驚異のエネマネ新技術(15) ~CO2ゼロ!壮大な人工太陽発電計画と日本のITER早わかり~

    みかドン ミカどん皆さんは太陽が気体だけでできていることをご存じでしたか?しかも宇宙には酸素がありません。つまり太陽は「燃えている」わけではないのです。なのに46億年も膨大なエネルギーを出し続け、今後もあと50億年は継続すると言われています。その原理をつかった発電方法の実現を、いま七か国が協調して長期的に目指しています。

    夢のエネルギーといわれる「人工太陽」の研究開発が進行中

    太陽の92.6%は水素です。それらの原子核と電子が高温・高圧により分離し、激しくぶつかり合って反応することで巨大なエネルギーを出し続けています。

    この太陽エネルギーの放射と同じ原理で発電はできないものか?その実現を目指す世界規模の壮大な研究開発がいま少しずつ形を現し始めています。

    宇宙や自然界に存在する仕組みを利用したこのアイデアは、CO2を排出せず放射能の危険性も少ないため「夢のエネルギー」「人工太陽」などとも呼ばれていますが、再生エネルギーとは桁違いの非常に大きなエネルギーを取り出せることから、今後、化石燃料に取って代わる本命になり得るのではないか?と、未来への期待が高まっています。

    人工太陽といっても決して燃える球体を発電設備の中につくるのではなく、太陽と同じ反応(後述)が起こる大きな装置を製造し、その熱で水を加熱してタービンを回すものです。

    ですが巨額の予算を必要とするため、現在は、日本、欧州(EU)、米国、ロシア、中国、韓国、インドの7カ国/地域が参画して、ITER(イーター)というビッグプロジェクトが組まれ、2025年の運転開始を目標に、フランスのサン・ポール・レ・デュランスにある(旧名:カダラッシュは地元の呼称)の研究センターに実証実験施設の建設が進んでいるというわけです。

    日本の技術が世界をけん引

    この分野での日本の研究は世界をリードする立場にあり、ITERに置いても研究の中心的な役割を果たし、技術者の派遣や設備の受注製造などでも大きく貢献をしています。

    昨年の5月には茨城県の那珂核融合研究所で世界最大級の磁場コイル「中心ソレノイド」の据付け作業が行われ、翌6月には岐阜県土岐市の核融合科学研究所が重水素プラズマ実験でイオン温度1億2千万度を保った状態で、電子温度を6400万度まで上げることに成功したと発表しました(冒頭動画)。(この二つの研究施設はそれぞれ異なる方式の実験炉で研究を進めています)

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    三菱重工のトロイダル磁場コイル初号機(画像:マイナビニュース

    また、設備の製造では2018年に東芝がITER用の「トロイダル磁場コイル」のコイル容器を完成させ、今年の1月には三菱重工がITER向けの「トロイダル磁場コイル初号機」の完成披露を行っています。

    トロイダル磁場コイルというのはITERの中核を成す主要装置ですが、設置予定の18基に予備の1基を加え、EUが10基、日本が9基を担当します。

    そのうちの5を三菱重工(2013~)が受注し、残りの4とコイル容器6基を東芝(2014)が受注しました。東芝の受注額は470億円と言われていますが、国内原発の全停止によるダメージや、特に三菱重工にとっては、大型客船、国産ジェット旅客機の納入延期トラブル等で失った信頼回復の絶好のチャンスと位置付けられ、関連の同社工場は活況を期しているそうです。

    核融合とは?プラズマとは?

    太陽の核融合(画像:太陽と「地上の太陽」の違い【3】)
    太陽の核融合(画像:太陽と「地上の太陽」の違い【3】

    さて、ここまでの説明で、核融合、重水素、反応炉など心穏やかならぬ言葉が登場して不安を抱かれた方もいらっしゃると思います。

    実は、人工太陽発電の正しい名前は「核融合発電」といいます。こう書くとギョッとする方が多いかもしれませんが、文字をよく見てみると、原子力発電は「核分裂」ですが、人工太陽発電は「核融合」です。つまり言葉は似ていても、まったくの別物なのです。

    融合は英語でフュージョンです。昔はそういう音楽のカテゴリーもありましたが、ドラゴンボールの合体技をイメージしていただいたほうが、むしろ理解が早いです。

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    電離(画像:電離と励起ってなあに?

    物質は熱していくと個体から液体へ、やがて気体に変化しますが、さらに超高温で熱すると、プラスの電気を持つ原子核とマイナスの電気を持つ電子がバラバラになって激しく運動をし始めます。

    その作用を電離といい、気体が電離して電荷を帯びている状態をプラズマといいます。この状態は固体・液体・気体に続く物質の第4の状態と言われています。

    太陽では超高温・超高圧の中心部で水素がプラズマになっており、強い力の衝突で水素の原子核が2個融合して重水素となり、さらにもう一度反応してヘリウムに変わります。

    ところがこのときに生成されるヘリウムが、融合する前の水素の合計質量(つまり材料の重さの合計)よりも軽くなるため、融合に伴って莫大なエネルギーが放出されます。その熱と光が太陽の外観の正体なのです。

    (画像:東芝エネルギーシステムズ

    ですが、太陽で起こっている最初の反応は地球上ではとても起こりにくい反応なのです。そのため、地上では核融合が起こりやすい重水素と三重水素がつかわれ、ヘリウムと中性子が生成されます。

