
この頃SAF(サフ)という言葉をニュースでよく聞くようになりました。これは今までバイオジェット燃料と呼ばれていた生物由来の航空機燃料です。現在注目されているのが廃食用油を使ったSAFです。今回はそれについてご紹介します。

純国産のSAFがついに実用化
SAF(サフ)とは「Sustainable Aviation Fuel」の略で、日本語では「持続可能な航空燃料」を意味します。具体的には、植物などバイオマス由来の原料や、飲食店などから排出される廃食用油(使用済み揚げ油)などに含まれる炭素から主に製造される飛行機燃料を指しています
これまでも植物に由来する一部のSAFは「バイオ燃料」「バイオジェット燃料」などと呼ばれて化石燃料に替わる位置付けにありました。ですが、現在では植物に限らず多種多様な原料から航空機の代替燃料が製造されるようになったため、それらを総称するSAFという広義の名称が使われるようになりました。
SAFは世界で徐々に導入されていますが、現在、技術が確立して最も実用化が進んでいる代表格が廃食用油を使ったSAFです。日本ではこれを外国に頼らず国内で製造して量産することを目指し、昨年から民間企業(合同会社SAFFAIRE SKY ENERGY)による廃食用油を使ったSAFの生産が開始されました。
その燃料が2025年5月1日に関西国際空港でボーイング787-8型機「JALミャクミャクJET」(関西国際空港発 → 上海・浦東行きJL891便)に給油され、これによってついに国内でもSAFの商業運用がスタートしたのです。
ちなみに、このニュースは「初供給」「初フライト」「国産初」「旅客機初」等々、各メディアでは多くの記事が「初」というタイトルで紹介されていますが、調べてみると過去にも国産のSAFを燃料に使った旅客機の事例はいくつかあるようです。
2021.2.4 JAL(羽田→福岡JL319便)※古着の綿が原料/混合率不明
2021.6.17 ANA(羽田→伊丹NH31便)※微細藻類由来/混合率20%
2021.6.17 JAL(羽田→新千歳JL515便)※木くず由来(25%)微細藻類由来(11%)
2025.3.25 JTA(那覇→宮古島JTA565便)※食用に適さない植物の種子が原料/混合率不明
しかし、これらの事例はNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)に採択された実証事業だったため試験的な意味合いが強く、民間企業によってSAFの供給がビジネスとしてスタートしたという点では、やはり今回のフライトは記念すべきニュースといえるのではないでしょうか。
あなたが食べた揚げ物の油もSAFに使われているかも!
2025年5月23日、関西国際空港に続き中部国際空港セントレアでもSAFの供給が開始され、SAF燃料を給油したDHL Expressの貨物便がロスアンゼルスに飛び立ちました。
SAFは従来の航空燃料と混合して使用されており、混合率は一般的に10~50%程度です。現在は50%以下での利用が国際基準で定められていますが、将来的にはSAFの混合率が100%になることも期待され、いずれ使用済みの揚げ油に対して世界的な争奪戦になるのでは?という見方も出てきています。
今回、国内でSAFの製造を開始したのは合同会社SAFFAIRE SKY ENERGY(サファイアスカイエナジー)というベンチャー企業です。この会社はNEDOによる2021年の事業採択を受けて2022年に設立された合弁会社です。
SAFFAIRE SKY ENERGYは当初から事業化を目指し、日揮ホールディングス株式会社(出資比率48%)(以下,日揮HD)、コスモ石油株式会社(48%)、および株式会社レボインターナショナル(4%)の3社によって共同出資されています。
そのうち日揮HDではSAFで飛行機が飛ぶ循環型社会を目指し、機運醸成のために「Fry to Fly プロジェクト」(Fry(使用済み油で)to Fly(空を飛ぶ)!)を立ち上げました。2024年はこれに賛同する形で以下の企業や自治体から使用済みの揚げ油が集まり始めました。
