90%)がかなり優位です。

    また放熱時のデメリットとしては、蒸気タービンなどの設備を通すことから、電池のように瞬時に電力供給できず急な電力需要に対して即座に発電できないことや、放熱では温度や圧力を一定に保つ必要があり、制御するのが難しいことなどがあげられます。

    ほかにも、容量が大きい設備をつくる場合、大規模な岩石蓄熱槽を設置するための場所の確保や導入コストなども課題になっていますが、これらは他の発電システムにもほぼ同じことが言えるかもしれません。

    今回の東芝の実証は熱容量数十MWh規模という国内最大級の岩石蓄熱エネマネ設備導入に向けた実現可能性調査(FS)になります。高さ4メートル、横11メートル、奥行き4メートルの直方体の岩石に蓄えられる熱容量は電力量に換算して10メガ(メガは100万)ワット時で、約880世帯分の1日の電力使用量に当たるとのこと。

    計画では、実証完了後に東芝と中部電力が器機装置の製作を開始し、2029年までに(株)岡崎さくら電力を通じて岡崎市内に電力を供給(商用化)する見込みです。そのため研究開発は岡崎市の電力ニーズに合わせて進められており、商用設備も岡崎市に特化したものになるようです。

    「太陽や風のエネルギーを石に蓄える」と文字で書くと、なにやら古代のイメージを想像してしまいますが、その意味で、昨年流行った「地面師たち」の名セリフ?を借りるなら「最もプリミティブ(原始的)で最もフィジカル(物理的)で最もフェティッシュ(こだわり)」な発電方法と言えるのかもしれません。

    (ミカドONLINE 編集部)


    参考/引用記事: 東芝や中部電力、岩石を「蓄電池」に レアメタル不要に – 日本経済新聞 岩石蓄熱技術を用いた蓄エネルギーサービス事業に関する技術開発・実証の本格的な開始について | ニュースリリース | 東芝エネルギーシステムズ グリーン電力を石に蓄電する、デンマークの大規模なプロジェクトとは|田中貴金属 レアメタル不要?岩石を蓄電池にできる岩石蓄熱発電という試み – エネルギーループを実現するプライム・スター株式会社 東芝、余った再エネを岩石に蓄熱 中電などと実証開始 – 日本経済新聞 国内最大規模の熱容量となる岩石蓄熱エネルギーマネジメント設備の導入に向けた協定を締結 | ニュースリリース | 東芝エネルギーシステムズ東芝や中部電力、岩石を「蓄電池」に レアメタル不要に – 日本経済新聞 など

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