昨年、「小さな地球の大きな世界」という本が出版されました。この本には”プラネタリー・バウンダリーと持続可能な開発”という副題が付いています。プラネタリー・バウンダリーとは何なのでしょうか。(※このシリーズのすべての記事はこちらです)
プラネタリー・バウンダリーは「地球の限界」
昨年、「小さな地球の大きな世界」という本が出版されました。この本はサスティナビリティやレジリエンスの研究で世界的に著名なヨハン・ロックストローム博士と写真家のマティアス・クルム氏が2015 年に出版したBig World Small Planet: Abundance within Planetary Boundaries の翻訳で、原著は世界的なベストセラーになりました。
この本の日本語版には”プラネタリー・バウンダリーと持続可能な開発”という副題が付いていますが、原著の副題は”Abundance within Planetary Boundaries”です。バウンダリーには境界線、限界、限度という意味があり、直訳すると「地球の限界内での豊かさ」ということになります。
本書は人間活動の加速的拡大が地球システムそのものを脅かしている現状について科学的知見に基づいて警鐘を鳴らすとともに、プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)の範囲内で科学技術が発展し、豊かで持続可能な社会への転換を促していくことを目的に書かれました。
すでにいくつかは限界点を超えている
ヨハン・ロックストローム博士はそのために、人類の生存を脅かす要素を9項目に分け、それぞれに限界点を設定しました。限界ではこの値を超えてしまうともう後戻りできない閾値です。ところがすでに現時点ではいくつかが限界点を超えており、それ以外にも差し迫った項目があります。
博士が分けた項目は以下の9つです。それらを上の図のように配置して相互に影響しあっている関係も示されています。
第一のカテゴリー(地球規模)
・気候変動
・海洋酸性化
・成層圏オゾンの破壊
第二のカテゴリー(地上の環境)
・生物多様性の損失
・土地利用変化
・グローバルな淡水利用
・窒素とリンの循環
第三のカテゴリー(人間がつくりだしたもの)
・化学物質による汚染 ※未定量化
・大気エアロゾルの負荷(大気汚染)※未定量化
このうち種の絶滅の速度と窒素・リンの循環については、高リスクの領域にあり、また、気候変動と土地利用変化については、リスクが増大の領域に達していると分析されています。
SDGsの推進には「地球の限界」の概念が不可欠
プラネタリー・バウンダリーは、安定した地球で人類が安全に活動できる範囲を科学的に定義し、定量化したものですが、元々は博士が主導するグループの論文として2009年に発表されたものです。そしてこの概念は2015年の国連総会で採択された持続可能な開発目標(SDGs)にも多大な影響を与え、地球環境に関する目標は、プラネタリー・バウンダリー内で達成すべきものとして設定されました。
この50年間、大気中のCO2量やオゾン層の破壊など私たちが地球に与える負荷は、急激なカーブを描いて増大しています。最近の報告では、地球の平均気温は最も温暖化が進んだ場合、2.6~4.8度上昇し、南極の氷が解けるなどして、今世紀末までに海面が最大1.1メートル上がるそうです。
そうなると、東京、上海、シンガポール、ムンバイ、ジャカルタ、ロッテルダム、ニューヨークなど、世界の巨大都市の多くがその影響を受け水没する都市もあるとのこと。そして今より5℃近く平均気温が上昇したら、今と同じ農林水産業も成り立たなくなります。持続可能な社会のためにはをひとりひとりが「地球の限界」もっと意識すべきであることを強く感じました。