エネマネことばの窓17 ~内外のグローバル企業が次々と参入する他人事じゃないRE100~

    エネルギーマネージメント「ことばの窓」

    みかドン ミカどん先月(2020.4月)、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の理事兼最高投資責任者だった水野弘道氏がテスラの社外取締役に就任しました。前職での手腕を買われての招聘ですが、その水野氏が推し進めていたのが環境への取り組み等を重視する「社会的責任投資」でした。いま環境対策は投資の世界にも影響を与え始めています。

    前回はTCFDについてお伝えしました。TCFDは気候変動への取り組みを投資家に開示するよう促す組織です。
    TCFDは企業等に気候変動関連リスク及び機会に関して、ガバナンス(Governance)戦略(Strategy)リスク管理(Risk Management)指標と目標(Metrics and Targets)の4項目について開示することを推奨しています。

    (前回の記事)TCFD。投資・融資・保険の獲得には気候変動対策を開示~

    世界最大の機関投資家GPIFが2015年に社会的責任投資を導入

    2019年10月8日に経済産業省が主催した「TCFDサミット」では、世界中から集まった関連団体の代表や経営者に交ざって、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の水野CIO(当時)も講演を行い、パネルディスカッションではモデレーターも務めました。

    年金積立金管理運用独立行政法人(以下GPIF)は世界最大の機関投資家(大口の法人投資家)です。GPIFは160兆円といわれる公的年金の積立金を運用しており、実は大きな影響力を持つ団体ですが、2015年より資金の一部を「ESG投資」と言われる社会的責任投資で運用を開始しており、今後は環境への取り組みなども企業の評価に大きく影響することを印象付けました。

    ”持続可能”な社会の実現は近年の世界のキーワードですが、投資の世界でも”持続可能”であることが重視され始め、短期利益のために倫理に反する経営をしていたり、環境に脅威を与えているような会社は、たとえ財務指標が良好でも投資の対象としない傾向が高まっています。

    そういった背景を受けて、将来的な「100%再生可能エネルギーでの事業運営」を宣言するRE100という国際イニシアチブに加盟する内外のグローバル企業がどんどん増えています。

    ※イニシアチブ…特定の目的を積極的に推進して社会をけん引する先導的な企業や団体の連合体。

    RE100の加盟企業がすべきこと

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    RE100は、使用電力の100%を再生可能エネルギーで賄うことを目標とする企業の集まりです。再エネ100%を実現する方法として以下の2つが定められています。

    ・自社の施設で再生可能エネルギー電力を発電し、事業運営を行う
    ・発電事業者から再生可能エネルギーで発電された電力を市場で購入する
    ここでいう「再生可能エネルギー」とは、●太陽光●水力●風力●地熱●バイオマスでの発電を指しますが、自家発電をするほか、太陽光発電などをしている事業者から電気を購入することでも、再エネ率を上げられます。

    RE100に加盟する企業は活動で必要なエネルギーの100%を水力や太陽光などの再生可能エネルギーで調達することを宣言しなくてはなりません。具体的には以下のような行動が求められます。

    1. すでに電力の100%を再生可能エネルギーから得ている
    2. 再生可能エネルギー100%達成への明確な戦略とタイムテーブルがある
    3. 再生可能エネルギー100%達成に向けたロードマップを加盟12カ月以内に作成すると約束できる

    また、加盟企業は遅くとも2050年までに100%を達成することが求められ、進捗の目安として
    ・2020年30%
    ・2030年60%
    ・2040年90%
    の達成率が推奨されています。

    加盟企業は毎年、決まったフォーマットで報告書を制作し、進捗状況を事務局に提出する必要があり、その情報は、第三者の監査を受けなければなりません(日本企業は「推奨」)。
    加盟の費用はゴールド会員が15,000ドル(約160万円)、ベーシック会員が3,500ドル(約37万5000円)で、ゴールド会員になるとイベント登壇などの特典があるそうです。(再エネ設備メーカーはゴールド会員が必須条件)

