単位の歴史(11)~化学の単位「mol」は数字にすると6000垓(がい)!~

    単純に言えば1molは6000垓(がい)

    molヘッダ画像Yahoo知恵袋で「mol」(モル)を検索すると、問題の解き方や「意味が解らない」という質問が山のように出てきます。ですが、私たちはもう学生ではなく、受験生でもありません。(違ったらすみません・・・)そこで今回は、化学の単位「mol」について、試験には役に立たない雑学的な説明をしてみます(笑)

    言ってしまえばmolというのは単純に6.0×1023 という数字のことです。つまりお米が6.0×1023 粒あればそれは1molで、半分なら0.5molです。本当はそれだけなんです。

    1023 が6個あるわけですから、1molを実際の数字で表すと「0」が23個並ぶ600,000,000,000,000,000,000,000になり、読み方は6000垓(がい)です。現在の地球人口が77億なので、1molは今の地球が約78兆個あったときの合計人数というイメージになります(頑張って計算しました)。そう言われれば数の大きさが直感的にすぐ理解できますが、それは「兆」や「億」という見慣れた単位に数字を置き換えたからです。

    何でもそうですが、数字を長く並べるよりも、特定の単位に変換した方が、処理が簡単で理解もしやすいですよね。文章でも10,000,000,000と書かれるよりも100億といわれたほうがピンとくるように、原子や分子の数も特定の単位に置き換えて、話をシンプルにしたのがmolです。

    ちなみに日本の単位(数詞)は以下のように4乗ずつ増えて行きますので、10の23乗であるmolは1垓(がい)と1jo(「じょ」または「し」)の間にあることがわかります。

    漢字 読み 乗数 表記
    いち 10の0乗 1
    じゅう 10の1乗 10
    ひゃく 10の2乗 100
    せん 10の3乗 1,000
    まん 10の4乗 10,000
    おく 10の8乗 100,000,000
    ちょう 10の12乗 1,000,000,000,000
    けい 10の16乗 10,000,000,000,000,000
    がい 10の20乗 100,000,000,000,000,000,000
    jo じょ(し) 10の24乗 1,000,000,000,000,000,000,000,000
    じょう 10の28乗 省略
    こう 10の32乗 省略
    かん 10の36乗 省略
    せい 10の40乗 省略
    さい 10の44乗 省略
    ごく 10の48乗 省略
    恒河沙 こうがしゃ 10の52乗 省略
    阿僧祇 あそうぎ 10の56乗 省略
    那由他 なゆた 10の60乗 省略
    不可思議 ふかしぎ 10の64乗 省略
    無量大数 むりょうたいすう 10の68乗 省略

    molという言葉の始まりと由来

    私たちが日常生活において、このように超巨大な数字を扱うことはありませんが、世の中にはこの数字が重要な意味を持つ人たちがいます。それは原子や分子などを研究している化学者です。

    原子と言うのはそれ以上は分解できない極限レベルまで物質を細かくしたもので、その元素の特色を失わない範囲で細分化できる微粒子の最小単位です。それをもっと細かく見ると、原子は原子核とその周囲をぐるぐる回る電子から成り、さらにその中心となる原子核はプラスの電気を帯びた陽子と中性子からできています。

    そういった研究分野の実際の実験や論文では、化学反応の正当性や正確性のために原子量や分子量が常に言及されますが、桁数が膨大に多くなってしまうと扱いにくいため、変換に適した単位に置き換えて表現を効率化したのがmol(モル)の始まりになります。

    molという言葉はドイツ語のMolekülに由来し(英語ではmolecule=モレキュール)、ラテン語の「mole(塊)」「cula(小さい)」を語源とする「分子」を意味する単語です。私たちがつかっているmolはドイツ語ですが、英語圏ではmoleと書き、これにはモグラやホクロという意味もあるようです。

    molの数字の根拠は何?

    さて1molは6.0×1023 のことですが、この数には根拠があります。

    質量数12(陽子と中性子の合計が12個)の炭素原子を「12」という質量数に合わせて、12グラムの重さの分だけ集めた時に、そのときの原子の数が6.0×1023 個であることが詳しい研究によってわかったのです。(炭素原子には質量が12でないものもあります)

    これはほかの原子(分子)にも当てはまり、質量数(陽子と中性子の合計)が10の原子を10グラム集めたときも、20の原子を20グラム集めたときも、原子の数は常に6.0×1023 個ということがわかりました。

    つまりどんな重さの原子でもを6.0×1023 個集めると、その原子の質量数と同じグラム数になります。原子はそれぞれに重さが違うので、同じ個数を集めても当然重さは異なりますが、逆に言えば、原子を6.0×1023 個集めた時の重さ(グラム換算)がその原子の質量数(陽子と中性子の合計)になります。

    この発見により、物質の重さから原子や分子の量を求める計算が簡略化され、それ以後は化学反応の研究が正確になってスピードも大幅にアップしたのです。そこで6.0×1023 が原子量や分子量の基準値「mol」となりました。こうして1molの物質に含まれる原子は6.0×1023 個という定数が決まりました。

    molは誰が考えたの?

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    ヴィルヘルム・オストヴァルト(1853 – 1932)(画像:Wikipedia)

    molの提唱者はドイツの化学者でラトビア出身のヴィルヘルム・オストヴァルト(1853 – 1932)です。

    オストヴァルトはオストワルトあるいはオストワルドとも呼ばれ、触媒作用・化学平衡・反応速度に関する業績で1909年にノーベル化学賞を受賞した人物です。

    オストヴァルトは有機化学が全盛だった時代に物理化学を推進しました。彼の興味は物質の製法や構造、用途ではなく、熱力学、反応速度、エネルギーなどについて解き明かすことだったのです。そして気体の研究を通してmolの概念を思い付きました。

    ですが何をどう勘違いしたのか、molのアイデアが浮かんだことで、原子論(すべての物質は原子からなる)を否定する立場になりかけました。けれどブラウン運動の実験を見て、やっと原子論を受け入れられるようになったそうです。

    ちなみに、1molに相当する6.0×1023 はアボガドロ数と呼ばれていますが、これを定義したのはアボガドロではなく、のちの化学者ペラン(1870 – 1942)だそうです。

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    アボガドロはこんな人です

    molもアボガドロ数も、肝心のアボガドロ本人はまったく関与しておらず、今まで関係があると思っていたのは私の勘違いだったことがわかりました^^実はこの記事を書くまで、ひと目見たら忘れられないアボガドロの肖像画を先に準備していたんですよね。なので、せっかくですから最後にご紹介だけしておきます。

     

     


    参考:モルって何? – 化学における数の数え方 化学【5分でわかる】物質量・モル(mol)の考え方とアボガドロ定数 What You Need To Know About The Mole, An Important Chemistry Idea Wilhelm Ostwald: Discoveries & Contribution to Chemistry など