(69)クローズドループとは?普及しない国内地熱もこの方法ならイケるかも?

    みかドン ミカどん

    火山国・日本の地熱発電のポテンシャルは世界第3位です。これは環境を生かし切ることができれば、世界で有数の地熱発電国になれるということを意味しています。しかし現状はそれほど簡単ではありません。様々なジレンマを抱える日本の地熱発電ですが、それらをクリアできそうな技術が動き出しています。それがクローズドループと呼ばれる新しい手法です。

    普及が進まない日本の地熱発電

    (画像:電気新聞

    一昨年、設備の老朽化のため営業を停止して建て替え工事に入っていた鬼首地熱発電所(宮城県)が、6年ぶりに発電を再開しました。(2023.4.2)

    リニューアルした新施設は環境負荷軽減にも配慮され、タービン・発電機には地域の伝統工芸品である「鳴子こけし」をあしらうなど、地域貢献を意識した取り組みが話題になりました。

    再生可能エネルギーという言葉で、太陽光発電や風力発電を真っ先に思い浮かべる方が多いと思いますが、地中の熱水や蒸気を利用して発電を行う地熱発電も再生可能エネルギーのひとつです。

    太陽光や風力に比べ、24時間安定した電力が得られるメリットがあり、特に日本は火山国のため、潜在的な地熱資源量は米国、インドネシアに次いで世界第3位といわれています。

    しかし実際にはそのうちの2.6%しか活用できていません。

    その理由は、生産井の掘削成功率が低く、大きなコストがかかることや、開発のリードタイムが10年以上と長いことに加え、立地地区が国立公園や温泉などの地域と重なり、国や自治体、地元関係者とさまざまな調整が必要だからです。

    ところが近年、クローズドループと呼ばれる新しい技術が開発され、そういった課題も将来的にクリアされるのではないか、と期待が寄せられています。

    ※この技術は当サイトでも早期に注目しており、2021年に「高温岩体発電」という当時の名称で記事にしておりますのでご参照ください。

    (過去記事)実はこんなに差が付いている北米と日本の地熱発電!そのワケは?

    クローズドループは従来の地熱発電の課題を解決

    「クローズドループ」は、高温の地層に人工的にパイプで水を流し込み、発生した蒸気でタービンを回して発電する新しい地熱発電の方法です。

    熱水や水蒸気がなくても高温の地層があれば発電できるため、これまでの地熱発電よりも候補地が多いとされていて、次世代の地熱発電として世界的にも注目されています。

    また、地下水を汲み上げないので温泉への影響や地盤沈下のリスクがなく、熱水や蒸気の枯渇による発電中止も回避できることから、従来の地熱発電の課題を解決できる手法として国内でも話題に上るようになりました。

    ただし、開発はまだ限定的で商用化には至っておらず、初期設備投資が高額になる可能性も示唆されています。

    ですが、技術革新やコスト削減が進めば地熱発電の主流にも成り得るという見方から、日本でもいくつかの企業が海外ベンチャーと手を組んで開発にあたっています。

    商業化を目指すクローズドループ地熱発電

    (画像:中部電力

    2022年、中部電力がカナダの「Eavor(エバー)社」の株式を取得し、海外の地熱エネルギー関連企業に同社としては初めての出資を行いました。Eavor社には翌2023年に鹿島建設も出資をしています。

    Eavor社のドイツの掘削現場(画像:thinkgeoenergy.com

    Eavor社は、世界に先駆けてクローズドループ技術の研究・開発を行い、商業化を目指すグローバルスタートアップ企業です。

    現在、Eavor社は、ドイツのバイエルン州に商用クローズドループ地熱発電施設を建設中で、順調であれば今年の夏ごろ、世界で初めての商業運転が開始される見込みです。

    ニセコの掘削現場(画像:三井エネルギー資源開発

    一方、国内でも三井物産が米国の世界的な総合エネルギー企業・シェブロン社と共に北海道のニセコでクローズドループの実証実験を介しています。

    こちらは三井物産の子会社・三井石油開発株式会社とシェブロンU.S.A.の子会社・シェブロンニューエナジーズ・ジャパン合同会社が提携して行うもので、2025年までに発電に必要な熱交換ができるかどうかを確認し、商業運転開始の際には発電容量1万キロワット以上の規模を目指すそうです。

    今回ご紹介をした各地熱発電所の出力(予定)は以下の通りです。

    ・鬼首地熱発電所(宮城県)1万4,900kW=14.9MW
    ・Eavor社がドイツに建設中のクローズドループ地熱発電所 8,200kW=8.2MW
    ・三井物産のニセコ実証施設が商業運転した場合 1万kW以上=10MW以上

    ちなみに日本で最大の地熱発電所である八丁原発電所(大分県)は1号機・2号機合わせて110MW、そして私たちの宮城県最大の火力発電所・新仙台発電所の出力は1,046MWです。

    技術的に大規模化しにくいのもクローズドループ方式の弱点のようですが、地熱発電そのものが化石燃料の発電所と比較すると出力が小さいので、そういった多様なエネルギーを経済的にどう組み合わせてCO2削減を進めていくのか、という部分も今後は大きな課題になってくるのかもしれません。

    (ミカドONLINE 編集部)


    参考/引用記事: 新しい地熱発電「クローズドループ」商業化めざし世界的に注目 | NHK | 環境 日本の地熱発電政策のありかた/長山浩章(PDF) ドイツ・ゲーレッツリート地熱事業への参画~Eavorのクローズドループ地熱利用技術(Eavor-Loop)を活用した初の商業プロジェクト~ – ニュース|中部電力 Jパワー鬼首地熱発電所が更新終え運転開始 –電気新聞ウェブサイト ニュース | 三井エネルギー資源開発 MOECO MOECOとシェブロン、日本の北海道でアドバンスト・クローズド・ループを活用した地熱パイロットを試行 | Business Wire 三井物産、北海道で次世代地熱発電 環境負荷小さく – 日本経済新聞 地熱発電と規制緩和について 6142 : ブログ : 安全・安心の横浜へ 「何を言ったかでなく、何をやったか!」 カナダの地熱技術開発企業「Eavor(エバー)社」と株式引受契約を締結 – ニュース|中部電力 グローバル・エネルギー・ウォッチ Vol.43 地熱発電に新技術「クローズドループ」とは?エバー・ジャパン取締役ジェームズ・ヘザリントン氏 | エネフロ 地熱発電事業のゲームチェンジャーと成り得るカナダのスタートアップ企業に出資 | プレスリリース | 鹿島建設株式会社    など

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