2024.4月 みなとみらい東急スクエアからの提供を開始(年間約2トン)、やよい軒124店舗から提供開始(年間約220トン)/2024.5月 GYRO HD9ブランド約200店舗から提供開始、 肉汁餃子ダンダダン全国の店舗から提供開始/2024.6月 神戸市と協定締結/2024.7月 Osaka Metroレストラン等から提供開始/2024.9月 徳洲会140の病院等施設からの提供合意(年間約30トン)/2024.10月 髙島屋との基本合意(年間約250トン)、ダイニングイノベーションとの基本合意(年間約100トン)、堺市との協定締結/2024.11月 京急電鉄との基本合意
現在はFry to Fly Projectに多くの企業や自治体が参加して、昨年以上に廃油が集まっていると思われます。もしかしたら皆さんがどこかで食べた揚げ物の油も知らないうちにSAFになっているかもしれませんね。詳しくは以下のサイトをご覧ください。
Fry to Fly Project | 持続可能な社会の実現に向けて | 日揮ホールディングス株式会社
ちなみに私は今年「やよい軒 仙台六丁目店」で「から揚げ定食」を食べたので、そのときの揚げ油が飛行機の燃料になったかも?と思うと、やはりちょっとは感動します。同時にこの件を調べていて「日揮さんって、イメージ戦略が上手いなー」と思わず脱帽してしまいました。(もし万が一どこかのコンサルやPR会社と組んでいるなら、そちらも知りたいと思ってしまいました・・・)
SAFの使用を義務化する動きが進んでいます
従来の燃料をSAFに変えると、約60%から80%の二酸化炭素が削減されると言われており、SAFは今世界が注目する燃料です。
もちろん、燃料としてSAFを燃やした場合でも二酸化炭素は排出されますが、その二酸化炭素は食用油(揚げ油)の原料となった植物が空気中から取り込んだものです。それは「元々大気にあった炭素が一周してまた大気に戻った状態」であり、そのため大気中の炭素は実質増えないとみなされています。(この考え方をカーボンニュートラルといいます)
SAFは①CO2の排出量が削減できる ②国産原料でつくれる ③従来の機体やインフラが使用できる などの利点があります。
その一方で 製造コストが高いという大きなデメリットがあります。
従来の航空燃料 | SAF |
---|---|
100円/リットル | 200円~1,600円/リットル |
また、SAFを製造できる会社は世界で数社と限られており、世界のジェット燃料に占めるSAFの割合は1%未満(2023年時点)です。つまり航空需要の大きさに対して、量産体制がまったく追いついていないのです。
そうした現状があるものの、世界的にはSAFの使用を義務化する動きが進んでおり、日本でも2030年までに国際線に給油する燃料の1割をSAFにするよう、石油元売り会社に供給を義務付ける方針です。
最近では廃食用油だけでなく汚泥からSAFをつくる取り組みも始まっていますが、汚泥系はインフラと連動していて現在の未利用バイオマスの中でも潜在量が非常に大きいとされているため、実現したら国産SAFの比率向上に貢献できるかもしれません。
SAFの安定供給と価格競争力を上げるためには、製造スケールの拡大だけでなく、廃食用油以外の多様な原料も活用しながら、さらなる技術革新をはかっていく必要がありそうです。
(ミカドONLINE 編集部)
参考/引用記事: 持続可能な航空燃料「SAF」って何? 使用済みの食用油やゴミから燃料ができるってホント!? : 刊行物 | 独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構[JOGMEC] など 【映像報告】日本初、衣料品の綿から製造した国産バイオジェット燃料を搭載したフライトを実施しました|プレスリリース|JAL企業サイト SPACE News – ANA/JAL:国産SAF燃料を定期便に初搭載 沖縄県内路線で初となる、食用に適さない植物の種子から生成した国産SAFを用いたフライトを3月25日那覇発宮古島行きのJTA565便で実施しました JALやANA、国産SAFで初フライト成功 木くずや藻が原料 国産廃食用油を原料とするバイオジェット燃料製造サプライチェーンモデルの構築(PDF) 持続可能な航空燃料「SAF」について分かりやすく解説!どのような課題がある?|よくわかる!サステナビリティの基礎知識|セブン&アイ・ホールディングス
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