これでなっとく!エネルギー(6)いったいどこが違うの?再エネ率が高いデンマークと日本の意外な差

    みかドン ミカどん

    エネルギーに関して日ごろから感じている素朴な疑問について解説するシリーズです。第6回目は再エネ率が高い北欧と日本との違いです。再エネ率世界一のデンマークについて比較してみました(このシリーズのリストはこちら

    デンマークの再エネ率は7割越えで世界一!

    (画像:リンネル.jp

    デンマークでは年間発電電力量に占める自然エネルギーの割合が約74%に達しています(2021年統計)。一方、同年の日本の自然エネルギーの割合は約22%です。(出典:環境エネルギー政策研究所

    統計の種類によって再生可能エネルギー比率の割合や世界ランキングの順位は変動しますが、総発電量に対する再生可能エネルギー発電の比率で見ると2019年のデータではデンマークが1位、日本は49位でした。(出典:ブルーカーボンプロジェクト

    日本の再生可能エネルギー導入が遅れていることは周知の事実ですが、逆に「デンマークはなぜそれほど高いの?」という疑問も生まれます。

    そこで今回は再エネ率世界一のデンマークを引き合いに、北欧の再エネ率が高い理由を探り、私が「なるほど」と思った文化や歴史的な背景を中心に掲載してみました。

    風車の文化、そして市民主導

    (画像:MIRASUS

    デンマークの再エネの中心は風力発電です。2022年のデンマークの自然エネルギーのうち55%が風力発電でこの比率は世界最高水準となっています。風力と聞いて「なぁんだ、そっちか」と思った方もいらっしゃるかもしれませんね(太陽光ではないので)。

    三方が海に囲まれたデンマークでは偏西風の影響で海岸沿いには安定した強い風が吹きます。しかも国内に山がなく平坦な地形で海沿いにも平地が広がっているため、風車の適地が非常に多く設置も容易です。(海岸ギリギリまで山が迫っている日本の最適地とはだいぶ事情が違うようです)

    加えてヨーロッパには昔から風車の文化があります。そこでは風の力で風車を回し、その動力で粉を引いていたわけですから、風車をエネルギー源と捉える見方が浸透しており、景観的にもさほど抵抗がなかったのかもしれません。

    実は世界で最初の風力発電がつくられたのもデンマークでした。そのためノウハウも蓄積されていますが、それを自ら率先して自分の土地に設置し始めたのは農業を営む人たちでした。

    ある地域で最初に風車を設置した農家は「風が吹くだけで電気がつくれるなんて素晴らしい」というシンプルな理由を述べていますが、以後もデンマークでは市民が主導する風車の設置がどんどん増えて、それに対して政府が支援をするという流れになりました。

    ちなみにデンマークでは幼少時から主権者教育が定着しており、総選挙の平均投票率は86%とのこと。そのため市民の声を十分に吸い上げる姿勢がなければ政治家としてすぐに失脚してしいます。そういった理由から同国では市民主導で対話型の政治が行われているそうです。

    地域熱供給のインフラが整っているから再エネ余剰電力もOK

    (画像:Energy Democracy

    日本よりも寒さの厳しい欧州では、ある地域の複数の建物すべてに、温水や蒸気などの熱を配管で供給する地域熱供給が古くから発達しています。

    デンマークでも地域暖房は100年以上の歴史を持っており、首都コペンハーゲンでは地域暖房の普及率が98%!

    そもその始まりはゴミ対策だったデンマークの地域暖房の熱源は、麦わらやごみなどのバイオマス、または天然ガスを燃やして発電し、その排熱を使うコージェネレーション(熱電供給)が中心となっています。このしくみが再エネと相性がよいのです。

    再生可能エネルギーは気象条件によって出力が変動するため、日本でも平準化が課題になっていますが、デンマークの場合は強い風で発電しすぎても、余剰電力でお湯を沸かして地域熱供給に活用できます。

    暖房が不要な夏も専用の設備で余剰電力から得られた熱を蓄熱しておき、それを冬に使用すると夏に蓄えられた熱の80〜85%を利用できるそうです。

    欧米の家ではセントラルヒーティングが主流ですが、日本では寒冷時に家全体(または建物全体)を温めるという発想があまりありませんでした(北海道を除く)。それと同様なのか、初期費用の高いインフラを整備して地域全体を温めるというアイデアも日本では生まれにくく、これは欧米との思考の差と言えるのかも。

    デンマークの背の高いベンチが意味するもの

    (画像:ELLE

    この件ついてさらに調べみると、再エネ普及に関する欧米と日本の違いについて興味深い解説がいくつか目に留まりました。

    国の方針や政策の違いではなく、あえてそれ”以外”の項目をリストアップしてみると・・・

    1欧州は他国と陸続きなので昔から何かと国民の危機管理意識が高い
     最近のウクライナ情勢でさらにその傾向が高くなり脱ロシアが喫緊の課題。
    2日本の電力は非常に安定して停電がないからエネルギーへの関心が薄い
     その証拠に停電が多い途上国ではエネルギーへの関心がとても高いとのこと。
    3日本にはエネルギー関連の有力民間企業がないから産業界の関心が薄い
     国内に国際石油メジャー等があると評論家の発信やニュース報道が多いため。
    4日本は元々自然災害が多いので気候変動と言われても鈍感である
     地震や津波や台風である意味、大きな影響や被害に慣れている?
    5自然をコントロールするのではなく受け入れて共生するアジア人思考
     キリスト教の「支配する」自然観とアジアの感覚は違うのかも?

    などです。

    どれも一理ありますが、ことデンマークに関しては写真の背の高いベンチが象徴的です。

    これはコペンハーゲン市と国営テレビ局が実施したキャンペーンの一環として市内に複数設置されたもので、座面が通常のベンチよりも85cmも高くなっています。この数字は気候変動がこのまま進んだ時の2100年における海面上昇値です。

    前述の通り、デンマークには山がありません(最高峰で海抜147m)。そのため「平らな国」であるデンマークが受ける影響を見える化したのがコペンハーゲン・ベンチと呼ばれるこの椅子なのです。

    さて日本の場合はどんなキャンペーンが有効なのでしょうか。今回はデンマークと日本の違いについて書いてみましたが、「事情が違う」思わず何かのヒントにしていただければ幸いです。

    (ミカドONLINE編集部)


    引用/参照記事 省エネ型インフラとして欧州を中心に世界で広がる地域暖房 – 世界の省エネ/マイ大阪ガス 電力自給率800%超! デンマーク・ロラン島に暮らすニールセンさんに聞く、今すぐ日本でできること 地域熱供給白書|ISEP 海外レポート翻訳 風力発電はどこで発明されたのか|発電機の販売【株式会社スカイ電子】 デンマークの風力発電事情。現在を知り、これからを考える | SDGs特化メディア-持続可能な未来のために 2021年の自然エネルギー電力の割合(暦年・速報) | ISEP 環境エネルギー政策研究所 2022年の自然エネルギー電力の割合(暦年・速報) | ISEP 環境エネルギー政策研究所 なぜ日本人は環境・エネルギー問題に関心が低いのか──エネルギーアナリスト大場紀章さんに聞く | elabo デンマークの風力発電事情。現在を知り、これからを考える | SDGs特化メディア-持続可能な未来のために デンマークの気候変動に警鐘【コペンハーゲン・ベンチ】SDGs達成率世界2位の国は未来に何を見るのか – SDGsメディア『Spaceship Earth(スペースシップ・アース)』 など