
刑事コロンボは1968年から2003年まで米国で放送された全69話の人気ドラマです。このシリーズではドラマの中で当時の最新鋭機器という扱いで描かれている家電やシステムについてご紹介をしています。(ネタバレを含むので要注意!)

第8話「死の方程式」では自動車電話からの録音がコロンボの推理の鍵に
刑事コロンボでは社会的地位の高い人物が犯人や被害者として登場することが多く、その裕福さを表す小道具として、当時は最新鋭だったと思われる電化製品やデジタル機器がよく登場します。
刑事コロンボで、当時は「お金持ちのステータス」とされた自動車電話が最初に登場するのは比較的早く、第8回「死の方程式」(原題:Short Fuse)では、被害者が亡くなる直前に自動車電話で自宅にかけた電話の録音を、犯人とコロンボと被害者の妻が3人で聞くシーンが描かれています。
この回の被害者は犯人の叔父で、化学工業を営む大会社の社長です。犯人は先代の社長の息子でこの会社の役員ですが、素行が悪く金遣いも荒いため叔父である現社長に追放されそうになりました。そこで運転手付きの車で山荘に向かう叔父の車を葉巻に仕掛けた時限爆弾で爆破し、叔父と運転手の二人を死なせてしまいます。
電話はその直前に叔父が自動車電話から自宅にいる妻にかけたもので、留守番電話には妻への伝言が残されていました。もしこの録音の最中に爆発が起これば事故に見せかけたい犯人の目論見が崩れ、この件は事故ではなく殺人であることがコロンボにばれてしまいます。そこで犯人はどこか落ち着かずそわそわしながら録音を聞いていました。
一緒に録音を聞いていたコロンボは、その様子を見てこの男が犯人ではないか?とひそかにあたりを付けるわけですが、通話が爆発の前に終了して犯人は胸をなでおろすも、その落ち着かない態度をコロンボに指摘され慌てて言い訳をするなど、両名の心理描写がなかなかスリリングな場面でもあります。
実は劇中に自動車電話の実物は登場しません
「死の方程式」の初回放送は、米国では1972年、日本では1973年です。
1972年(昭和47年)と言えば、終戦を知らずに28年間もグアム島のジャングルに潜伏していた横井庄一さん帰還し、札幌オリンピックが開催された年ですが、米国ではそんな以前から自動車電話が普及していたのか?と驚いてしまいますが、そういうわけでもなさそうです。
なぜならドラマの劇中に自動車電話の実物は登場せず、ほんの一瞬だけ被害者が受話器を握って話している映像が流れるのみだからです。
この当時、自動車電話は米国でも日本でもすでに使われ始めていましたが、本体価格も設置費用も非常に高額で、米国では富裕層やビジネス利用(営業車・政府関係)に限られ、日本でも一部の企業・公用車にしか設置されていませんでした。
当時の本体価格を調べてみると、米国ではおよそ2,000〜4,000米ドル(約60万円から300万円)、日本でも100万円~200万円はしたようです。
加えてこの回(「死の方程式」)は、刑事コロンボシリーズがあまりに面白かったことから、NBC役員たちの希望で急きょ追加されたものらしく、そういった事情もあってすぐに実物を準備できなかったのかもしれません。
自動車電話のための技術が自動車電話を消し去った?

自動車電話は1946年、AT&Tがシカゴで商用自動車電話サービスを開始したのが始まりです。当時の自動車電話は、現在と異なり、手動交換方式で交換手の助けが必要でした。
日本でも、米国に遅れて1954年に電電公社(現:NTT)が自動車電話システムの研究を始め、1961年に手動交換接続システムが完成しました。
これらはやがて交換手の手を借りない自動接続に切り替わっていきますが、その場合でも通話中は狭く限られた帯域の電波を占有で使うため、同時接続できる利用者数がとても少なく、地域によっては1都市に数十人しか同時利用できませんでした。
普及のきっかけになったのは、日本と米国でそれぞれにセルラー方式という移動体通信の無線接続方式が開発されたからです。
これはエリアを小さな区画(セル)に分けて、それぞれに基地局を置き、つなぎ替えながら通話する仕組みです。これによって今までは広域にひとつだけだった基地局の数が大幅に増えました。基地局を多数設置することで初期投資は増大しますが、電波帯域の利用効率が大幅に改善されることから各電話会社は次々とセルラー方式を採用していきました。
そしてこの技術がその後の携帯電話の基礎となり、自動車電話は携帯電話の隆盛と共に姿を消しました。「社長の車=自動車電話付き」がステータスだった時代が終わりを迎えたのです。
自動車電話のための技術が自動車電話を衰退させたのは皮肉なお話ですが、かつて日本や米国や韓国でバラバラだったセルラー方式が世界的に統一されるのは、スマートフォンが普及する2010年代になってからです。
劇的な変化を遂げてきたモバイル通信の世界ですが、今後もまだまだ変わり続けていくのかもしれませんね。
(ミカドONLINE 編集部)
「刑事コロンボに見る当時の最新機器」これまでの記事:ポケベル ラジカセ マイクロカセットレコーダー ファックス 自動車電話
ー 記事一覧 -