ノーベル賞日本人受賞者(17・18)根岸英一・鈴木章博士は何をした人?~2010年(平成22年)化学賞を75歳(根岸)と80歳(鈴木)で受賞~

    みかドン ミカどん2023年10月現在での日本人ノーベル賞受賞者は28人です。ですがいったい何をした人なのかよくわからないという方も多いのではないでしょうか?今回は2010年にノーベル化学賞を受賞した根岸英一博士と鈴木章博士です。

    別々に同じテーマの研究をしてきた3名が受賞

    (画像:Pinterest

    このシリーズを担当するようになってわかりましたが、科学分野におけるノーベル賞で各賞の受賞者が複数のときは、特定の研究分野に焦点を絞り、その中で功績のある人が系統的に選ばれていることが多いようです。

    私は今までノーベル賞にあまり詳しくなかったので、受賞者が複数いるときはそれぞれが全く異なる研究でバラバラに受賞していると思っていました。ですがこれは日本人受賞者だけ単独で見ているとなかなか気が付きません。そこで今回は外国の受賞者も含め、一連の流れでご紹介したいと思います。

          

    2010年(平成22年)のノーベル化学賞はリチャード・ヘック、根岸英一、鈴木章の三氏に送られました。三氏の授賞理由は「有機合成におけるパラジウム触媒クロスカップリング」というものです。

    ・リチャード・ヘック博士(1931年(昭和6年) – 2015年(平成27年))
    ・根岸英一博士(1935年(昭和10年) – 2021年(令和3年))
    ・鈴木章博士(1930年(昭和5年) – )

    ヘック博士、根岸博士、鈴木博士の三名は共同研究者ではなく、同じ方向性の研究を別々の場所で個々に進めてきたわけですが、それぞれの成果が同一テーマに対して重要な発見だったことが評価されて受賞につながりました。

    容易ではなかった有機化合物の結合

     

    それでは「有機合成におけるパラジウム触媒クロスカップリング」とはどういう意味なのでしょうか。

    クロスカップリングとは異なる二つのものを合成させる化学反応のことです。それによってさまざまな素材や新しい製品の原料が日夜生み出されています。

    しかし、ガソリン、プラスチック、合成繊維、医薬品、塗料など、石油からつくられる有機化合物(=炭素を主体とする化合物)に関して、自由度の高い合成が可能になったのはここ30年のことです。

    それまで有機化合物の結合は決して容易なことではありませんでした。有機化合物に含まれる炭素どうしはお互いに反発してしまうため、反応を推し進めるためには強い触媒が必要だったのです。

    そこで世界中の科学者によって有機化合物中の炭素と炭素を結合させる研究が進められた結果、金属のパラジウムを触媒に用いて炭素どうしを結合させる反応が確立されされました。

    そこに大きく貢献したのが今回の三氏でした。

    3氏の研究を経て容易な有機合成が可能に

    (画像:日本経済新聞

    2つの有機化合物を接合するには、その仲立ちとなる触媒がカギとなります。どんな条件でどんな物質を仲立ちさせれば、炭素どうしがうまくくっつくのか。

    世界中の研究者が競い合う中で、1972年、米デラウェア大学名誉教授のリチャード・ヘック博士らがたどりついたのがパラジウムでした。

    しかし、この方法は反応性が強すぎて、狙った化合物以外の副産物を大量に生成してしまうという問題点がありました。

    これを解決したのが米パデュー大学の根岸博士です。根岸博士は周期表を見ながら多くの元素を網羅的に試し、パラジウム加えて有機亜鉛を使うことで比較的穏やかに反応させることができることを発見したのです。

    そして北海道大学名誉教授の鈴木章博士が亜鉛の代わりにより安全で扱いやすい「ホウ素」をつかう手法を確立し、実用化への道筋をつけました。

    化学メーカーになくてはならない技術になりました

    (画像:朝日新聞

    1979年に鈴木博士が編み出した方法は、毒性があり扱いが難しい有機溶媒ではなく普通の水溶液中で反応が進むため、以後はこの手法が世界に広まり工業でよく利用されるようになりました。

    この「鈴木クロスカップリング」のおかげで、複雑な構造の物質が容易に合成できるようになり、現在では医薬品や液晶ディスプレイなどの製造に欠かせない技術となっています。

    鈴木カップリングの製薬への応用で有名なのは降圧剤バルサルタン(商品名・ディオバン)です。ほかにも高血圧症や腎臓病の治療薬、そして大腸がんやヘルペスウイルスやHIVウイルスと戦う医薬品の実現につながりました。

    農薬では、果樹や野菜など農業で使われる独BASF社の殺菌剤ボスカリド(商品名・カンタス)などにもこの反応が使われています。

    また、液晶テレビにも欠かせない技術となり、国内外の多くの液晶テレビやパソコン用ディスプレーで採用されることになりました。

    三菱ケミカルホールディングスの担当者によれば、「クロスカップリング反応は世界中のありとあらゆる化学メーカーが恩恵を受けている」そうです。

    ヘック博士のヘック反応は「溝呂木-ヘック反応(Mizoroki-Heck Reaction)」、鈴木博士の鈴木カップリングは「鈴木-宮浦反応(Suzuki–Miyaura cross-coupling)」とも呼ばれており、英語の論文にもそのように記載されています。

    ノーベル賞を受賞した今回の3名の博士以外にもこの技術の確立に大きく貢献した日本人がいることを忘れてはならないと思います。

    (ミカドONLINE 編集部)


    参考/引用:夢ナビ講義 | 夢ナビ 大学教授がキミを学問の世界へナビゲート 【ノーベル化学賞】鈴木 章先生・根岸英一先生の研究-有機化合物を合成する「カップリング反応」を確立│コカネット 日本人のノーベル賞受賞(仮訳) | January 2011 | Highlighting Japan 【速報】2010年ノーベル化学賞決定!『クロスカップリング反応』に!! | Chem-Station (ケムステ)  有機化合物をくっつける“ボンド” クロスカップリング反応|バックナンバー Vol.24|島津製作所  など