これでなっとく!エネルギー(4)カーボンフットプリントとは?~普及しない理由~

    みかドン ミカどん

    エネルギーに関して日ごろから感じている素朴な疑問について解説する新シリーズです。第4回目は「カーボンフットプリント」についてです。先日スーパーで買った日本ハムの「森の薫りベーコン」を見て、私は自分が書いた過去記事を思い出し「その後」を調べてみました(このシリーズのリストはこちら

    カーボンフットプリントとは?

    先日、近所のスーパーで日本ハムの「森の薫り ハーフベーコン」を買ったら、カーボンフットプリントのマーク(CFPマーク)が付いていました。

    カーボンフットプリントの記事を書いたのは今から4年前です。けれど実際の商品にCFPマークが付いているのを見たのは実はこれが初めてでした。

    (過去記事)エネマネことばの窓02~カーボンフットプリント~

    カーボンフットプリントというのは商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまで、ライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算することです。(直訳すると「炭素の足跡」)

    ライフサイクルは「原材料調達」「生産」「流通・販売」「使用・維持管理」「廃棄・リサイクル」の5段階に分けられ、それぞれの段階で使用したエネルギーや排出した温室効果ガスの量を取りまとめて合計し、それをCO2の重さに換算して共通の表示にするものです。

    たとえば紙パックの牛乳の場合は、以下の図のように紙パックの生産や乳牛の飼育から始まり、最後に紙パックを収集してリサイクル処理が終わるまで、全段階・全工程での温室効果ガス排出量を総合計します。

    (画像:経済産業省カーボンフットプリントレポート

    それらの算定結果を認証機関に申請して認証が得られれば、このパック牛乳にカーボンフットプリントの認証マーク(CPFマーク)を付けることができます。

    カーボンフットプリントは商品・サービスのCO2総排出量を算出し「見える化」することで、商品・サービスのサプライチェーンに関わる事業者(原料生産者、卸・メーカー、流通、小売店など)がCO2排出削減に向けた行動を起こしやすくなる手法です。

    またこの算定によって特に排出の多い段階が明確になり、対策も可能になりました。

    消費者にはあまり身近でないカーボンフットプリント

    カーボンフットプリント(CFP)は世界中で取り組まれている共通の考え方です。日本では2009年に政府主導で試行的な制度が始まり、それを引き継いだ社団法人産業環境管理協会による「CFPプログラム」という認証制度の運用が2012年に開始しました。

    その後CFPプログラムは一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)に運営が移管され、制度の名称もいくつかの変遷を経て最終的に昨年「SuMPO環境ラベルプログラム」に統合されました。

    ですが前回の記事から4年経った今でも、日常生活でCFPマークを見ることはあまりないかもしれません。

    カーボンフットプリントの認証制度は、製品を提供する事業者だけでなくそれを使用する消費者側に対しても、地球温暖化防止への意識を高めそれに見合う消費行動を促進するという狙いがありました。

    そのため開始当初は前項でご紹介した紙パックの牛乳や缶入りドリンクなど、消費者にとって身近な製品を例に掲げた解説がされており、事業者が製品にCFPマークを付けることで環境への取り組みをアピールし、類似製品との差別化や選んでもらえる効果を期待するものでした。

    ですがいま改めて調べてみると、実際にマークを取得しているのは電子機器や産業用の製品などが多く、今回のようにスーパーやショップの店頭に並ぶような商品でCFPマークを取得している商品はほとんどありません。

    制度に先駆けて開催された2008年の展示会(エコプロダクツ)ではカルビーやサッポロビール、日清食品、花王、ライオン、コクヨなど多くの著名なメーカーが試験的なCFPマーク商品をサンプルとして出品していましたが、その中で実際に市販されて今も継続しているのは、冒頭に掲げた日本ハムなど、ごくわずかな商品のようです。

    (参照)エコプロダクツ 2008 出展 カーボンフットプリント暫定表示 商品説明資料

    日本でカーボンフットプリントが普及しない理由

    素人の考えかもしれませんが、私は前の記事を書いたときに「製品の原料調達から廃棄・リサイクルまで、全段階での温室効果ガスの排出量なんていったいどうやって調べるのだろう?」という疑問が最後まで消えませんでした。考えただけでも手間と時間がかかりそうで想像すら付きません。

    ですがこの考えは必ずしも間違いではなかったようです。現実問題としてカーボンフットプリントの考え方や認証制度は国内でそれほど広く普及していないのが現状ですが、その理由もまさにその点にあったからです。

    城西国際大学の「カーボンフットプリントの現状と表示方法(PDF)」では、カーボンフットプリント制度の事業者側におけるデメリットとして以下の点を掲げています。

    ① CFP-PCR が複雑なため人員確保が難しく、算定が大変であること。
    ② 検証に時間がかかること。
    ③ 検証費用がかかること。
    ④ 登録・公開料が高いこと。
    ⑤ 認定製品が 3 年毎の更新となるため、その都度発生する費用と数値算定にかかる事務
    処理負担が大きいこと。
    ⑥ CFP の認知度が低いこと。
    ⑦ 国の補助金がないこと。

    総じていえば、かけた手間と時間とお金に対してブランドとしての効果が見込めず、「費用対効果」が割に合わないということに尽きるのかもしれません。

    各段階における温室効果ガス排出量に関しては、「醸造」「空き缶の処分」など対象になる工程ごとに一定の算出基準(PCR)があるようですが、まだ基準がない工程に関しては認定を申請する事業者が新たにルール作りから取り組まなくてはいけません。

    また、手間や時間だけでなく認定や公開にかかる費用の高さも課題になっています。

    (参照)SuMPO/第三者認証型カーボンフットプリント包括算定制度にかかる費用
    (参照)算定ツール使用の価格表

    そのため、認証マークを付与された製品自体の数が少ないことで世間の認知度も上がらず、結果的に”効果”につながっていないのが実情のようですが、これは「卵が先か?ニワトリが先か?」の議論にも似ている気がします。

    2020年に独自の算定で自社の全商品にカーボンフットプリントの表示を開始したシューズブランドのAllbirds(オールバーズ)は、「食品のカロリー表示のように消費者が手に取って当たり前のように排出量を見比べる」ことを目指しているそうです。

    私も食品(主にコンビニのお惣菜)のカロリー表示はよく見るほうなので、そう言われれば「なるほど!確かに!」と納得できますし、表示を活用するイメージも明確になります。

    私は今回の記事を書いて、(えらそうですが)そこまでの大きな犠牲を払ってCFP認証マークを取得している企業さんの商品は「買ってあげてもいいかな」と思ったのですが、消費者である私たちも「費用対効果」には敏感です。たとえCFP認証マークが付いていても、商品に魅力がなく価格に見合わないものは買わないと思います。

    この記事を書いて得られた結論は、事業者も消費者もシビアな現実を生きている!ということなのかもしれませんね。

    (ミカドONLINE編集部)