2021年10月5日現在での日本人ノーベル賞受賞者は28人です。ですがいったい何をした人なのかよくわからないという方も多いのではないでしょうか?今回は日本人4人目のノーベル賞受賞者 江崎玲於奈博士です。
理論でしかなかった「トンネル効果」を再現した人
江崎玲於奈(えさき れおな)博士はノーベル物理学賞を1973年(昭和48年)に48歳で授賞しました。
江崎博士の受賞理由は「物理的な理論でしかなかったトンネル効果という素粒子の動きを実際に発生させたこと」です。これは今の言い方に直すと量子力学の研究分野になり、この年のノーベル物理学賞は江崎博士のほかにもトンネル効果に功績のあったアイヴァー・ジェーバー博士と、ブライアン・ジョゼフソン博士がそれぞれ同時に受賞しています。
トンネル効果というのは、通常は素粒子が通過できない条件下なのに素粒子がエネルギー的な障壁をあっさり通り抜けてしまうことです。
例えば電子はプラス・マイナスなどの極性や電気の伝導率などによって流れたり流れなかったりしますが、その古典的な物理法則に反して流れるはずのない電子がなぜか流れてしまったりすることがトンネル効果です。
江崎博士は1957年、当時の勤務先だった東京電子通信工業株式会社(現ソニー)でトランジスタの不良品解析を行っている中でこの現象を発見しました。そしてさらにトンネル効果の実験を続ける過程で、電圧を高めているのにもかかわらず、一定の値を超えると電流が減少する「負性抵抗」と呼ばれる現象が起こることも発見しました。
日本ではすぐに評価されなかった江崎博士の研究
江崎博士はこれによって画期的な特性を持ったダイオード(トンネルダイオード)を32歳の若さで発明し、ソニーが1960年に特許を取得しました。発明者の名前を取ってエサキダイオードとも呼ばれるこのダイオードは確かに不思議な動きをします。
このこの電圧電流特性を利用してトンネルダイオードは増幅,発振,検波などに用いられ、スイッチングが高速であることから超高速パルス回路,論理回路,記憶回路などに使用されました。(現在は違うデバイスに置き換わっています)
江崎博士はトンネル効果についての研究を論文にまとめて日本の学会で発表しましたが、反響はまったくありませんでした。そこで加筆したものを、アメリカの物理専門誌であるフィジカル・レビューに投稿したところ、論文が採用されました。さらに、トランジスタの産みの親であるショックレー博士が江崎博士の研究を賞賛しました。
しかし自分に対する注目度が上がるにつれて博士は疲れを感じるようになり、「自由なアメリカで好きなように研究がしたい」と35歳の江崎博士は1960年に日本を離れ、アメリカのIBMワトソン研究所に移籍しました。
筑波大学の学長になり教育にも貢献
1973年に江崎博士のノーベル物理学賞受賞が発表されたとき、人々は驚きました。それは江崎博士が米国企業であるIBMの研究員だったからです。
世間では優秀な物理学者が米企業のために働いていることに少なからず衝撃を受け「頭脳の流出」であると大きな話題にもなりました。
江崎博士は渡米後もトンネル分光学の確率,ビスマスの江崎効果,超格子の多重量子井戸デバイス等の研究で多くの成果を上げ、やがて1992年に帰国します。
それは筑波大学の学長選挙に出馬することを承諾して当選したからです。その立役者となったのが「生命の暗号」などの著書があり遺伝子の研究で有名な村上和雄博士(故人)ですが、大いに苦戦していた選挙戦が江崎博士の直筆メッセージで一発逆転したというエピソードが以下のサイトに掲載されています。
🌍 『致知』連載第九回「江崎玲於奈先生と私」(キャッシュ) (Internet Archive)
江崎博士は「閉鎖的な日本の教育を変えなければ、個性豊かな研究者は育たない」とかねてからに考えており、その後も二つの大学で学長になり日本の教育に貢献しました。
この原稿を書いている時点で江崎博士は97歳で今も一般財団法人 茨城県科学技術振興財団の理事長などを務めていらっしゃいます。存命のノーベル賞受賞者の中では最高齢となりますが、2018年のこちらの記事(産経新聞WEB版)によれば、元気の秘訣は「健康的な食生活と夫婦円満であること」のようです。
(ミカドONLINE 編集部)
参考/引用: 第73回ノーベル物理学賞 江崎、ジェーバー「半導体と超伝導体にトンネル効果を発見」ジョセフソン「トンネル効果理論」 【ノーベル物理学賞】江崎玲於奈先生の研究-実験的に「トンネル効果」を起こすことに成功 江崎 玲於奈 ノーベル賞日本人受賞者7人の偉業【江崎 玲於奈】 など