    RE100は大きなグローバル企業しか加盟できません

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    RE100という名前は「Renewable Energy 100%」の頭文字で、イギリスのブレア首相の提唱を受けて、温室効果排出量削減・脱炭素化を目指す環境NPO団体「The Climate Group(英国)」がCOP21の前年である2014年9月に発足させました。
    今では、英国の他、米国、インド、中国、香港などの支部を置き、世界中から数多くの企業や州政府、市政府が参画しています。

    2020年5月18日現在、世界では235社が、日本では33社が加盟しています。加盟企業にはアップル、フェイスブック、マイクロソフト、グーグルを始め、スイスのネスレ、スウェーデンのイケアなど、日本でもよく知られている企業が数多く含まれています。

    日本のRE100加盟企業一覧 – SUSTAINA [サステナ]
    世界全体の加盟企業と各社の宣言内容(英語ページ)

    実はRE100への加盟には以下のような条件があり、お金さえ払えば誰でも参加できるというものではありません。※基準7と8は特定業種限定

    基準1 世界的に認知されているなど、100GWh以上消費するような影響力がある企業であること。
    基準2 すべての企業活動において再生可能エネルギーの100%利用を達成することに対して、公約する意志があること。
    基準3 基準2の「すべての企業活動」の定義は、GHGプロトコルに則ること。
    基準4 企業はグループ単位で参加する必要があるものの、子会社のうち条件を満たす場合は参加の例外として認められる。
    基準5 RE100が決める最低限の期限を設けた達成のための戦略を持つこと。
    基準6 毎年「CDP気候変動」の質問表のフォーマットで報告書を制作し、進捗状況を事務局に提出する必要がある。その情報は、第三者監査を受けなければならない。
    基準7と8 発電事業や、再生可能電力設備の製造などを行う企業に関する条件で、収入の大半を発電によりまかなう企業、および再生可能エネルギー電力設備を製造する企業に関しては、その参加について別途条件が定められている。

    RE100の日本の窓口であるJCLP(日本気候リーダーズ・パートナーシップ)ではこの内容を要約してFAQで参加条件をこう説明しています。

    1. グローバル又は国内で認知度・信頼度が高い
    2. 主要な多国籍企業(フォーチュン1000又はそれに相当)
    3. 電力消費量が100GWh以上
    (※現在、日本企業は10GWh以上に緩和されています。)
    4. RE100の目的に寄与する、何らかの特徴と影響力を有する

    (引用)よくあるご質問(RE100) | JCLP | 日本気候リーダーズ・パートナーシップ

    現在、RE100の加盟企業はどんどん増えており、この記事の下調べをしている段階でも公式サイトの数が増えていたりします。

    著名な内外のグローバル企業が次々と参加している理由は、もちろん第一に地球の気候変動を防ぐためではありますが、冒頭で書いたようにいまは投資家のほうも「持続可能な会社に持続可能な投資を行う」ことを重視する傾向が増えており、環境対策にしっかり取り組んでいることをアピールして企業の評価を高めておかないと、今後の資金調達に影響が出てくる懸念が出始めているからです。

    RE100は中小企業にとっても重要です

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    RE100の加盟条件を考えれば、中小企業がRE100に加盟するのは難しいと言えます。ですが、RE100は中小企業にとっても重要です。
    なぜなら、RE100の加盟企業のなかには、取引先にも再エネ化を求める企業もあるからです

    例えば、RE100の加盟企業の一つであるイオンは、提携企業にも再エネ化の協力を求めています。同様に、RE100の加盟企業のアップルでは、取引先を選ぶ基準として、その企業が再エネ化に取り組んでいるかを含めると公言しているそうです。

    今後、「環境への取り組みが評価され、大手企業からの支援を得られた」という話が出現するかもしれません。ビジネスチャンスを逃さないためにも、今後は中小企業でも再エネ化の取り組みが重要になってきます。

    ちなみに、冒頭で少し触れたESG投資とは環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資のことです。その中には環境だけでなく、労働環境の改善や女性の幹部登用なども含まれています。
    いまの時代は大企業は投資家に、中小企業は取引先に、企業としての在り方そのものが問われるようになってきたと言えるのかもしれません。

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    (画像:大和証券