2020年(令和2年)7月1日から小売店のレジ袋が有料になりましたが、バイオマスレジ袋や海洋性生分解レジ袋は対象外です。今回はわかっていそうでわかっていない「バイオマスレジ袋」について解説いたします!
バイオマスレジ袋は植物由来のポリエチレンが25%以上含まれる
法改正により2020年7月1日から小売業のプラスチック製レジ袋が有料化されましたが、バイオマスレジ袋と海洋生分解性レジ袋は有料化の対象外とされています。
「すきや」「吉野家」「ケンタッキー・フライド・チキン」などでは、衛生上の理由や顧客の利便性とレジの効率を考慮し、現在はバイオマスレジ袋に切り替えて、テイクアウトのお客様に今も無料でレジ袋を提供しているそうです。
プラスチックレジ袋有料化で除外されるもの(無料配布OK)は以下です。
上記のうち、「プラスチックフィルムの厚さが50マイクロメートル(0.05㎜)以上のもの」というのは、衣料品店やギフトショップなどでよく利用されている手抜き袋(取っ手がくり抜き)と呼ばれる厚手の袋などです。
「海洋生分解性プラスチック」というのは水中の微生物で分解されるプラスチックのこと。
そして「バイオマス素材の配合率が25%以上のもの」というのは植物由来のプラスチックが25%以上含まれるレジ袋のことです。
バイオマスとはエネルギー源として利用できる生物資源のことで、木材、海草、食物残渣(生ゴミ)、紙、動物の死骸・ふん尿、プランクトンなど様々なものがありますが、バイオマスレジ袋に含まれるバイオマス成分は、トウモロコシやサトウキビから生成されるバイオマスポリエチレン(Bio–PE)です。
該当するレジ袋には日本バイオプラスチック協会(JBPA)と一般社団法人日本有機資源協会(JORA)がISO 16620 に基づきバイオマスプラスチックの認証を行っており、冒頭の認証マークは左が日本有機資源協会、右が日本バイオプラスチック協会のものです。
植物由来のポリエチレンはどうやってつくるの?
プラスチックというのは石油からつくる合成樹脂の総称で、実際には多くの種類があります。
スーパーやコンビニのプラスチックレジ袋はポリエチレンという素材でできており、原油→ナフサ→エチレン→ポリエチレンという製造過程をたどります。
一方、バイオマスポリエチレンはトウモロコシ(デントコーン)やサトウキビが原料です。米や麦を発酵させるとお酒になるように、穀物などの炭水化物からはエタノール(エチルアルコール)をつくることができます。
そこで得たバイオエタノールを脱水してエチレンをつくり、さらにそのエチレンからポリエチレンをつくるという技術が、ブラジルのブラスケム(Braskem、ブラスケン)という南米最大の化学メーカーによって2011年に初めて事業化されました。
エタノールの化学式はC2H5OHでポリエチレンは(C2H4)nなので、私のような素人でも化学的になんとか頑張れば、エタノールからポリエチレンをつくるのはできそうな気がしてきます。実際の化学式は以下の通りです。
ここで発生したエタノールを高温で熱することで、分子内で脱水させてエチレンを生成します。
このエチレンに圧力をかけてつなげるとポリエチレン(プラスチックの原料)となり、バイオマスポリエチレンができあがります。
バイオマスポリエチレンも立派なプラスチックです
ブラスケム社が技術を確立させたことで、トウモロコシやサトウキビからポリエチレンをつくることが可能になりました。しかしトウモロコシを大量に利用することは人や家畜の食物と競合してしまうため、近年は砂糖を取り出したあとの残液を活用し、絞りかすも燃料として使えるサトウキビ由来のバイオポリエチレンが、食糧事情に影響を及ぼさない素材としてよくつかわれるようになってきました。
さて上の図を見ていただくとおわかりの通り、実は石油からできるポリエチレンもサトウキビからできるポリエチレンも、途中からは同じ生成過程をたどります。つまり原料が異なるだけで最終的には同じものなのです。
そのためバイオマスポリエチレンを25%以上含むバイオマスレジ袋といっても、素材的には今までのレジ袋と何ら変わりありません。含有率がどれぐらい高くても結局は「ポリエチレン」(プラスチック)そのものなので、放置しても分解せず、ごみの分別も従来通りプラゴミになります。
それではいったいなぜ利用が推奨されて有料化の対象から外れたのでしょうか?
カーボンニュートラルの考え方
バイオマスレジ袋などのバイオマスプラスチック製品が推奨される背景には、カーボンニュートラルの考え方があります。カーボンニュートラルとは、製品のライフサイクル全体で見たときに、
プラスチックとよばれるものにはポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)など色々なものがありますが、現在はそのいずれもバイオマス原料からつくることが可能です。(※価格はずっと高くなります)
ですが、バイオマスポリエチレンやバイオマスポリプロピレンのように素材に「バイオマス」という言葉くっついていても、従来と同じプラスチックであることに変わりはないので、燃やせばCO2を出しますし、微生物による分解もされません。
けれど植物が原料である場合は、その植物が成長する過程で大気中からすでにCO2を吸収しているので、それが再び大気中に戻されるだけでCO2の量は変わらないという考え方です。植物由来の原料にはこのカーボンニュートラルが適用されて「CO2を増やさない」とされており、利用が推奨されているのはそのためです。
今回のレジ袋有料化について、報道等では「ごみの削減」や「海の浄化」などがクローズアップされていますが、バイオマスレジ袋を対象外としたのはそのどちらでもなく、CO2の削減や石油資源の節約を目指したものだったのです。
ところでバイオマスレジ袋に含まれているバイオマスポリエチレンは、完成品はカーボンニュートラルですが、前述の化学式を見ると化学反応の過程でCO2が発生しています。個人的にはこの場合、つくればつくるほどCO2が増えるのでは?という素朴な疑問も生まれるのですが、本当はどうなのでしょうか。
こうやってひとつひとつを見ていくと、逆に段々わからなくなってしまいますね。けれど世界ではすでに60か国以上でレジ袋に対して何らかの規制措置が取られているのが現状です。この分野では常に「遅れている」と批判されている日本も、これでどうにか世界の仲間入りがてきて面目が立ち、まずはめでたし、と思わなくてはならないのかもしれません・・・
今回この記事をきっかけに、普段よく行くスーパーのレジ袋をマジマジとよく見て、プラマークの下に小さく「PE」と書いてあることに初めて気が付きました。レジ袋が何でできているか?など今まで気にしたことがありませんでした。この機会に皆さんもマークの下をぜひ見てみてくださいね。新しい発見があるかもしれませんよ。
出典/参考記事: 植物由来のバイオマスプラスチックのポリ袋 バイオマスプラスチック容器 サスティナブルなボタンをお探しのあなたへ プラスチック製買物袋有料化 2020年7月1日スタート 戦略商品:バイオポリエチレン など