今回は2016年にノーベル医学・生理学賞を受賞した大隅良典東工大栄誉教授をご紹介します。大隅良典東栄誉教授はそれまではゴミ溜めと思われていた細胞の液胞を観察して実は重要な役割を担っていること発見し、数々の賞を受賞した日本の理学博士です。
オートファジー(細胞の自食作用)の仕組みの解明でノーベル医学・生理学賞
2016年のノーベル生理学・医学賞は東京工業大学栄誉教授の大隅良典氏(当時71歳)が単独受賞しました。
受賞理由は「細胞の環境適応システム、オートファジーの分子機構と生理学的意義の解明」です。
オートファジーは「自ら(Auto)」を「食べる(Phagy)」という意味を持つ細胞の機能です。
大隅栄誉教授は、体の細胞の中で要らないたんぱく質などを分解して、またエネルギーとして使う、「オートファジー」の現象を世界で初めて肉眼で観察し、そのメカニズムを解明しました
細胞は栄養が足りない状態になると、生き残るために内部の不要なたんぱく質などを分解し、新しいたんぱく質をつくるための材料にしています。私たちが一定期間食事をとらなくても生きていけるのは、このオートファジーの仕組みがあるからだとされています。
これが大隅栄誉教授の研究によって初めてわかり、これ以後、オートファジーの研究が飛躍的に進みました。
大の「観察好き」がもたらした大きな成果
終戦の年の2月(1945年)福岡市で生まれた大隅教授は自然の中でのびのびと育った昆虫好きの少年でした。
子供の頃、12歳年上の大学生の兄から贈られた数冊の科学の本に影響を受け、東京大学の理科Ⅱ類に入学、その後米国留学などを経て1996年に基礎生物学研究所の教授になりました。(現在は東京工業大学特任教授・栄誉教授)
人を争うことが好きではなかった大隅教授は「一番乗りを競うよりも誰もやっていないことに挑戦したい」と考え、細胞の中でも唯一肉眼で見ることができる液胞を研究対象にしました。何よりも顕微鏡観察が大好きだったからです。
当時の液胞はゴミ溜め程度にしか考えられていませんでした。けれど細胞に占める割合が大きいことから、大隅栄誉教授はもっと様々な機能があるに違いないと考えました。
そこで「最も飢餓状態にある液胞を観察する」という研究を思い付き、地道に観察を続けた結果、1992年に世界で初めて酵母の細胞でオートファジーを観察することに成功しました。
同年、その成果を学会誌に発表すると、研究者の間では「なぜこんな大事な現象を今まで誰も見つけられなかったのか?」と大きな話題になったそうです。
このオートファジーをうまく調節できれば、細胞内に不要なタンパク質がたまって発症するとされるパーキンソン病やアルツハイマー病の予防や治療に役立つ可能性が高く、現在では世界中で研究が進められています。
ちなみにトレードマークの髭は、顔が若く見えることでアメリカ人から見下されるのが嫌で、米国留学時代から伸ばし始めたそうです。アジア人、あるある、ですね。
(ミカドONLINE 編集部)
参考/引用:オートファジー-ノーベル賞を受賞した大隅栄誉教授の研究とは/東工大ニュース /東京工業大学 「人と違うことをやる」、ノーベル医学・生理学賞の大隅氏 / m3.com 大隅良典さんってどんな人? 生理学・医学賞/ノーベル賞2022 NHK など