今回は2021年にノーベル物理学賞を受賞した眞鍋淑郎博士をご紹介します。このシリーズはこれが最終回の予定でしたが、このたび日本被団協が2024年のノーベル平和賞に決まったため、このシリーズはあと1回続きます。そちらもお楽しみに。
2021年の物理学賞は自然現象を物理で説いた3氏が受賞
2021年のノーベル物理学賞はイタリア人でローマ・ラ・サピエンツァ大学教授のジョルジョ・パリージ博士と、ドイツ人でマックス・プランク気象研究所の所長を務めたクラウス・ハッセルマン博士と、プリンストン大学上席研究員で米国籍(受賞時)の眞鍋淑郎博士に送られました。
賞金の割合はパリージ博士が1/2、ハッセル博士と眞鍋博士がそれぞれ1/4です。分配は業績への貢献度で決められるそうなので、ノーベル財団的にはパリージ博士への評価が高かったといえますが、同氏の単独受賞ではないことから、他の二氏の功績も十分評価されたものと思われます。
パリージ博士の受賞理由は「原子スケールから天体スケールまでの物理系における無秩序と揺らぎの関連の発見」です。これによってある種の無秩序に見える物理現象を数学的な手法で証明ですることが可能になり、物質の循環と気温の上昇の複雑な動きを分析する手法が確立しました。
一方、ハッセルマン博士と眞鍋博士の授賞理由は「地球気候を物理的にモデル化し、変動を定量化して地球温暖化の高信頼予測を可能にした業績」というものです。これはCO2の影響による地球温暖化を数字で表すことによって未来を予測できるようになったことを表しています。
地球温暖化防止の世界的な取り組みに大きく貢献
真鍋さんが開発した「気候モデル」は、地球の気候を物理法則に基づいてシミュレーションすることで、CO2の増加が与える気候への影響を初めて明らかにしたものでした。
真鍋さんはまず、1964年に大気の高さ方向の温度分布を明らかにするモデルを作りました。
その次に、CO2濃度が変化すると気温がどう変化するのかという実験を行い、1967年の論文で、CO2濃度が2倍になると地球の温度が約2度上がることを世界で初めて詳細な計算で明らかにしたのです。
眞鍋博士が考案した気候モデルの優れたところは、地球の大きさや地形など基本的な情報をコンピュータに入れるだけで、本物の地球とそっくりな気候を再現するができ、過去や現在の気象観測データは一切不要なのだそうです。
1988年に国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)により設立された国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2年後に最初の報告書を採択しましたが、眞鍋博士はこの報告書に執筆責任者として参加し、早くから警鐘を鳴らしていました。
その後、この報告書が大きな契機となり97年の京都議定書、2015年のパリ協定と、国際的な枠組みによる世界の温暖化・気候変動対策が大きく進んだのはご存じの通りです。
日本より米国での研究環境を選んだ眞鍋博士
眞鍋博士は1975年に米国籍を取得し、一時的に帰国したものの4年後にまたアメリカに戻りました。
理由は「日本の他人の目を気にしすぎる風潮が合わなかった」とのことですが、米国の充実した研究環境や、資金の潤沢さも大きな要因だったようです。
それに関してはご自身の性格にも触れ、インタビューでは「私はまわりと協調して生きることができない。それが日本に帰りたくない理由の一つです」と周囲を笑わせています。
自然科学分野のノーベル3賞では、出生国としてだけでなく、受賞時在籍期間所在国としても米国の存在感が群を抜いており、著名な科学者が生まれた国から移り住んで研究を続ける事例も増えています。
資金の豊富さもさることながら、多様な価値観を受け入れる風土が米国の科学技術の強みであり、論文数シェアや博士号取得者数において凋落傾向にある日本が学ぶべき点がそこにもあるのかもしれません。
(ミカドONLINE 編集部)
参考/引用:鎌田浩毅の役に立つ地学:間もなくノーベル賞 昨年物理学賞の真鍋氏の功績 | 週刊エコノミスト Online ノーベル賞で注目の「気候モデル」から、地球温暖化を考えてみよう! | みんなでおうち快適化チャレンジ 2021年ノーベル賞解説 | 物理学へようこそ(イベント等ご案内) | 一般社団法人 日本物理学会 ノーベル賞ランキングと「知のパワー・バランス」 ~日本凋落の引用数上位論文シェアとの相関強し、多様性も影響か~ | 石附 賢実 | 第一生命経済研究所 真鍋淑郎さんは、なぜ米国籍にしたのか。「日本の人々は、いつも他人を気にしている」 | ハフポスト など