ノーベル賞日本人受賞者(27)吉野彰氏は何をした人?~2019年(令和元年)に化学賞を71歳で受賞~

    みかドン ミカどん

    今回は2019年にノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏をご紹介します。吉野氏は携帯電話やパソコンなどに用いられるリチウムイオン二次電池の発明者の一人です。ネット上には笑顔の写真があふれていますが、実際に気さくでお茶目でやんちゃなお人柄のようです。

    現在のモバイル全盛の立役者

    2019年のノーベル化学賞はジョン・グッドイナフ(米国)、スタンリー・ウィッティンガム(米国)、吉野彰の3氏が共同受賞しました。

    3氏の受賞理由は、「リチウムイオン電池の開発」です。共同受賞した3氏はチームを組んで一緒に研究してきたわけではありませんが、ジョン・グッドイナフ氏がリチウムイオン電池の原型を考案し、スタンリー・ウィッティンガム氏が新たな正極材を発見し、吉野彰氏がリチウムイオンの取り込み方に工夫を加えたり全体の構成を見直して安定化させるなどして技術を完成させました。

    つまり過去のノーベル賞と同様に「誰かの研究に誰かが改良を加える」形で技術が完成し、これによっていまのモバイル時代の幕開けにつながるリチウムイオン電池の商用化が可能になったのです。

    賞金は3氏で等分に分けられたということなので、ノーベル財団は優劣をつけることなく、この3氏の功績を同等に評価したということだと思います。でも日本人としては一番であって欲しかった気もしますよね。

    多くの人の手を経て実用化されたリチウムイオン電池

    「リチウムイオン電池」は、プラスの電極に「リチウム」という金属の化合物を、マイナスの電極に特殊な炭素を使う電池で軽いのに出力が大きく、繰り返し充電できるのが特徴です。

    軽くて出力が大きい電池の開発は昭和50年代から進められてきました。

    「ニッケル」や「鉛」などを使った従来の電池は1.5ボルト前後という低い電圧しか取り出せない欠点がありました。

    一方、「リチウム」を使うと3ボルト以上という高い電圧は得られましたが、発熱や発火のおそれがあり、安全に充電することができませんでした。

    こうした中、昭和55年、イギリスのオックスフォード大学で研究していたジョン・グッドイナフさんと当時の研究員で、現在は「東芝」のエグゼクティブフェロー、水島公一さんらがリチウムとコバルトの酸化物「コバルト酸リチウム」をプラスの電極に使うと、電圧が高いだけでなく寿命が長い電池になると発表しました。

    この成果に注目した吉野彰さんが5年後の昭和60年、プラスの電極に水島さんが発見した「コバルト酸リチウム」を、マイナスの電極に特殊な炭素を使い、初めて実用的なリチウムイオン電池の開発に成功しました。

    これにより、軽い上に激しい発熱を抑えて安全性が高く、何度でも使うことができる今のリチウムイオン電池の実用化が大きく前進したのです。

    それからさらに5年後の平成2年、当時、「ソニー」に務めていた西美緒さんがリチウムイオン電池を世界で初めて商品化することに成功しました。ノーベル賞受賞で一躍「時の人」となった吉野氏ですが、今に至るまでには吉野氏以外の日本人も複数貢献していることを忘れてはいけないと思います。

    ほかの充電池と違って電気を使い切らないまま継ぎ足しで充電を繰り返しても容量がほとんど減らないため、携帯電話やパソコンなど身の回りの製品に多く使われ、IT機器の普及に大きく貢献しました。

    また、時間がたっても失われる電気が少ないことから、9年前に地球に帰還した日本の小惑星探査機「はやぶさ」にも搭載され、7年におよんだ宇宙の旅を支えました。

    さらに、ハイブリッド車や電気自動車のほか、次世代の送電網を支える蓄電池といったエネルギーや環境の分野でも活用が広がっています。

    ノーベル賞発表時は当社のHPのアクセス数が4倍に!

    余談ですが、リチウムイオン電池は当社の業務にも関連がある重要なテーマだったので、このサイトでも以前シリーズ化して取り上げ、吉野彰氏についても記事にしていました。

    リチウムイオン電池講座シリーズ

    【リチウムイオン電池講座】<斜め下から掘り下げる>⑦旭化成がなぜ電池?吉野彰。素材メーカーだからできたLiB負極材の発見

    そうしたところ、吉野氏のノーベル賞受賞の発表からどんどんアクセスが増え始め、翌日には普段の4倍以上ものご訪問者がありました。皆さんがいっせいに検索をしてこのサイトを訪れてくださったと思うと、感謝の念とノーベル賞の威力を同時に感じたりします。

    さて、その当時、吉野氏の記事を書くにあたり色々調べていたところ「吉野氏は自身が候補者であることを十分承知しており、いつかやってくるかもしれないノーベル賞受賞に備え、長生きするために毎年健康に留意し、体力作りも怠らないらしい」という記事を目にしたおぼえがあります。ですが、今となっては記憶が曖昧で、検索してもその記事を探し出すことができません。

    ネット上ではご本人の「驚いた」というコメントが掲載されていても、実際は意欲満々だったことが伺える内容だったのでいつかご紹介したいと思っていたので残念です。

    けれど、研究をスタッフに振って自分は夜の街に消える、カラオケの十八番は「内山田洋とクールファイブ」、周囲の制止もきかずカッパのかぶり物をして1人で夜の繁華街へ向かうなど、お茶目な人柄が伝わる記事がまだ残っているので、あれもたぶん本当だったのかな?と勝手にいまは思っています。

    吉野彰さんは「おちゃめでやんちゃな人」と旭化成の後輩 – 産経ニュース

    (ミカドONLINE 編集部)


    参考/引用:2019年ノーベル化学賞受賞 吉野さん開発「リチウムイオン電池」とは|ノーベル賞2023 NHK NEWS WEB 2019年ノーベル化学賞は「リチウムイオン電池」に! | Chem-Station (ケムステ) ノーベル化学賞、日米の化学者3人に リチウムイオン電池開発 – BBCニュース など