省エネ最新事情⑤風が動かない穏やかな冷暖房を地中熱で実現~ベストパーツ株式会社

    職場の省エネ最新事情と題した本シリーズの最終回は、オフィス全体に地中熱を活用した冷暖房システムを導入しているベストパーツ株式会社(仙台市宮城野区)を取材いたしました。ベストパーツ社は暖房設備機器の部品をカタログ販売して全国に発送している会社さんですが、東日本大震災で被災し、社屋を建て替える必要に迫られた時、在庫として倉庫に多数残っていた「放射冷暖房」システムを活用することを思い立ち、この分野の先進地であるヨーロッパ視察などを経て、現在の社屋が設計されました。代表取締役社長の室橋勝彦さんにお話を伺いました。(文中敬称略)

     

    空間を仕切る素敵な白いパーティションの正体は・・・

    ベストパーツさんのオフィスは白で統一された桟のパーティションが全体に採用されていてとてもモダンな印象です。そう感じてお尋ねしたところ・・・

    室橋  「今はこの中を冷水が流れています。冬は温水です」
    編集部 「え?これはパーティションではないんですか?」
    室橋  「これは冷温水放射パネル(冷温水パネルラジエーター)と言って、この中に夏は地中で冷やされた冷水、冬は地中で温められた温水を通すことによって、快適な室温を保っているんです。冷水と言ってもそれほど冷たくないんですが、今は18.8℃の冷水が流れて室温が24℃です。」
    編集部 「この薄くて平べったい桟の中を水が流れているんですね。びっくりです。」
    室橋  「流れているのは自然由来(トウモロコシ)のバイオグリコールをつかった不凍液です。ここは地中を600m掘っているんですけど、万が一地中に漏れたときも生分解性が非常に高く安全なんです。」
    編集部 「私はこちらのオフィスに入ってすぐに、オフィス全体を広く仕切っているこの白いパーティションがモダンでお洒落だな、と思ったんですが、実はこれが地中熱をつかった放射冷暖房システムの要だったんですね!」
    室橋  「今は(7月)放射冷却現象を使って部屋の室温を下げているんです。地中は地表に比べて温度変化が少ないので、そこを通ってきた水(不凍液)は、夏は室温より低く冬は室温より暖かくなるんですが、それを構内全体に張り巡らすことで、穏やかで快適な温度が保てるんです。だからこのオフィスはエアコンがないんです。」
    編集部 「本当ですか!建物に入った時にひんやりしたので、てっきりエアコンの空調だと思っていたんですが・・・」

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    室橋  「はい、一台もありません。エアコンというのは冷やした空気を動かすことで室温を下げる冷房ですが、これは室温よりも冷たいパネル群が周囲の物質から熱を奪う仕組みなんです。室内に氷を置いて部屋を冷やすのと原理は同じです。冬はその逆です。だから紙もカタログも動きませんし、ハウスダストも舞い上がらないし、たとえばアトピーをお持ちのお子さんなどにも非常にいい空調のシステムなんです。」

     

    音も風も出さない静的で穏やかな空調システム

    編集部 「そういえばオフィス全体がシーンとして、とても静かで静寂感がありますね。」

    室橋  「はい。なので図書館などに採用されています。あとは美術館に導入されたり、ワインセラーや京野菜や切り花の室温管理など、衣料・教育・福祉の分野だけでなく、様々な場所で取り入れられています。冷風や温風を吹き出す空調ではないので、室温も均一です。」
    編集部 「ものを保護するために優しく穏やかな温度変化が必要なときには最適ですね。」
    室橋
      「当社の地中熱の活用は経済産業省の助成対象事業なので、毎年、細かく報告をだしているんですが、ランニングコストが67%もダウンしました。」
    編集部
     「それはすごいですね。ただ工事や設備が大がかりになるので、導入費用もかさむように感じたのですが・・・」

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    室橋  「確かにそういう面はあります。エアコン取付けの安さにはかないません。ですが、一度設置してしまうと買い替えやメンテナンスもほとんどかからないので、200年は持つと言われているんですよ。ヨーロッパを視察して感じるのは、快適で心地いい空間への意識の高さです。向こうはラジエーター式の暖房器も早くから普及していますが、空調の展示会では暖炉の出品がとても多いんですよ。リビングがあって、暖炉があって、燃える火を見つめながら語らい、過去や未来に思いをはせる文化をとても大切にするんですね。今回のテーマは地中熱ということですが、自然の熱を活かしながら、心地よさと安らぎのある静かな空間に身を置くということはとても大切なんじゃないかと思います。」


    編集部
     「ありがとうございました。」

     

    地中の温度は季節を問わず一定で、だいたい16℃ぐらいだそうです。自然の熱を不凍液で構内に循環させ、優しく穏やかな空調を実現させているのがこのシステムの特徴です。太陽光や風力と異なり、安定したエネルギーを持つ地中熱。自然のエネルギーが生み出す自然な温度が空間の快適さを保ってくれているのだと思いました。(編集部)


    お話:室橋勝彦様 取材先:ベストパーツ株式会社 ワインセラー写真出典:ピーエスグループ


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