今回ご紹介する単位は「ワット」です。電気の専門用語と思われがちですが、本来は「仕事」を表す単位なのです。歴史をご紹介したついでに、後半、こちらで無効電力についても簡単に解説いたしました。無効電力ってなに?力率ってなに?交流で電圧Vと電流Aを掛けた値VAが電力Wにならないわけはどうして?
W(ワット)は仕事率を表す単位
W(ワット)は電気の単位と思われていますが、元々は仕事率を表す単位です。仕事”率”と言っても何かに対する割合ではなく、単位時間(1秒)あたりに行う仕事や消費エネルギーを表してそう呼びます。
1Wは毎秒1ジュールに等しいエネルギーを生じさせる仕事率と定義され、1ジュールは標準重力加速度の下でおよそ 102.0 グラム(小さなリンゴくらいの重さ)の物体を 1 メートル持ち上げる時の仕事に相当します。
つまり、1Wは100グラムの物体を1秒で1メートル持ち上げるのにほぼ等しい力ということになります。
ワットは馬力の単位を提唱し定義した
W(ワット)は蒸気機関を改良して産業革命の基礎を築いたイギリスの発明家ジェームズ・ワットにちなんで名づけられました。
ワットは若い頃、計測機器を製作する職人でしたが、グラスゴー大学に導入された天文学機器を調整したことがきっかけで教授達に腕を見込まれ、グラスゴー大学の中に小さな工房を開きました。そこで興味を持ったのが、蒸気機関という新しい動力装置でした。
そして大学が所有していたニューコメン蒸気機関(トーマス・ニューコメンが発明)の模型の修理を自ら申し出、それ以降は長い間、蒸気機関の研究と改良に没頭しました。
やがて1776年(安永5年。日本では徳川家治が将軍)に、ニューコメン蒸気機関をはるかに上回る、性能のよい蒸気機関をが完成すると、ワットの元には多くの鉱山から炭鉱の揚水用動力として注文が舞い込みました。実用化に至るまでには資金面で大変苦労し、困窮して8年間も土木技師として働いたワットでしたが、ワットの蒸気機関は大いに売れて、彼は資産家として名を成しました。
ワットの蒸気機関は非常に燃費がよく、ニューコメンの蒸気機関の最大5倍も効率がよかったため、ワットは自分の発明した蒸気機関の性能を明らかにするために,一定時間あたりにできる仕事,つまり仕事率を測る馬力(HP=horse power)という単位を提唱しました。
それまでにも馬力という単位は自然発生的に使われていましたが、定義がまちまちで統一されていませんでした。ワットは幾つかの実験をして[平均的な馬は1分間に120ポンド(約54.4kgf=54.4kgw)の重さの物体を、196フィート(約59.7m)の高さに持ち上げることができる]としました。
しかし、その後も国によって基準が異なったため、後年、単位を統一して新しい呼び名を付けるときに、産業革命に貢献し馬力という仕事率の単位を定義したワットの功績を称え、仕事率の単位がW(ワット)と定められました。(1889年の英国学術協会第2回総会で採用)
電力は電流が単位時間にする仕事
電気で使われるW(ワット)も考え方と基準は同じです。電力[W] =電圧[V]×電流[A]で表されますが、電力というのは電流が単位時間にする仕事なので、消費電力の単位にW(ワット)を使います。
仕事率としてのW(ワット)は「100グラムの物体を1秒で1メートル持ち上げるのにほぼ等しい力」です。W(ワット)は馬力に換算できる一意の統一単位なので、”極端な言い方”をすれば、馬1頭と1馬力エンジと735Wモーターと735Wヒーターと735W白熱電球は同じパワーということになります。(そんな白熱電球があるかどうかは別として・・・)
また、電気の単位で表したときの1Wは、1Vの電圧を加えて1Aの電流が流れたときの電力ですが、交流の場合の消費電力を正確に書くと「電圧 × 電流 × 力率」になります。
無効電力とは?
交流で電圧Vと電流Aを掛けた値VAが電力Wにならないわけ
交流の電力はプラスとマイナスを入れ替えながら波型で流れていますが、ここにモーターなどの負荷を繋ぐと、電流の波形は電圧の波形よりも遅れるため、このずれが損失を生みます。
電力は電圧と電流を掛け合わせたものですが、交流の電力(電圧×電流)では、負荷につなぐと上の図のように、電圧と電流の周期に時間差が生じるため、積がマイナスになるΘの部分は電気として消費されません。この消費されない電気を無効電力と言います。
つまり電気が波で流れる交流の場合は、機器に置いて必ず無駄が発生するため、供給した電気が100%使われることはなく、「電力が目減りする」という表現のほうがわかりやすいかもしれません。その差分を差し引いた有効な電力の割合を力率と言います。
※電気が「波」で流れない直流の場合は、無効電力はありません。
力率はモーターのない電熱器のような交流電気製品では1となり電気を無駄なく使えますが、モーターのように内部にコイルを含む部品があると、上記のようなズレが生じて力率が下がります。現在の家電製品は大小のモーターを内蔵したものがほとんどですから、交流(コンセント)で使う製品は必ず電気が目減りします。そのため、実際にその製品が動くためには、書かれているワット数以上の電気が必要になります。
「馬力」の単位は廃止の方向
さて、馬力もW(ワット)も仕事率を表す単位ですが、現在では法改正により、国際的な単位であるW(ワット)をつかうことになっています。
日本では長年、フランス式の馬力単位(PS)を使用し、1馬力を「75キログラムの物を毎秒1メートル動かす力」と定義してきましたが、馬力は現在、内燃機関,蒸気機関,タービンなどに限って法的使用が認められているのみになりました。それも廃止による混乱を回避するための暫定措置ということで、車やオートバイの性能表記は徐々にW(ワット)に置き換わっています。ちなみに、1馬力は735.5ワットです。
馬力にしてもW(ワット)にしても、どちらの単位もジェームズ・ワットに由来するのですから、天国のワットさんは、空の上から笑って下界を見ているのかもしれませんね。ジェームズ・ワットがビジネスパートナーのマシュー・ボールトンとつくった会社は大企業となり、代が変わってもそれぞれの息子達に引き継がれ繁栄したそうです。