2022年10月現在での日本人ノーベル賞受賞者は28人です。ですがいったい何をした人なのかよくわからないという方も多いのではないでしょうか?今回は日本人6人目のノーベル賞受賞者 福井謙一博士 です。
「フロンティア軌道理論」でアジア初のノーベル化学賞
福井謙一博士はノーベル化学賞を1981年(昭和56年)に63歳で授賞しました。これは日本で初めて、アジアでも初の化学賞です。
福井謙一博士は、京都大学工学部の教授だった1950年代に、当時最先端だった量子力学を駆使して化学反応の仕組みを明らかにしました。福井博士のノーベル化学賞は「フロンティア軌道理論」と命名されたこの理論が高く評価されたことが受賞理由です。
「フロンティア軌道理論」は原子の核を取り巻く電子の動き方を調べるとほとんどの化学反応の仕組みが分かるという独創的な理論です。
それまでの化学反応は、すべて電子の移動によって引き起こされるという単純かつ極めて明快な理論「有機電子論」が主流でした。ですが現実にはそれだけでは説明のつかない事象があり、福井博士自身も自らそれを経験していました。
それを疑問に思った福井博士は謎の解明に取り組み始めました。
趣味で学んだ量子力学がおおいに役立つ
福井博士は京都大学工学部化学科の出身ですが、化学の道に進んだのは京大教授の叔父から「数学が好きなら化学をやれ」と言われたことがきっかけでした。
その一方で物理も好きだった博士はその頃確立した量子力学に興味を持ち、大学で化学を学ぶ傍ら、理学部物理学科の量子力学の授業にも潜り込んで、個人的に量子力学も勉強していたのです。
そのことが「フロンティア軌道理論」に大いに役立ちました。
福井博士は研究に量子力学で規定された電子軌道理論を取り入れ、化学反応が起こるのは、もっともエネルギーが高い電子の軌道の広がり方で決まるという新説を打ち立てました。
福井博士は34歳のときにこの新しい理論をアメリカ物理学会誌に発表しますが、それが大胆かつ独創的なものであったため、当初は受け入れられませんでした。
最前線の電子だけが仕事をするからフロンティア
博士が評価され始めたのは1965年にロアルド・ホフマン教授らが福井博士の「フロンティア軌道理論」に基づく論文を発表してからです。
ホフマンをはじめとするアメリカの科学者たちの研究は、福井博士の理論を化学界に広げ認知させました。
そのため博士の理論は日本よりも先に欧米で早くから評価され、やがて福井博士とホフマン教授はこの理論によってノーベル化学賞を共同受賞しました。
ちなみにこの新説を「フロンティア軌道理論」と名付けたのは福井博士自身です。たくさんある電子のうち最前線(フロンティア)に分布している電子のみが化学反応に関与するからです。
福井博士は「分子を一つの国にたとえてみると、フロンティア電子は国境警備隊のようなものだ。敵が攻めてきたときに迎え撃つのは、国の中心部にいる兵隊ではなく、国境にいる警備隊だという意味で名づけた」と語っていたそうです。
(ミカドONLINE 編集部)
参考/引用:初のノーベル化学賞 福井謙一博士の研究メモ1300点 京大に寄贈 | NHKニュース 青天の霹靂だった福井謙一のノーベル化学賞の受賞 | SciencePortal China 福井謙一氏とその功績!フロンティア軌道理論とは?阪大院卒理系ライターがわかりやすく解説! – ページ 2 / 4 – Study-Z ドラゴン桜と学ぶWebマガジン など