    地球では、海の水という形で50兆トンもの重水素があり、三重水素も同じく海水に含まれる2000億トンのリチウムから生産することができます。つまり燃料枯渇の心配が要らない、まさに「持続可能なエネルギー」と言えるでしょう。

    ただし、太陽と大きく異なる点がもうひとつあります。それは太陽のようにものすごい力の重力でプラズマをとどめて置けないことです。プラズマはたとえ何千万度もあるような高温状態であったとしても、装置の壁にちょっと触れただけで冷やされて消滅してしまうため、宙に浮かせて閉じ込めなければいけません。

    ITERでは-270℃に冷やして電気抵抗をゼロにした超電導コイルに大量の電気を流して強い磁石を作りプラズマを浮かせて閉じ込める方法が採用されています。先にご紹介した磁場コイルはそのために必要なものだったのです。

    ITERの簡単な歴史

    IETER模式図_05-1
    IETER模式図(画像:文科省

    核融合反応をつかった人工太陽発電は、燃料わずか1gで石油8トンを燃やした時と同等のエネルギーを生みだすことができるそうです。

    私達は「核」という言葉によいイメージを持ちませんが、世界の研究者は早くからその有益性に着目し平和利用のために研究を続けてきました。

    ITERのそもそもの始まりは、ゴルバチョフとレーガンによる1985年の首脳会談で核融合の国際協力が話し合われたことですが、第二次世界大戦後に核兵器や航空機、宇宙ロケットなどの軍事に関わる分野の研究に大きく規制がかけられた日本は、世界の第一線から大きく取り残されていました。

    しかし、核融合と高温プラズマに関わる研究は、軍事兵器利用の可能性の余地がなかったため、比較的自由に進めることができ、1960年代からは、日本の核融合研究者が世界の研究者と共同して高温プラズマの研究に従事するようになりました。

    その過程においてITERの建設費を約半分にする提案を行い、1998年以降に設計変更まで成し遂げるなど、大きな成果を挙げてきました。

    よって、ITERの建設候補地として青森県の六ケ所村を提案し、最後までフランスと競い合いましたが、優劣が拮抗して決着が付かず、3年もの間開発が停止してしまったデメリットが憂慮されたたため、建設地(ホスト国)をフランスに譲る代わりに、準ホスト国として他国よりも有利な条件で開発に参入できる合意策がとられました。

    日本の敗因は、国内で中性子を扱う実験の法整備やコンセンサスが整っておらず、1970年代の石油危機を機に原子力発電にまい進したフランスのほうが、放射性物質も含めたより現実的な実験を行っていたからともいわれています。

    けれど当時の立花隆氏が「先端研究の世界では、いつ何どき、研究地図を全面的に塗り替えなければならないような革命的なブレークスルーが生まれぬともかぎらないから」建設地となって多額の投資をつぎ込む結果にならなくてよかったのでは?という意見を述べているように、2000年代初めの核融合の技術はまだまだ先行きが不透明でした。

    アメリカが今後の有望な方式をめぐって目算を見誤り、一度ITERから離脱したのちにまた復帰するなど、紆余曲折もあったITERですが、日本側の設備も完成しつつあり、いまは7極(7か国・7地域)35か国の研究者が一丸となって実現に向けた取組みを行っているようです。

    日本は、ITER計画の準ホスト国として、ITER計画への支援と次世代核融合炉の実現に向けた研究開発プロジェクトを獲得し、青森県六ケ所村にはこの幅広いアプローチ活動として、国際核融合エネルギー研究センター(IFERC(アイファーク))が整備されました。

    まとめると日本には、
    ITER(トカマク型)を支援する研究施設が、
    ・茨城県那珂市と
    ・青森県六ケ所村にあります。

    ITER支援施設ではありませんが、
    ・岐阜県土岐市(日本オリジナルのヘリカル型)や
    ・大阪大学(日本オリジナルのレーザー核融合)などにも研究施設があって、
    それぞれに最新の研究成果を発表しています。

    また、製造分野では、東芝グループと三菱重工グループがITERからの発注で中核設備を担当し、そちらも現在進行中です。

    課題は予算、耐性、安定継続

    核融合を活用した人工太陽発電は、巨額の投資が必要になることや、1000億度以上が必要と言われる超高温に、長年耐えられる装置をどうやってつくるのかなど課題も大きく、ITERの実証実験がたとえ順調に成功したとしても、商用ベースで運用できるのは今世紀末ともいわれている息の長いプロジェクトです。

    核融合は聞きなれない言葉ではありますが、実際には宇宙や地球上のいたるところで起こっている自然な作用であり、放射能の危険性も原子力発電所の1/1000とのこと。安定稼働に高い技術が必要であるということは、逆に言えば、些細なことでもすぐに止まってしまうわけですから、課題は暴走よりもむしろ継続のほうらしく、その意味ではむしろ安全なのかもしれません。

    現在、主導的な立場の日本が今後どうやって関わっていくのか、先行きを注目していきたいです。

    (ミカドONLINE編集部)


    出典:
    地上に太陽を作り出す!? 夢のエネルギー・核融合の最前線 1億度のプラズマを閉じ込めろ!地上に太陽をつくる核融合研究の最前線 東芝が国際熱核融合実験炉向け超伝導コイル受注、総額470億円 第24回 国際熱核融合炉「ITER」 日本への誘致“失敗”の舞台裏 ITER – Wikipedia    など。